第53話 魔人族の
魔王城の中でも、アキト達は魔人族に遭遇する事なく進んでいた。
もう、ここまで来ると。誰の目から見ても、明らかに誘い込まれていると判る。
少し大きめのホールに出た。
ホールの奥には階段があり。
階段の前では、若い魔人族の男性が1人立っていた。
「お待ちしておりました。 勇者ご一行様。
パーシバルと言う者でございます。」
右手を胸に当て軽く頭を下げて、アキト達に挨拶をするパーシバル。
「魔王の元にまで案内してくれるのかい?」
声を上げたのは、アレス。
「はい。その通りでございます。 ですが。
さすがに、この人数で、押し寄せられても迷惑ですので。
少しばかり、選別させて戴きたく思います。」
そう言い切った瞬間。パーシバルから、膨れ上がった魔力の波がホールを覆った。
そして、魔力の波が過ぎた後に、その場に立っていたのは32人だけだった。
「意外に、残りましたね。」
パーシバルの言葉に周囲を確認すれば。
20人ほどは床に倒れ。過半数は、床に膝を突いて辛うじて意識を保っている者。
また、立っている者でも。 大多数は、辛うじて膝を突くのを耐えている感じの者。
「一応、立って
はっきり申し上げまして。 辛うじて立って居られる方は、お
魔王様は、私以上の魔力を当ててこられるので。
それでも、魔王様に御目通りしたいと言うのなら。
無理には御停めしませんので、お好きになさってください。
それでは、こちらに。」
そう言って。 背中を向けて、階段を登っていくパーシバル。
* * * * * * *
エンスト王と別れて、自分に用意された部屋に戻ろうと廊下を進む。
ドアを開けて、部屋の中を見れば。
1人の女性がソファーに座っている。
「やあ。 君が転移者だね。」
開口一番に、そう言ってきた。
一瞬、身構えて。 腰の剣に手を伸ばしかけて辞めた。
王城には、転移防止と空からの侵入に対しても結界を張っている。
どちらの経路で侵入したのかは知れないが。
この部屋に居る時点で、イクルが抵抗しても無駄な力量なのは想像に
「それで。 魔人族の方が、僕に何か御用でも?」
そう。 女性の背中には、2対の白い翼が畳まれている。
「おっと。 コレは失礼。
魔人族の国で、宰相をさせて貰ってる。
そう言って、立ち上がって、左胸に右手を当てて軽く頭を下げる。
「それは、どうも。 僕は、イクル・タカナシ。
貴方の言う通りの転移者です。」
イクルも、同じ様にエルレインに右手を胸に当てて頭を下げて挨拶をする。
そして、エルレインの前のソファーに腰かける。
「驚かないのかい?」
「いえ。 十分に驚いてますよ。」
「反応が薄いね。」
「驚き過ぎて、3周くらい回って。 どう反応して良いのか分からないだけです。」
「誰も呼ばないの?」
「悟られない様に潜入したのでしょう。
それに、僕を殺す気なら。
部屋に入る前。もしくは、部屋に入った瞬間に殺してるでしょ。」
この結界を壊すことなく、更に城の兵士たちに悟られる事なく。
この部屋に侵入してる時点で、イクルは詰んでいるのだ。
現存する最高戦力たちは、今は魔王城。
確かに、騎士たちを呼べば、このエルレインを倒せるかもしれないが。
コッチ側の被害も大きくなるのは目に見えている。
「それで、僕に何か用でも?」
「単刀直入に言うけど。 魔王様が、貴方に会いたいって事で。
「一応、聞きますが。 僕に拒否権は?」
「嫌なら嫌でいいよ。 無理やり連れて行くだけだから。」
「それって、拒否権は無いって事ですよね。」
肩を
「で? どうする?」
エルレインが言ってるのは、大人しく着いて来るのか、抵抗するのかって事だ。
「着いて行きますよ。 でも、お願いが1つ。
手紙を書いても良いでしょうか?」
「手紙?」
「ええ。 突然いなくなると、皆が心配するのでね。」
そう言って、エルレインの目の前で手紙を書く。
と言うか。最早、書置き程度の内容だが。
「それだけで良いのかい?」
書かれた内容を見て、エルレインが呆れたように言う。
「ええ。 それでは、行きましょうか。」
そう言って、エルレインの側に立つ。
「そんじゃ、行くよ。」
「あっと! 言い忘れていましたが。
僕は魔力が無いので、転移の際には誰かに触れていないと、一緒に転移されないので。
失礼ですが、腕を掴んでも良いでしょうか?」
「どうぞ。」
「それでは。 失礼して。」
そう言って、エルレインの腕を掴む。
「飛ぶよ。」
「宜しく、お願いします。」
はぁ、と一息溜め息を吐きながら。
(調子が狂う・・・)
と内心で思いながら、転移魔法を発動させて。
その場から、エルレインとイクルの姿が消えた。
残された書き置きには。
【 魔王からの迎えが来たので。 ちょっと会いに行って来ます 】
とだけ。書かれていた。
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