第65話 魔王 VS 勇者

 * * * 視点:勇者VS魔王 * * *



生来イクルが、他次元ゲルドの神と戦いだしてすぐに。


アキトも、魔王ゼアルと剣を交えていた。


他次元の神が、魔王ゼアルの身体から追い出されたとはいえ。


どうやら、魔王ゼアルの意識は、他次元の神に浸食されたままの状況らしい。


アレス、スタン、セリア、イライザ、ソニアの5人で結界を張っているのに、魔王ゼアルがアキトに襲い掛かったので。


慌てて、セリアが熾天使眼セラフィム・アイで魔王ゼアルを見たところ。


魔王ゼアルが、他次元世界の神からの支配が完全に消えていないとの事だった。


視点は定まっておらず。 しかし、剣筋は鈍っておらず。


他次元の神と比べて、剣速も動き自体も遅くなったと言え。


十分に、手強いと言えるレベルだった。



「少しづつ、魔王ゼアルを覆う黒いもやの様なのが薄れてるから。


もう、数分もすれば消えるはずよっ!」



《もっと正確な時間教えてよっ!》


っと、内心で思ってしまうが。


声に出して言う余裕などアキトにも無い。


ほんの数分前まで、他次元の神憑きドーピング状態の魔王ゼアルと戦っていたのだ。


2段階変身弱体変化されての連戦状態。


身体中が悲鳴を上げているのを実感している。


幾度となく、魔王ゼアルと剣戟を重なるアキト。


《ん?》


魔王ゼアル死闘を繰り広げていると。


アキトが微かに違和感を感じる。


《あれ??》


結界は、まだ効いていない。


他次元の神ドーピングの影響が切れれば、セリアが皆に知らせて結界を張り直すから。


《大分、薄れてきたけど。 まだ時間が掛かりそうだわ。》


セリアが、魔王ゼアルを見て、そう思った時だった。


アキトの神剣が魔王の胴体を薙ぎ払った。


「「えっ!?」」


アキトと、セリアの、間の抜けた声が。 見事に同じタイミングで吐き出された。


「「「・・・・・・・」」」


イライザ、ソニア、スタン、アレスの4人は。 一瞬、理解が追い付かずに沈黙。


「えぇ~~っと・・・倒せちゃった?」


アキトが後ろの5人を見ながら言う。


「結界。効いてなかったわよね?」


「うん」


セリアの言葉に、微妙な表情で返事を返すアキト。


「なんで?」


主語は無いが、なにを言いたいのかはアキトにも判る。


「えっと。 さっきより剣速が遅くなってきたから。 いけるかな?って思って・・・」


どうやら、要約すると。


他次元の神憑き魔王ゼアルと剣を交えていた事によって。


アキトが戦いの中で、他次元の神憑き魔王ドーピング状態ゼアルの剣速に慣れてしまい。


2段階変身(弱体化)した、魔王ゼアルの剣速に戸惑ったのも最初の内だけで。


他次元の神憑きの力が弱まっていくにつれて、魔王ゼアルの剣速を完全に見切れてしまったようだ。


床に倒れる魔王ゼアルの方を見ると。


魔王ゼアルの姿が、徐々にではあるが、男性から女性へと変身を始めていた。



 * * * * * * *



他次元の神ゲルドの攻撃を、受け止め受け流しながら、イクルも攻撃を繰り出す。


イクルの身体には、致命傷こそは避けているものの。 結構な数の傷は身体中に刻まれている。


さすがに、イクルも結界の維持をしながら、これ以上は無理だと思い。 奥の手を使う。


(ブースト。)


イクルが、思考の中で、そう唱えた瞬間。


イクルの存在値が上昇していく。


ギンっ! っと甲高い音を立てて、他次元の神の剣を、イクルのカタナが弾き返した。


その、イクルの様子を見て。 他次元の神ゲルドが、ニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべる。



ブースト:シオンがイクルに回数制限付きで、存在値の底上げを出来るようにしたもの。


 所謂いわゆる、自己バフだとでも思ってくれればいい。



「ほほおぉ。 格を上げたのか?」


ニヤリと言う。表現が合いそうな顔で、イクルを見て口角を上げる他次元の神ゲルド。


「今更。正々堂々とか、卑怯だとか言うなよ。」


イクルも負けじと、ニヤリと口角を上げてゲルドを視線を向けて言う。



客観的に見て。 今の状況なら、イクルの方が優勢な存在値を持っている。


「言わないさ。」


そう言って、他次元の神ゲルドの存在値が上がる。


(ちっ。 隠し玉くらい持ってるよな・・・。)


元人間のイクルとは違い。 元から神格を持っている他次元の神ゲルド。


そこに、の力が加わっているのだ。



「卑怯とか言うなよ。」


ゲルドが、イクルを見て口角を上げながら言う。


「言いたいよ。」


その瞬間、ゲルドの姿が消えて。 ガインっと。右手に持つイクルの刀が、ゲルドの剣を受け止めていた。


目は離していなかった。


単に、ゲルドの動きが早すぎて、消えたように錯覚しただけだ。


上下左右から襲い来るゲルドの剣戟を、イクルはわずかに目で追える剣筋を半分以上感で受け止めきる。


ドンッ! っと音がして。凡そ、金属同士の音がぶつかり合う音とはかけ離れた音と共に、イクルとゲルドが立って居た床が瓦解する。


床が崩れて行く中で、2人の身体が宙に浮く。


だが、重力に反して。 2人の身体が下に落ちる事は無く。


イクルの囲った結界の中で、2人の身体は空中に浮かんでいた。



(ん~。どうすっかねぇ・・・。)


ゲルドと距離を取り。


睨み合う形で、空中で構える。


ゲルドの目的は。


イクルが追い詰められて。 結界を解き、自分と全力での闘いをさせる事。


そのため、今のゲルドは、ワザと手を抜いている。


その気になれば、イクルに深手を負わせる事も出来るのだろうが。


敢えて、手を抜きイクルを追い込もうとしている。


そして、それはイクルも理解していた。


結界を解けば、ゲルドと同等の存在値を出せるだろう。


しかし、結界を解くと。 アキト達が巻き込まれて死ぬ。


神人と為ったばかりとは言え。 イクルとて神人の本質を忘れている訳では無い。


神人の本質とは、を降す事であって。 その為には、何をも犠牲をいとわない。


しかし、神人に為ったばかりと言う事も在って。


今のイクルには、かなり人間寄りの精神状態に近い。


これが、アキト達との付き合い時間が短かったのなら。


神人の使命感が優先されて、アキト達を簡単に見捨ててもを降しにかかったのだろうが。


如何いかんせん。


アキト達と過ごした時間は、イクルの深層意識の中で捨てがたい物と為って居た。


を降す優先順位の意識の方が上なのだが。 アキト達も助けたい。


この矛盾した心境こそが、神であって神で無く。 人であって人で無い。 神人かみびとと言う存在なのだ。



その時。 イクルとゲルド。 そして、アキト達に声が聞こえた。

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