第56話 魔王と勇者

魔王ゼアルは足を組み、膝に肘を載せて、イクルの話を面白そうに聞いていた。


イクルの言葉にも、ゼアルは無言のまま。


「それと、もう1つ。 貴方は、本当に魔王なんですかね?」


ゼアルに対して言ったイクルの言葉に、その場にいた全員が「なに言ってんのコイツ?」って反応を見せる。


「魔人族の王だから魔王。


そう言った、意味では間違ってはいないでしょうが。


僕が言いたいのは。 魔王ゼアル。


貴方は、魔人族なのですか? って意味なんです。」


ゼアルの背中には2対の翼が在る。


それは、紛れもなく魔人族の証。


「大体にして。 今回の事には、不可思議な事柄が多すぎる。


戦闘後の被害を考慮しない戦い方と言い。


他種族を滅ぼそうとしてたり。


同族を支配できる事と言い。


1000年前と、500年前の魔王と余りにも違い過ぎてませんか。


魔王ゼアル。 異質過ぎるんです。貴方は。」


イクルとて、何の確証も無く言っている訳では無い。


何せ、イクルの側には、1000年前の勇者に付き添った生き証人。


聖母竜マザードランのシノンが居るからだ。


そして、彼は聞いた。


魔王とは何なんなのかを。



 * * * * * * *



魔王。



それは、魔人族を統べる王。


そして、このフォーリアでは、もう1つの役目をになう。


アニメや漫画などで、魔王と呼ばれると。


なんだか人類の敵と言う悪者のイメージが浸透しているが。


この星フォーリアでは違う。


以前に、イクルが魔素酔いで倒れたことが在る。


その魔素と呼ばれる物は。


魔法を使うと、魔力の使いカスが出る。


それが。魔素。


この魔素。


実は、一般的には知られていないが。


魔素が溢れすぎると、人体に悪影響を及ぼしてくる。


その魔素を、このフォーリア中から集めて自身の中に溜め込む。


その役割を担うのが魔人族。


魔人族が、他の種族より魔力が多いのは、これが理由だ。


そして、その中でも特に多く魔素を溜め込む事が出来るのが【魔王】。


そして、普通の魔人族や魔王も、普通は魔素を宿したまま寿命を終えたり事故や何かで死亡する事の方が多い。


体内に魔素を宿したままで死亡すると、魔素は死亡者と共に消滅する。


その為に、このフォーリアが魔素で溢れ返る事はない。


だが、何事にも例外が在る。


稀に魔人族の中に、大量過ぎる魔素を取り込み過ぎて、死亡するよりも先に魔素が体内から溢れ出てしまう事が在る。


その際に、多少の凶暴性が増して好戦的に為る。


地球で言えば、ストレスが溜まり過ぎて、情緒不安定に為って居ると思ってくれれば言いだろう。



ならば、勇者とは何か。


魔王が、魔素を体内に取り込む存在なら。


物語で、魔王の対極に位置する勇者。


魔王の体内に溜まり込んだ魔素を浄化できる存在。


それが勇者。


イクルは、過去の文献などで、魔王に対する事柄を調べた。


だが、どの文献や古文書を読み漁っても、魔王が暴れるとか、魔王が恐怖をもたらしたと言う記録は書かれていない。


にも、関わらず。


殆どの文献や古文書には。


勇者が魔王を倒した。と記されているのだ。


確かに、倒す=殺す とも解釈できるが。


しかし、旅の途中経過や、勇者の冒険譚とかも残っていない。


なら、勇者が魔王を倒すとは、一体どういう意味なのかをシノンに聞いた。


勇者がカルドラから授かる神剣神刀


その神剣で魔王を切り着けると、魔王の身体には一切の傷が残らずに、魔素だけを体内から浄化する事が出来る。


ただ、その際に魔王なる人物は生まれ変わる。


「生まれ変わるって何よっ!?」


っと、イクルも思わず突っ込み気味で聞いた記憶がある。


魔素を体内で浄化された魔王の最後とは。


記憶が無くなり。 容姿も性別も、全くの別人になってしまう。


「魔王様が、記憶をなくして性転換しました。」


などと言う、情報を流す訳にもいかず。


その結果が、魔王を倒す。と、言う結果になって残ってしまった。



* 余談 *


勇者と英雄。 どちらも英語で発音するとヒーローと出てくる。


何かを為そうとする者。勇気在る者。と、言う意味で勇者と呼び。


何かを成し遂げた者を英雄と呼ぶ。





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