第64話 家族

「翔子さん・・・」


妻の姿を見て、思わず呟く様に声を出す生来イクル


いま、生来イクルの目の前には。


妻の翔子しょうこ。 長男の霧晴きりはる。次男の孝也たかや


それと、武彦叔父さんと、菜々美叔母さんの実子の義信よしのぶ義兄さんが居る。


生来イクルさん!?」


俺の姿を見て、翔子さんが驚きの声を上げる。


「え!? 親父!?」


「父さん!?」


霧晴きりはると、孝也たかやも釣られて声を上げた。


因みに、俺と翔子さんは、夫婦だけど。


お互いを呼ぶ時には名前で呼び合っている。


相手を敬遠してる訳では無い。


お互いが好きだからこそ、名前で呼び合っているのだ。


いつまでも、お互いの愛情を忘れないために。



「お久しぶりです。 翔子さん。」


「いっくん・・・いっくん!!」


翔子さんが、若かりし頃のの呼び方で、泣きながら俺の胸に飛び込んできた。


俺と翔子さんの抱き合う姿を見て、霧晴きりはる孝也たかや


それに、義信よしのぶ義兄さんも冷ややかな視線を受けていた。


仕方がないでしょう。 俺も翔子さんも、還暦近いけど、お互いが好きなんだからっ!」


「うぅ・・・いっくん・・・・いっくん・・・。」


ただ、ひたすらに。 俺の名前を連呼しながら俺を抱きしめる翔子さん。


俺は、翔子さんを優しく抱きしめながらも、翔子さんの頭を何度も撫でる。


「親父。1つ良いか?」


霧晴きりはるが尋ねてくる。


「1つで良いのか?」


内心で、もっと夫婦の愛情を確かめさせろよと毒つきながらも、霧晴きりはるに言う。



「なんで、若返ってるんだ?」


霧晴きりはるの言葉に、孝也たかや義信よしのぶ義兄さんも、コクコクと首を上下に揺らしている。


「実はな・・・。」


帰宅中の電車の中で、うたた寝してたら違う次元の星の草原に放り出されていたこと。


獣人族の人たちに助けて貰い、地球からの転生者達に出会った事。


魔人族の王。 魔王が死んで、新しい魔王が他の種族を根絶やしにしようとしている事。


転移者として、勇者アキトが転移して来た事。


そして、何故か。 魔王に興味を持たれて、魔王に殺された事。


こっちの星で死んで、神人かみびとと言うのに生まれ変わった事。


その影響で、若返ってしまった事。


俺は、此処いま迄の経緯いきさつを掻い摘んで話した。



生来イクルさんだけズルいです。」


俺の説明に、翔子さんが言う。


「ズルいって言われてもなぁ~。」


苦笑しながら、翔子さんにキスする俺。


「ん・・・・」


「父さん・・・」


生来イクル。 お前なぁ~・・・。」


孝也たかや義信よしのぶ義兄さんが冷ややかな視線を送って来る。


「あっ!そうだ! 義信よしのぶ義兄さん!


