第57話 ゼアル

「それでは、今回の談義を終了します。」


ゼアルの言葉と共に、部屋の中に居た者たちが退出していく。


「はぁああ。」


部屋の中に1人の人物しか居ない事を確認してから、ゼアルは盛大に息を吐き出す。


「お疲れさん。」


「本当に疲れたよ・・・。」


「大変だな。お前も。」


「そう思っているならオルファン。是非とも代わってくれ。」


「無理言うな。あの老害連中を押さえられるのは、お前くらいだろうに。」


「確かに老害だわ。まったく。 何が魔人族至高主義だ。


時代遅れもはなはだしい。


今や、種族間の壁など無いに等しいと言うのに。」


「そう言った連中を押さえるのが、お前の役目だろう。」


「ふん。誰が好きで、こんな役目をやると言うのだ。


辞めれるなら、とっくに辞めているさ。」


「ほんと。あんな連中でも、国の中枢を担っているんだから厄介だよな。」


アレ・・を、俺以上に抑え込んでいる、魔王様の心労が伺えるよ。」


「はは。確かに。」


魔王腹心の部下で在り。魔人族至高主義の議長でもあるゼアル・ファークリフト。


代々のファークリフト家の者たちも、魔人族至高主義の議長を務めていた。


そして、ファークリフト家の者たちは、歴代の魔王を多数輩出している家柄でもある。


現在の魔王を務めているのも、ゼアルの叔父だ。


だから、爵位も王族の次に高い公爵家。


だが。 その実は。


ファークリフト家の者たちは、魔人族至高主義の者たちを上手くなだめて、他の種族と戦争にならない様にする為に誘導していた。




 * * * * * * *



「叔父さん・・・早すぎるよ・・・。」


魔王崩御。


その知らせは。余りにも突然にゼアルの元に知らされた。


昨日まで普通に話していて、特に変わった前兆も無かった。


側仕えの給仕の話だと。


突然。そう本当に、突然に苦しむ様に胸を押さえたかと思えば、そのまま息を引き取ってしまったと。


暗殺の説も出たが。


魔王の警護は抜かりなく完璧で。


食事の時の毒見も抜かりはなかった。


中には呪いだと噂吹く者も居たが。


その手の防護もしていた。


ただ。 魔王が死んだ。


その事実だけは変わりなく。


後継者問題だけが残った。


次期魔王の最有力候補は、国王の息子の第一王子のキアラ。


そして、次にゼアル。


だが、ここで問題が起こってしまった。


今までゼアルが押さえ込んでいた強硬派の連中が、ゼアルを全面的に後押ししてきた。


この強硬派の行動によって、第一王子のキアラを支援する勢力と、ゼアルを支援する勢力の立場が入れ替わってしまい。


ゼアルが魔王に為る可能性が、ほぼ確定してしまった。



「叔父さん・・・。 俺はどうしたら良い?」


前魔王の叔父である墓前の前で、ゼアルは1人 たたずみながら、返事の返って繰る筈のない墓に向かって問いかける。



今までは、直接的な権限が無かったから、強硬派の連中を透かしてなだめてやり過ごす事が出来たが。


自分が権限を持ってしまうと、それも難しくなる。


いや。 出来なくなると言っても良い。


ゼアルの理想としては、キアラが魔王になり。


自分は、今まで通りに強硬派の連中を抑え込む役をになうつもりでいたのだが。



『ふむ。 この身体なら持ちそうだな。』


「誰だ!?」


突然、聞こえた謎の声に反応して周囲を見渡すが。誰の姿も見えない。


周囲には、歴代の魔王の墓が並べられていて。


その墓の高さも、膝下くらいの高さだ。


『ほう。我が声が聞こえるとは。同調シンクロ率も良いらしい。』


「何者だっ! 姿を見せろっ!」


『その身体。使わせて貰う。』


「ぐがっ!? があぁぁぁぁぁあああ!!!」


突然、ゼアルの胸に痛みが走り、余りの痛みに耐えきれずに、その場にうずくまってしまう。


「あがっ・・・あああああああああああ。」


いつ終わるとも知れない痛みに耐えるゼアル。


しかし、終わる事のない痛みに、ゼアルは意識を手放してしまい動かなくなってしまう。


数瞬後。


ゼアルの指先がピクリと動く。


そして、ゆっくりと立ち上がると。数度、手を閉じたり開いたりを繰り返す。


「ふむ。悪くない。 むしろ馴染んでいると言っても良いな。」


自分の身体を動かしながらゼアルが呟く。


「それでは。世界を壊すとしようか。くくくっ。」


そう言って、墓前を離れて行くゼアル。



その数日後に。


魔王が、他の全種族に対しての宣戦布告を行なった。

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