第49話 災難は突然に:10

城から出て、ようやく自分の家に着く。


ウザソとナンさん。


それに、ウザソの所の料理長も一緒に着いて来ている。


元々、フィオナの元に、フィオナが作っている料理を教わりに来てたのに。


ウザソが、フィオナを軟派したので、その話が流れてしまい。


なら、俺が教えてやると言ったら。 フィオナまで付いて来た。


既に仕込みは終わって、後は作るだけなので、フィオナが居なくても大丈夫だとか。


まぁ、俺が口出しする問題でも無いので。 黙っているが。 良いのか?それで?


シノンさんと、セツの事は、家に帰って落ち着いたら話すと言っている


「ただい・・。」


「あっ! イクルさん! 助けてください!」


ドアを開けたとたんに、アキトが俺の姿を捉えて寄って来た。


今度は何だ・・・。


軽く頭痛のする額を指で挟んで、揉みほぐしながらアキトに尋ねる。


「ソニアと、イヤソさんを止めてください!」


「ソニアと、イヤソ?」


「イヤソが来ているのですか? イクルさん。 イヤソは私の妹です。」


居間に向かうと、部屋の中では。


ソニアと、ウザソの妹のイヤソがキャットファイトをしていた・・・。


「セリア。 この状況は?」


ソファーに座って、紅茶を飲むセリアに尋ねる。


「アキトを巡っての女の闘い。」


簡潔で解かり易い説明を有難う御座います。


ウザソと、ナンの2人は、ソニアと、イヤソのキャットファイトを見て固まってしまっている。


フィオナは、呆れかえった表情だ。


ってか、良いのかコレ?