武彦叔父さんと、菜々美叔母さんも居るんだぜ!」


そう言って、横で黙り込んで、俺たちを眺めていた2人を指さして伝える。


「はぁあっ!?」


義信よしのぶ義兄さんが、俺の指さした方に視線を向ける。


「はっ!? え!? 父さん? 母さん? え? マジで!?」


髪と瞳の色こそ違えど。 そこには、義信よしのぶも知っている、若かりし頃の2人が居る。


「おぅ! 元気してたか!?」


義信よしのぶくん。 元気してる?」


2人の言葉に、義信よしのぶ義兄さんは、速足で2人の元に近づいて行く。


「父さん・・・。 母さん・・・。」


俯いて、絞り出す様に声を震わせる義信よしのぶ


強く両手を握りしめて震わせる。


「実はな。 義信よしのぶ。」


「ふっざけんなよぉ~~っ!!」


何の前触れも無く、渾身の右ストレートで武彦を打ち抜いた。


「ぐぼぉおお!」


顔面にパンチを貰いうずくまる武彦。


「なにっ! 親父まで若返ってるんだよぉ~~! 俺も混ぜろやっ!」




 * * * * * * *


     閑話休題。


 * * * * * * *




「えっと。ゴメン・・・。 取り乱した・・・。」


目下。 正座して頭を下げている義信よしのぶ


所謂いわゆる。 土下座しろっ! の状態で謝っている。


うん・・・。そう言えば、ファンタジー物が大好物だったな。 義信よしのぶ義兄さん。


それと翔子さん・・・。


若返った、俺と武彦叔父さんを目を血走らせながら交互に見て。


「生×武か? いや、この場合は武×生か?」


等と小声でハァハァと息も荒く言わないでくれ。 全部聞こえてるからねっ!


霧晴きりはる孝也たかやも、面白そうに見てないで止めてくれよ。


いや・・・。 無理だな。 ああ為った翔子さんは誰にも止められない・・・。


伊達に、町内会での【鬼腐人会きふじんかい】会長をしてない。




 * * * * * * *


     閑話休題。


 * * * * * * *




俺たちは、結構な時間を、その場所で会話しながら楽しんだ。


お互いの、今までの状況を混ぜながら。


「さて。 そろそろ行かないと。」


そう言って、立ち上がった俺を、翔子さんが悲しいそうな目で俺を見詰める。


「ゴメンね翔子さん。 そろそろ、行ってやらないと、勇者アキトがきつそうだし。」


「うん・・・。判ってるから。」


俺の手を支えにしながら、翔子さんも立ち上がる。


向こう地球で、良い人を見つけてね。」


生来イクルさんより。 良い人なんて、見つけにくいわよ。」


そう言って、目に涙を溜め込む翔子。


俺も、そう思うよ。 見た目は良いけど、性格しゅみに難が在り過ぎる。


まぁ、それでも。 見つからないでは無くて。 見つけ難い。と言う辺りは翔子さんらしい。


最後に、翔子さんを抱き寄せてキスをしようとした時だった。


翔子さんの顔つきが、若返っていた。


「今生の別れだ。 ささやかな贈り物プレゼントだよ。」


カルドラが、俺の視線に気が付いて言う。


(有り難う。 カルドラ様。)


そのまま、若かりし頃の翔子さんと、舌を絡め合っての長めのキスをする。


「さよなら・・・。」


「さよなら・・・。」


俺と、翔子さん。 どちらから。 と言う訳でもなく言い出した言葉。


霧晴きりはる。 孝也たかや。 母さんを頼むな。」


「おう。」


「父さんも元気でね?」


孝也たかや


霧晴きりはるは無言で近寄ってきて言う。


「来年から瑠香るかも小学生だよ。 舞も元気にやってる。」


「そっか。 あんまり舞ちゃんを困らせる・・・・。」


なよ。と、言いかけて言葉を詰まらせる。


「ふっふふ。 どっちかと言えば、困らされているのは俺の方だけど。」


「だったな。」


「母さんの事は任せてて。」


「ああ。約束だぞ。」


「うん。約束する。」


「じゃ。元気でな。」


「うん。」


涙を流しながら答える霧晴きりはる


多分。俺が姿を消して、一番苦労したのは霧晴きりはるだろう。


ここ迄の、苦労やら何やらがゴッチャになって涙くらい出るわな。そりゃ、


次に、武彦叔父さんと、菜々美叔さんの方に向き。


「お世話になりましたっ! 今まで、有難うございましたっ!」


腰を深く折って、感謝の言葉を。


「おう。元気でな。」


「元気でね。」


最後に、義信よしのぶ義兄さん。


「俺の家族を宜しく お願いしますっ!」


腰を折り、深く頭を下げて言う。


「おうっ! 俺の分まで異世界満喫してこいやっ!」


気合充填完了っ!


そして、生来イクルの姿が消えた。

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