第39話 と、ある人々の日常

 * * とある、人族の兵士の会話 * *


ホーデン王国の外れにある、警戒を目的に作られた砦。


「どうだ?」


「異常は在りません。」


周囲の警戒にやってた視線を戻し、声のした方に振り返る兵士。


「そうか。」


「そう言えば隊長。 ご結婚、おめでとうございます。」


「ああ、お前とは暫く会っていなかったからな。 有り難う。」


「しかし、何も。 こんな、時期に結婚しなくても。 終ってからでも良かったのでは?」


「ばぁか。 こんな時期だからだよ。」


「はぁ・・・。」


「いつ死ぬか分からないんだ。 子供だけでも残しておきたいだろう。


お前も、終わってから何て言ってると、全てが終わってるかも知れないんだぞ。」


「・・・・・・。」


「守れる者が居るだけでも、生き残ってやろうと思う気持ちが運を呼び寄せる事も在る。


どの道、失敗すれば、3種族に未来は無いと思って良い状況だ。」


「本当に魔人族は、魔人族以外の種族を滅ぼす気なのでしょうか?」


「さあな。 だが、ここ数十年来は、小競り合い程度は何処の種族でもあったが。


ここまで、大きな争いは無かった。


今代の魔王は、今までとは違って見えるのは確かだ。


まぁ、だからこそ、勇者なんて言う存在が現れたんだろう。」


「私たちが知っている歴史では。


500年前と、1000年前の勇者様も。 魔王を討つ為の存在が、勇者だと歴史では教わりました。


なら、一体。 魔王と言う存在は何なのでしょうか?


魔人族の王だから魔王。 私達の認識は間違っているのでしょうか?」


「正直、色々と俺も思う所は在るが。


俺は、自分の大事な物を守りたいし。 最後まで守り抜きたい。


俺自身も、生き残りたいから。


それだけで、俺は手一杯だ。


この戦いを終えて、お前が生き残って居たら、俺達の代わりに答えを見つけ出してくれても良いぞ。


他の場所も見てくる。」


そう言って、その場を離れていく隊長。


兵士は、少しの間、隊長の背を見ていたが。


視線を戻して、周囲の警戒に当たる。


この兵士が、此度こたびの戦いで生き残り、魔王と勇者の真の意味を、このフォーリアに広めたのは、また別のお話。




 * * とある、獣人たちの会話 * *


夜空には、2つの月と星の輝きが街中を優しく照らす。


「子供たちは?」


犬の獣人の男性が聞くと。


「寝てるわよ。」


狐の獣人の女性が答える。


「そうか。」


「ねぇ、あなた。 本当に、あなたも?」


「ああ。」


「兵士じゃないのよ。」


「それでも、幸か不幸か、俺は戦う事が出来る。


正規の兵士や騎士たちには及ばないが。」


「なら!」


「しぃ・・・。」


夫の言葉に、つい声が大きくなってしまった。


「たしかに、俺1人が加わった所で、戦いに影響は無いだろうな・・・。」


「それなら、私たちと一緒に・・・。」


「でもな。」


妻の言葉を遮って、俺は言葉を紡ぐ。


「今度の、戦いで負けると。 俺たちに未来はないかもしれないんだぞ。」


「ねぇ、本当に魔人族は、他の種族を滅ぼす気なの?」


「他の場所の、避難施設シェルターに居る魔人族に影響は出ていないが。


俺は、実際に目にしてるからな。


つい、さっき迄、楽しく話してた魔人族が、突然豹変して兵士たちに襲い掛かったのを。」


この犬の男性の獣人は、イクルとマゾダ外務大臣が試験的に行っていた、魔王軍の魔人族が、他の大陸の魔人族に影響を及ぼすのか。


その時に、魔王側の軍勢の通る道筋で、見つかりにくい場所まで案内したのだ。


幸運と言うべきなのか。


こうした地元民たちの協力も得て、魔王軍の魔人族が影響を及ぼす範囲を調べていたからか。


魔人族が、他の種族の根絶説を発表した時も。 予想よりも、市民達からの疑惑の声が少なかった。


ただ、この発表のせいで、亜人族、獣人族、人族の大陸に移り住んでいた魔人族たちに疑心の目が向けられ。


要らぬ混乱を生み、移り住んでいた魔人族たちを、隔離する形で避難施設シェルターを別に用意する事になってしまった。


「それに、俺たちみたいな市民での志願兵は、基本的には後方支援の中で、更に手伝い的な物だ。


前線に出たいと志願さえしなければ、部隊ごと全滅しない限りは大丈夫だ。


それに、負けたら終わりになるかも知れないんだ。


だったら、俺に出来ることがあるのなら、俺はやる。」


こうして、彼だけではなく、多くの種族の自衛のできる男女市民達が志願してくれた。


後の、三大陸連合と呼ばれる多くの兵士たちの話では。


彼等のような老若男女を問わず、市民達からの志願された者たちの後方支援で、後ろを心配する事なく戦ったと言われている。

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