第62話 加速する思考の中で

突然だった。


唐突とうとつに、生来イクル以外の動きが止まったように感じた。


「貴方の体感する時間速度を数億倍にまで加速させました。


貴方は、神人かみびととして誕生まれ変わります。」


目の前に、白い霧の様な物が出現して、イクルの目の前で若い女性の姿に為る。


年の頃は、24~28くらいだろうか。


長い銀色の髪に、黒い瞳。


目鼻立ちは整っており、身長は170前後で胸は小ぶり。


神人かみびと?」


「神で在って人で在り。 神で無くて人で無い存在。


それが神人かみびとです。」


「謎掛けですか?」


「いいえ。 それが神人かみびとの本質。」


女性の言葉が終わる瞬間。 生来イクルの中に流れ込む大量の情報。



神人かみびと


神は基本的に成長はしない。


存在した年数経過で、幅を広げる事は出来ても。


個としての成長はしない。


何故なら。 完成された存在が神だから。


完成されたもの・・は成長の余地が無い。


だが。 人間ひとは違う。



人とは未完成のかたまりなのだ。


未完成で短命ゆえに。 その成長速度は無限とも言える可能性を秘めている。


その未完成の塊りに、神の力を備えたもの・・


それが神人かみびと


神人に寿命は無い。


そして、死ぬことも無い。


いや。 死ねない。


死んだとしても、世界の何処かにPOP湧く


そう。 まるでゲームの中で、突然POP湧くMOBモンスターの様に。


POP湧く場所は、神人には選べない。


神人がPOP湧く場所は、その世界が必要とされる世界


そして、消滅すらも許されない。


神人が、神人から解放される手段は。


【無】に帰る事だけだ。


神人が産まれる瞬間とき


それは、次元宇宙のことわりが助けを求める時。


その次元宇宙で、次元宇宙の神が処理しきれない何かが生まれた時。


もしくは、次元宇宙に迷い込んだ時に、神人かみびと召喚誕生する。


生来イクル神人かみびとに為ったのは。


単純に、この次元宇宙の平行する。どの星にも、神人が存在しなかった故に召喚では無く誕生した。


それに、神人とは。 ある意味【蟲毒こどく】でも或る。


神人かみびとと近しい者同士が戦い合い。 相手をくだす事で神人かみびととしての存在値を格上げしていく。


神人かみびとが格を上げて行く事で、【無】とも渡り合えるような存在になる。



【無とは。】


【無】とは元から無い事を示す。


記憶。記録。存在。そのものが最初から無かった事になる。


星。人。神。宇宙。次元宇宙。


あらゆるモノ・・が無かった事になる。


それが【無】。



その【無】を【無】に還す事の出来る存在。


それが、【神人かみびと】。



「貴方は、私が選んだ5人目の神人かみびと。」


「5人目?」


またもや、イクルの頭の中に記憶が流れ込んでくる。



神人かみびとの中でも、始原の神人かみびとと呼ばれる存在。


Seone


生来イクルの居た地球文明よりも、遥かに超越した科学文明と魔法文明とが共存した地球。


精霊を媒体に、人の細胞を組み合わせて人工的に作り出された生命体ひと


人で在りながら、人でない存在。


その時だった。


突然、生来イクルの視界と言うか、記憶の中と言うべきなのか。


1人の男性が現れた。



「よっ! お前が、時空神に選ばれた新しい神人かみびとだな。」


軽く右手を上げて、生来イクルに挨拶をする。


「貴方は?」


「俺か? 俺は・・・。そうだな、お前の記憶で言う所の、始原の神人かみびとってヤツ・・だ。」


「Seoneさん!?」


「ん~。確かにSeoneだが。 今はシオンと名乗っている。」


《#Se1__シーワン__#をモジッてシオンね。》


「安直だろ。」


そう言って、笑うシオン。


「貴方も思考が読めるのですね・・・。」


