第40話 災難は突然に:1

「ちゃんと掴まったか?」


「大丈夫だよ。」


アレスの言葉に返事を返し、アレスの腕を掴んでいるの確認するイクル


「しかし、まさかの転移魔法まで効かないとは・・・。」


俺を憐れむように見るスタン。


そう、転移の魔法まで、俺には効力が無かった。


一番最初に、スタン達と転移魔法でホーデン王国まで転移して来たので。


俺も、てっきり転移魔法だけは別なのかと思っていたんだよ。


三大陸会談の時から、結構頻繁に他の大陸に行かないといけなくなり。


スタンや宮廷魔術師の方々に引っ付いて、亜人族の大陸に転移しようとした時だった。


亜人族の大陸に向かって、スタンが転移を使用したんだが、俺だけが置いてけぼりを食らってしまった。


しかも、素っ裸で置いて行かれたのだから。 焦った事この上ない。


見送りをしてた、ソニアとイライザにセリアの3人は、目の前で起こった事に理解が追い付かず目が点になっていたし。


亜人族の大陸に転移したスタン達は、俺が居ない上に服だけが残った事で、俺が違う座標に飛んでしまったのだと恐慌状態パニックに為って居たらしい。


何で、俺だけが取り残されたのか。


ズバリ。 俺に魔力が無いからだ。


そう。魔力が0の無い俺には魔法が効かない。


検証の結果、俺が転移で運ばれる時には、誰かに触れていないといけないと言う事実が判明した。


そういや、最初の時も、イライザが俺の腕を取ってたし。


今でこそ、目眩はすれど、転移酔いで倒れる事は無くなったが。


最初の頃は、転移の度に倒れる俺を気遣って大抵誰か主にセリアが俺の腕を取ってた。


しかし、人間を辞めていない筈なのに、生物ではなくて異物扱いなのは。 この世界自体に否定されている様で、結構堪えるものがある。


「それじゃ、飛びますよ。」


「イクル。 あまり問題起こしちゃダメよ。」


「善処する・・・。」


セリアに答える俺。


セリアが、俺に向かって、手の平をひらひらと振る。


「なぁ、スタン。」


アレスがスタンの名を呼ぶ。


「なんですか?」


「俺たちだけ、疎外感があるのは、俺の気のせいだろうか?」


「間違っていませんよ。 私達はオマケなんですからね。」


「ほら、そこっ! 拗ねていないで、さっさと行きなさい。」


イライザがスタンとアレスを指摘する。


行こうとしてたのに、引き留めていたのはセリアだと言う事を、藪を突いて鬼が出てきては堪らないので、言葉には出さないが。


心の中で、静かに突っ込むアレスであった。


「では。」


アレスと同じことを思ったのか。 苦笑いを浮かべながら、スタンが杖で地面を軽くたたくと、足元に魔法陣が描かれてスタン達を包み。


次の瞬間には転移をしていた。



 * * * * * *



貴族専用、ホーデン王国内の、レクサス王国要人避難施設シェルター


そんな中の1つ、貴族専用の避難施設シェルター


「もっと、マシな物を出せないのか。」


そう言って、目の前の質素な料理を見て呟く男性。


ウザソ・ウナ・ヤッチャ。


ヤッチャ家、第一嫡男であり。 王位継承権第三位。


年齢は、今年で26歳。


正妻と側室は6人。


「本当ですわ。 いくら非常時とは言え、私たちは公爵ですのよ。


もう少し、まともな食事を用意してくださっても良くては無くて?」


兄の言葉に同意して言うのは、イヤソ・ウナ・ヤッチャ。


ヤッチャ家、第一公女。 王位継承権第12位。


年齢は、今年で18歳。


「お言葉ですが。 イヤソお嬢様。


ホーデン王国の王族は、私達よりも質素な食事を取られておられると聞き及んでおります。


それを考慮すれば、お嬢様方の食事事情は優遇されておられると思いますが。」


老練の男性執事、ナン・チャッテがイヤソに言う。


「まぁ、ナン。 それは本当なのですか?」


「はい。 実際には見た事が有りませんが。


市場の噂では、そう聞いております。」


「ふん。 噂だろう。 どうせ、隠れて自分たちだけは良い物を食しているに違いない。」


「けど、仮に噂通りの食事なら。 一体、どういった食事なのでしょうか?


私、少し興味がございますわ。」


「確かに・・・。 ナンよ。 ホーデン王族の食事内容を知る事は可能か?」


「はい。 特に秘匿とかは されて御座いませんので。 聞けば、教えていただけると思いますが。」


「なら、ナン。 調べてまいれ。」


「畏まりました。」


一礼をして、部屋から出ていくナン。



 * * * * * *



「・・・・と言う事情でして。」


ホーデン王国王城にて、ナンは1人の女生に自分が此処に来た訳を話した。


「ファンナと言います。 王城の調理長を任されています。」


ニッコリと微笑みながら、女性がナンに返事を返す。


「して、如何な物でしょうか?


ご迷惑でなければ、ホーデン王族の方が、どの様な食事を取っておられるのか、教えていただけますでしょうか?」


「ええ。勿論ですわ。 特に秘匿はしていませんし。


でも、出来れば。 そちらの調理長か、料理の心得が在る方の方が、こちらとしても説明がはかどりますのですが。」


「確かに。 それならば、私共の調理長を呼んできても宜しいでしょうか?」


「はい。 昼食を終えてから。 夜の支度に入るまでの時間を空けておきますので。」


かさがさね。 お手を取らせて申し訳ございません。」


「いえいえ。 丁度、時期的にも、他の国々の貴族様達から。


そろそろ問題が上がって来るだろうと、彼も言ってましたから。」


「彼とは?」


「あぁ。 勇者アキト達の保護者をしてる。 イクルと言う人です。


私も、彼から色々と料理の知識を教えていただきました。」


イクルの事を思い、最高の笑顔で答えるファンナ。


「ほぉ。 私は、初めて、お伺いしましたが。さぞや御高名な方なのでしょう。」


「いえいえ。 名目上は勇者アキト達の保護者なんて大業な事を言われてますが。


端的に言えば、只の平民と同じ扱いですよ彼は。」


「はっ?」


ファンナの言葉に、思わず頓狂な声をあげてしまうナン。


貴族至上主義の今の時代。


王制では平民などに、教えを乞う方が珍しいのは言うまでもない。


「あら。 今の ご時世、優秀な者は、例え平民の位でも重宝されるのですよ。」


「それは、帝国や共和国と同じ考えでは?」


「でも、身分的には彼は平民ですが、各王家とも繋がりが在り。


尚且つ、私事ではホーデン王やスミニ王。 それにスラブ帝国の皇帝と言った方とも私的に呼ばれるほどの人材ですよ。


もう1つ、付け足せば。


彼は、どこの国にも属さない代わりに、どこの国とも対等で付き合えると言う事ですねぇ。」


ファンナの言葉を聞いて、益々イクルと言う人物像が分からなくなってくるナン。


「いけないっ! つい、話し込んでしまって。


申し訳ありませんが、そろそろ、昼食の準備に取り掛からないといけませんので。」


申し訳 無さそうな表情でファンナが言う。


「いえ。 こちらこそ、お手間を取らせてしまい申し訳ございません。


それでは、後程に。」


「はい。 お待ちしてますね。」


一礼して、ファンナが離れていく。

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