第54話 魔王様と顔合わせ
パーシバルに着いて、階段を上がって暫く歩く。
勿論、会話などない。
少し大きめの、両開きの扉の前で止まる。
「この扉の向こう側に陛下。
つまりは現在の魔人族の王ゼアル様が居らっしゃいます。
私の役目は、貴方たちを中に入れて。
「それ以降は敵に回ると?」
パーシバルに尋ねたのは、スタンだ。
「正直。私は理解しかねております。」
そう言って、扉に視線を向けるパーシバル。
「同族を
今、この城で、自分の意思で行動できる者は、私を含めて8人しかいません。
その内の3人は、他種族を魔人族よりも劣る劣等種族だと思っております。」
そう言った、パーシバルの表情は苦しそうに歪んでいた。
「貴方は違うのですか?」
「何も。魔人族全体が、他種族を見下している訳ではありません。
それは、貴方たちも御存じのはずです。」
「ええ。 そうでなければ、魔人族と他種族との間に子供など出来ていませんね。」
「私と、もう1人。宰相のエルレイン。それと、2人の将軍は、今の状況でも、他種族との共存を望んでいます。」
「そうですか。」
「こちらから戦を仕掛けておいて心苦しいのですが・・・。
勇者殿・・・。」
スタンから、アキトに視線を移し見るパーシバル。
しかし、そこから先の言葉は
「僕は。僕の守りたい者の為に戦うだけです。
貴方たちや、他の人たちの事情何て知った事じゃない。
だから。 僕は、僕の意思で魔王を倒します。」
パーシバルでは無く。 アキトは自分自身に言い聞かせるように言う。
そのアキトを見て、パーシバルは扉の方に視線を戻すと。
両手に力を入れて、扉を開いていく。
* * * * * * *
丁度。 アキト達が。
魔王の居る、謁見の間に向かっている頃。
イクルは、エルレインと共に、魔王の前に転移で現れた。
玉座には、若いが、風格を備えた魔人族の男性が座っている。
エルレインは、すぐさま膝を折り
「陛下。 転移者を連れて参りました。」
イクルも、エルレインに見習い礼を取る。
「
魔王ゼアルが言う。
「それでは。 遠慮なく。」
そう言って、イクルは立ち上がると魔王を見据える。
そのイクルの様子を見て、礼を取ったままのエルレインは「えっ?」っと言葉を漏らしてしまう。
それも、そうだろう。
自分よりも遥かに格上の存在に向かって、いくら発言を許されとは言え。
まさか立ち上がって、発言をするとは思っていなかったのだ。
「お初に、お目にかかります陛下。
僕は、イクル。 イクル・タカナシ。 陛下も御存じの通り、転移者です。」
「余は魔人族を束ねる王。ゼアル。」
「ゼアル陛下に、お聞きした事がございます。」
「申してみよ。」
「陛下は、なに故に、他種族を滅ぼそうと御考えで。」
「劣等種を滅ぼす事に意義があるのか。」
イクルと、ゼアルは視線を外さずに見ている。
「これは申し訳ありません。 質問の仕方が悪かったようです。」
少しの間を開けて、再び口を開くイクル。
「なに故に、この星。フォーリアの種族を滅ぼそうとなさる。」
「・・・・・・・・」
イクルの言葉に、ゼアルは答えようとしなかった。
その代わりに、口角を上げて面白そうな表情をする。
「何を言っているのだ? お前は?」
代わりに、言葉を出したのはエルレインだった。
驚愕した表情で、エルレインが、イクルを見る。
「あれ? 魔人族の宰相とも在ろう御方が、本当に気が付かなかったと?」
イクルの表情は、意地悪な笑みでエルレインを見ていた。。
「言って置きますけどね。 エルレインさん。
人族、獣人族、亜人族、の頭の回る者たちは、気が付いているんですよ。
もしも本当に。 魔人族が他の種族を滅ぼした場合。 どういった結末が待っているのかを。
それを、魔人族の宰相を務める貴方が理解していないと?」
イクルの言葉で、エルレインの頬を、一筋の汗が流れる。
そう。 エルレインも、途中から気がついては居たのだ。
ただ、気が付かない振りをしていた。
自分たちの王ならば。
そんな馬鹿な真似はしないだろうと。
結果が見えてくれば、滅ぼすような事はしないだろうと。
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