姫と公爵令嬢がキャットファイトって・・・。


頭痛が酷くなってきた。


「2人を止めてください。 僕が止めようとしても、逆にヒートアップするだけで。」


まぁ、アキトの事で揉めているのだから、アキトが止めに入ると火に油を注ぐよな。そりゃ。


「あぁ~・・・。」


「放っておきなさい。」


イライザが俺を止める。


「良いのかアレ。」


「良いのよ。 子供の喧嘩レベルなんだから放っておきなさい。」


「一応。 王族と公爵令嬢なんだが?」


「陰でネチっこくやられるよりはマシだと思うわよ。」


ごもっともで。


「あと1時間も、やり合えば体力が尽きるでしょう。


さすがに、身体強化魔法フィジカル・マジックを使いだしたら止めるわよ。」


「是非、止めてくれ。」


じゃないと、家の中が滅茶苦茶に為る。


「それじゃ、ひと段落付いたら。ウザソが妹を説得してくれ。」


「えっ!?」


「ナンさん。 台所に行きましょうか。」


「あとで説明しなさいよ。」


さっきから、セリアが俺を睨んでいる。


理由は、シノンさんと、セツ


「判ってる。」


台所で、ナンさんに説明をしながら料理法を教える。


今日の晩のメニューは、山菜うどんに、チャーハン。


もう一品に、豚肉風生姜焼き。


それと生野菜。


うどん出汁ダシはキノコ類で風味を付けて。


チャーハンは、卵のみ。


豚肉の代わりに、猪型魔獣の肉を使用。


生野菜には、ゴマダレ風味のドレッシング。


デザートにはプリン。


「本当に、大した食材は使っていないのですね。」


ナンさんと、ウザソの所の調理長が感心したように言う。


「因みに。 ホーデン王国の王族たちも、この程度の食材だけを使っていますから。


今回は。 スープの代わりに、うどんで代用してますが。


要は、良い材料を使うのではなくて。


如何に、今在る材料で美味しい物を作るかの工夫です。


スパゲティー系の料理には。 パスタの代わりに、うどんを使用しても代用が効きますよ。


異空間収納袋マジックバックに入れて置けば。


生野菜に、卵や牛乳なども日持ちしますし。」


そう言いながら、フィオナとナンさんに手伝ってもらいつつ、出来上がった料理を居間の方に持って行く。


その時だった。


突然、何の前触れもなく。 俺の視界がブラックアウトした。




 * * * * * * *




目を覚ますと。自分のベットで横たわっていた。


両隣に感じる、心地よい違和感を感じながら右に顔を向ける。


隣にはシノンさん。


シノンさんの身体に腕が当たっているが。


服の感触が感じられ無いから裸なんだろう。


左に顔を向けると、同じく裸の状態のセツが、俺の横で寝ている。


「目が覚めたか。」


シノンさんが、目を開けて身体を起こし、俺を見ながら言う。


「ええ。 どのくらい気を失っていたのですか?」


かすれた声で、シノンさんに尋ねる。


「丸1日ほどかな。喉が渇いているだろう。


水を飲むと良い。 慌てて飲まない様に。 ゆっくりと飲むようにな。」


「ありがとう。」


差し出されたコップを手に取り口に水分を運ぶ。


冷たすぎない水が、乾いた喉を潤してくれる。


「ふぅ~。」


一息つきながら、シノンさんの方に視線を向ける。


シノンさんの上半身の裸体が視界に入る。


整った顔立ちに、白い肌に小ぶりながらも形の良いバスト。


「もう少し、動揺するのかと思っていたが。」


「期待に沿えなくて失礼。」


「そんなに魅力が無いのか?私は?」


「魅力的ですよ。 僕が後10歳は若かったら、迷わず襲って返り討ちに逢うくらいにはね。」


ニッコリと笑顔で言葉を返す。


「その割には、欲情していないのだが・・・。」


「まぁ。今更、女性の裸で慌てふためく歳でも無いですからね。」


俺の腹の虫が鳴る。


「軽いものを作り置きしてある。」


そう言って、裸のままベットの外に出るとメガネを掛けて、テーブルの上に置かれてあるトレーを俺の目の前に持ってくる


当然。俺の視線は、シノンさんの女性の大事な部分に目が行く。


うん。 毛が無いです。 無毛です。 割れ目がくっきりと・・・。


「欲情はしないのだろう?」


「欲情はしていませんよ。」


当然、俺の小さな息子リトルサンも反応はしていない。


「その割には視線を外さないな。」


「そりゃぁ、眼福ですから。 奇麗な物は、見ないと勿体ないじゃないですか。」


「くっ! そう言う所は卑怯だぞ!」


食事の乗ったトレーを俺に手渡すと。


急に照れたように、側に畳んで置いてあったガウンで、自分の裸体を隠すシノンさん。


「っとに。 確かにそれだけ余裕を見せられると。 女性としては腹ただしくなって振り向かせたくなるな!


かと思えば。手の平を返したように褒める。 このっ! 天然タラシっ!」


酷い言われようだ。


それでも、俺の横で寝ているセツを起こさない様に小声だが。


「それで、結局。 俺は何で倒れたんでしょうか?」


食事を口に運びながら、シノンさんに尋ねる。


胃に優しい、御粥おかゆだ。 味付けは塩と柚子ゆず


目覚める直前にでも温めてくれたんだろうか?


うん。 美味い。


「魔素酔いだな。」


「魔素酔い?」


魔力酔いじゃなくて。魔素酔い?


「そうだ。 お前は魔力が無い為に。 知らず知らずの内に、体内に魔素が溜まり込んでしまい。


体内に溜まり込んだ魔素が行き場をなくして魔素が暴れだした結果。 気絶してしまった。」


「魔力酔いとは、どう違うのでしょうか?」



「魔力酔いとは。 自分の持つ魔力以上の魔力に当てられて、自分の持つ魔力が体内で制御できなくなること。


魔力を持っていないイクルは魔力過多で。


対して、魔素酔いとは。 


魔力を持っていない者が、他人の魔力に当てられ過ぎて体内で魔素が溜まってしまう事だ。


その結果、溜まり込んでしまった魔素が、体内で逃げ場を失い意識を絶たれてしまう現象だ。」


「意識を失う程度ですか?」


「いや。 最悪の場合。 


体内で魔素が暴発して、血管が破損したり、心肺機能が停止する事も有り得える。


今回は、体内で暴れる魔素を、私とセツが接触吸収して緩和したので安心しろ。」


おっと。思ってたより危ない様だ。


「有り難う御座います。」


素直に助けてくれた礼を述べる。


「礼には及ばん。」


「魔素を取り込まないようにする方法は?」


「残念ながら。 無い。


出来る限り、魔法を使う人の側に居るのを避ける事くらいだ。」


まぁ、最近は。 三大陸間での問題に追われて、何かと転移魔法の御世話になってたしな。


「大体にして。 魔力を持たない存在自体が稀有けうな存在だ。


私の知ってる限りでは、イクルの他には、初代勇者の晴臣ハルオミ以外には知らないぞ。」


「1000年前の勇者も、魔力を持っていなかったと?」


「ああ。 変わりにハルオミは、超能力サイキックと言う特別な能力チカラを持っていたが。


ハルオミは、その能力チカラで、魔王と対峙して。 見事に魔王を倒す事に成功している。」


なるほどねぇ~。 魔法の代わりに超能力サイキックねぇ。


確かに、進歩しすぎた化学は魔法と変わらないと、誰かが言っている。


魔法、科学、超能力。


確かに、知らない者たちからすれば。 魔法も化学も超能力も、すべてが不思議な存在に見えるのだろう。


そして、俺たちの地球では、超能力サイキックと言う存在は知られてはいても。


1000年前の勇者の様に、世界を救えるほどの超能力者は存在しないと言えるだろう。


いや、俺が知らないだけで、もしかしたら居るのかもしれないが。


1つハッキリしているのは。


初代勇者のハルオミは。 魔力が無くても魔王を倒せた。


まぁ、魔力の代わりに、超能力サイキックなんて能力を持っていたらしいが。


となると。 魔王ってのは何だ?


勇者にしか倒せない存在?


良く他の物語では、勇者と魔王は表裏一体だとか。


勇者しか魔王は倒せないとか書かれているが。


「考え込んでも仕方が無いか。」


ボソリと呟き、残りの御粥おかゆを胃の中に収める。


解からない物は、いくら考えても解答など出るはずもない。


所詮は、推測にしか過ぎないしな。


「それで、お前はどうするつもりだ?」


「今までと変わりないさ。 自分に出来る事をするだけ。」


「今度は、命を失うかも知れないぞ。」


「なら。俺の運命が、そこまでだって事だろう?」


「自分で命を縮める気か?」


「どの道、先は長くないさ。 良くて十数年程度だろう?」


「はぁ・・・。」


何故か溜め息を吐きだすシノンさん。


「パパ!」


いつの間にか、セツが目を覚まして、俺に抱き着いて来ている。


「おはよう。セツ。」


「おはよう!」


おっと! セツがパパと言う単語以外の言葉を話した。

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