「まぁ、俺は色々と特別なんでね。


ちなみに、俺は。 この次元宇宙には存在していないからな。」


「はい?」


シオンさんの言葉に間の抜けた声が出てしまう。


「お前とは違う所の次元宇宙に居て、お前の居る次元宇宙の場所すら知らん。」


なら、何でと思った時。


「お前の記憶に割り込んだ。」


「はぁ?」


また、間の抜けた声が出てしまう。


「簡単に言うとだな。


お前の居る次元宇宙が、お前に神人かみびととしての記憶を植え付けている途中で、お前の記憶に強引に割り込ませて貰った。」


《無茶苦茶だっ!》


「あぁ。 無茶苦茶だ。 だが、それが出来るのが始原の神人かみびとばれる所以ゆえんだ。


他の神人かみびとには無い能力チカラを持っている。


それが、俺。 始原の神人かみびと。」


「えっと。 それで、俺の記憶に割り込んできた理由は?」


「なにな。 超~~、久しぶりに。 時空神が、新たに誕生させた兄弟分に、サクッと死なれたら面白くないんでね。


俺の格を少しだけ分けてやろうかと。」


そう言って、俺に近寄って、右手を俺の頭に乗せる。



やっべっ! むっちゃ怖い! 無意識の内に、身体中の筋肉が縮こまって、蛇に睨まれた蛙って感じだっ!



心臓はバクバクと心拍数を上げて。 身体中から体温が抜けて寒気がするのに、所構わず汗が滲み出てくる。



「OK。OK。 神人かみびとしての本能が、俺を恐れている。」


そう。 神人かみびとは蟲毒だ。


戦い合って、神人かみびととしての存在値を格上げしていく。


その神人かみびととして生まれたての俺の本能が、このシオンにはかなわないと告げている。


シオンの右手から、俺の中に何かが流れ込んでくる。



「あっ! があああぁぁぁああああああっ!」


身体中が痛みで悲鳴を上げる。



「ぐっ! つ! ああああああ!」


「ちょっとの辛抱だ。 それじゃぁな。 縁が在ったら、また逢おう兄弟・・!」


それだけ言うと、時空神とシオンさんの姿が消えた。




 * * * 次元の狭間の中 * * *



「余程、気に入ったみたいね。」


「強くなるぞ。 アイツは。」


「貴方の、お墨付きを貰うなんて。 苦労しそうね。」


秭時間ときを生き抜けば。 神音かのんを追い越すくらいには育つと思うぞ。」


秭の時間を以てしても、貴方には程遠いと。」


「当たり前だろう。 俺がどれだけの時間ときを過ごしている思っているんだ。


恒河沙こうがしゃ阿僧祇あそうぎを通り越して、那由多なゆたの域に入っていると思うぞ?」


「自分でも把握していないと・・・。」


「途中から、数えるが面倒になったんだよ。


次元神あんただと、無量大数むりょうだいすうでしょうが・・・。」


「女性の歳を推測するなんて邪推じゃすいですよ。」


「俺の、思い描いた姿だけどなっ!」


「もうちょっと、胸を大きくしてくれても良かったのですが。」


「誰に会うんだよっ! ボッチ神がっ!」


「酷い・・・」


ヨヨヨ、と言った感じで下を向く次元神。


「まぁ。 久しぶりに次元神あんたに逢えから良しとしますか。」


「ツンデレ・・・。」


「はいはい。」


「もっと、会いに来てくれても良いのですよ。」


「気が向いたらな。 もう、1人のボッチ神にも宜しく言っといてくれ。」


「ええ。」


「それじゃ。」


「またね。 シオン。」


そう言って、2つの存在が消えた。





★ 数の単位 ★


いち じゅう ひゃく せん まん


おく ちょう けい がい


し:じょじょう こう かん せい さい ごく


恒河沙こうがしゃ 阿僧祇あそうぎ 那由多なゆた


不可思議ふかしぎ  無量大数むりょうだいすう


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る