第58話 正体

「我が魔王では無いと?」


「僕は、そう思ってます。」


イクルの言葉に、アキト、セリア、ソニア、スタン、イライザ、アレンが頷ずく。


「ならば、何だと申す。」


「貴方は、精神アストラルサイドの存在。」


ゼアルの問いに答えたのはセリアだった。


いつもは掛けている眼鏡を外して、魔王ゼアルを見据えている。


熾天使眼セラフィム・アイか。」


セリアの眼は、この世の物ではない物を見る事が出来る。


普段セリアがメガネを掛けているのは、精神側アストラルサイドの物を見ないようにする為。


「それと、もう1つ。」


今度は、アキトが言葉を放つ。


「さっきから、カルドラの恩恵を受けた5人が結界を張っているのに。


貴方には結界が作用していない。」


勇者が魔王の魔素を浄化する存在ならば、他にカルドラの恩恵を受けた者たちの役目。


それは、結界を5人で張り、魔王の動きを封じ込める事。


その5人が、部屋に入って魔王の存在を確認して、即座に結界を張ったと言うのに、魔王ゼアルは普段と変わらぬように手足を動かしている。


「改めて、お聞きしますよ。自称・・魔王様。


貴方は何者ですか?」


「ふむ。我からも問うて良いか。」


「僕が、答える事が出来る質問なら。」


「お主こそ何者だ。」


「勇者と同郷から、カルドラに呼ばれた訳でもない、ただの異世界の転移者次元の迷い人です。」


「ただの異世界転移者次元の迷い人か・・・。 それが、おかしいのだ。」


ゼアルの言葉に、イクル達が不思議そうな表情になる。


「偶然に、他の次元に迷い込む?


そんな訳が無かろう。


次元の壁を超えるには、必ず何かしらのチカラが働く。


その力とは、神の力で在ったり。世界の意思で在ったりとするがな。


答えろ。 貴様は、何に呼ばれてこの世界に来た。」


《どう言う事だ? 何かに呼ばれて俺は、この世界に来たのか?


何に? カルドラ? いや違う。 カルドラに呼ばれて来たのはアキトだ。


なら世界? このフォーリアに呼ばれた?


だけど何の為に?》


色々な思考が、イクルの頭の中を駆け回る。


その為に、魔王の言葉に気が付くのが遅れてしまう。


《いや、待て・・・。 今、魔王は何と言った?


次元の壁を超えるには、何かのチカラが必要だと言った。


そして、そんな事を知っているのは、神か世界の意思だけ?》


この考えに至って、イクルの頭は急速に冷静に為っていくのが自分でも理解できた。


「質問に答えられなくて申し訳ない。


僕が、何かに呼ばれて来たのだとしても。


それは、この世界のカルドラチカラじゃない。


もし、あなたの言う通りなら。


僕は、このフォーリアに呼ばれたと言う事になる。


もっとも、なぜフォーリアに呼ばれたのかは分からない。


けど、代わりに分かった事が在りますよ。


魔王ゼアル。


貴方は、他の次元の神ですね?」


イクルの言葉に、敵味方関係なく、その視線が魔王に集まる。


「ふはははっ! つい言葉を滑らせてしまったな。


その通り。


我は、このフォーリアの次元とは違う次元を渡って来た、神と呼ばれる存在よ。


なればこそ、こういう事もできる。」


そう言って、立ち上がり。 その場に居る全員に向かってチカラを解放する。


その瞬間。 イクルとカルドラの加護を受けている者以外の全員が床に倒れ伏した。


「ルカ!」


ソニアが、倒れたルカの息を確認するが。 ルカの鼓動は既に止まっていた。


「う・・・そ・・・。」


放心したようにルカを見つめるソニア。


イライザと、スタンが素早く周囲の者たちの息を確認するが、誰の鼓動も確認できない。


「ふむ・・・。不思議おかしいのう。 何故、貴様は死なぬのだ?」


魔王ゼアルが、イクルを見ながら言う。


カルドラの加護も無く、なぜ生きておる?」


「神の貴方に判らないのに。 僕に分かるはずが無いでしょう。」


至って冷静に返事を返すが。


内心、イクルは焦りまくっていた。


このフォーリアの最高戦力である人たちが、何も出来ないまま殺されてしまったのだ。


生き残っているのは、神の加護を受けいる、アキト達6人だけ。


そこに、何の力も能力も持たない自分が生き残ってしまっている。


恐怖で腰が抜けて、動けなくなっていないだけ賞賛して欲しいくらいだ。


ガギンッ!!


固い物と固い物がぶつかり合う音が響く。


いつの間にか、アキトが神剣で魔王に切りかかっていた。

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