第38話 仕込み期間

その日、イクルはマゾダ外務大臣に呼ばれたので、彼のマゾダ執務室にやって来た。


スラブ帝国までは、イライザと転移魔法で来ている。


現在イライザは、スラブ帝国の技術部と意見を出し合って技術交換をしている。


城の中も、勝手知ったる何とやらで。


俺の警護と言う形で騎士が1人ついているだけだ。


少し立派な扉の前で立ち止まりドアをノックする。


「マゾダ外務大臣。 イクルです。」


「入ってくれ。」


「失礼します。」


返事を聞いて、ドアを開けて部屋の中を見ると先客がいた。


マゾダ外務大臣に視線で、席に座るように促されたので、彼らの右側に座る。


1人は、亜人族の代表者で妖精族フェアリーのシン・ダカラ。


「やぁ、イクルさん。」


妖精族フェアリーと言うと。


地球での妖精を思い浮かべて、小さな人の形に昆虫のような羽を想像するだろうが。


この星フォーリア妖精族フェアリーは、人族と外見は殆ど変わらない。


なら、何をもって妖精族フェアリーと呼ばれるのか。


妖精族フェアリーは、全員・・女性として産まれてくる。


10年目の年に、女性から男性へ転生。 いや、この場合は、転性性転換?と言った方が良いのだろうか?


妖精族フェアリーの男女比率は、男性が2割で、女性が8割。


この妖精族フェアリーの転性?を知った時には、(妖精じゃなくて、妖性じゃね?)と心の中で突っ込みを入れてしまった。


そして、妖精族フェアリーと異種族間の結婚で産まれた子供は8割の確率で、妖精族では無くつがいとなる種族の子として産まれるらしい。


恐らく、この星フォーリアカルドラは、全ての種族の雛形ひながたとして妖精族フェアリーを存在させているのだろう。


因みに、シンさんは男性ね。


「初めましてです。 土竜モグラ族のドンナ・モンダです。」


「シンさん、お元気そうで。 ドンナさん、初めまして。」


土竜モグラ族のドンナ。


獣人族の避難施設シェルターの数を増やす時に、最大の功績をした獣人族だと言っても良い土竜族モグラ


土竜モグラ族は、獣人族の中でも珍しい種族で、手の部分だけを人型にしたり、獣本来の姿に獣化させる事が出来る。


彼らの活躍で、他の獣人族が隠れる避難施設シェルターと、魔人族たちから隠れる兵士たちの場所が大幅に増設された。


土竜モグラ族は、獣人族の大陸だけでなく、人族と亜人族の大陸にも避難施設シェルターを増設してくれた。


その お陰で、元から広かった亜人族大陸の鉱山型の避難施設シェルターは更に広さを増して、収容できる人の数と物資の量が飛躍的に伸びた。


土竜モグラ族の方には、感謝の言葉しか出ません。


土竜モグラ族の お陰で、人族の食料の問題も、かなり楽になりました。


有り難う御座います。」


土竜モグラのドンナさんに向かって頭を下げる。


「いえいえ。 私達こそ、貴方達の お陰で、前もって避難施設シェルターを広げる事が出来たのですから。」


「それで、シンさんは、どうして此方こちらに?」


「はい。 実は……。」


妖精族フェアリーのシンの話では、亜人族側と獣人族側の兵士たちの隠れ家の準備がおおよそだが整ったことを。


既に、魔人族の大陸での、兵達の隠れ場所の着手にも当たっている事。


正直、各大陸から魔人族の大陸に渡るのが、一番の難課題だ。


人族の大陸から、亜人族、獣人族の大陸へは危険も少なく、渡航距離も2~3日と短いのに対して。


各大陸から、中央に位置する魔人族の大陸へは5日も掛かってしまう。


しかも、魔人族の大陸に近づくと、上空から魔人族が油の壺を落として、その後から火矢で火攻めにしてくる。


ニセカンダル連合が、魔人族に早期に敗れたのも、最初の海戦時に海で魔人族の艦隊と交戦になり。


空中から油を撒かれて、火矢で火攻めにされて、大打撃を受けたからだ。


因みに、魔人族が飛行できるのは、背中の羽で直接飛行するのではなくて。


身体と羽に魔力をまとわせて、魔力で浮力と推進力を得ている。


魔力によっての飛行なので、空中でのホバリングも可能。


飛行高度は、500メートル前後が普通で。 飛行速度は40キロ前後で、飛行時間も1時間前後と短い。


飛行すると魔力の消費が激しくなり。 個体差にもよるが、高度と飛行速度&時間にも差が出るとの事。


魔王だけは特別で、飛行速度は60キロ以上、飛行時間は6時間くらいは可能だと思った方が良いと言われた。


上空の敵に対して有効なのは、弓と魔法と思われがちだが。


弓の平均的な射程距離は150メートル前後と考えればいいだろう。


ただ遠くに飛ばすだけなら、200~300メートルも可能だが。


上空に向かって動き回る的に当てるには相当の技術と予測能力が必要に為る。


まして、重力に逆らって射ているのだから、飛距離なども極端に落ちてくる。


せいぜい、120~180メートルで、矢の殺傷能力は無くなっていると考えた方が妥当だろう。


魔法にしても似たようなもので。


矢系アローの魔法で200メートル前後。


槍系ランスの魔法で、100メートル前後。


爆裂系バーストや、貫通系レイの魔法ですら300メートルが限界だ。


しかも、ホーミング性能は無いにひとしい為に、弓矢と同じく当てるのが難しい。


「魔人族の大陸に、隠れる場所を作るのに。 3ヶ月でどれくらい作れそうですか?」


「作る場所と規模にもよるが。」


俺の言葉に聞き返すドンナさん。


「そうですねぇ。 できれば魔王城に比較的近い所に、百人単位で潜ませる事が理想なんですが。」


「魔王城の100キロ圏内に作るのは無理だぞ。 百人単位の規模だと、1つ作るのに10人がかりで3日くらいはかかる。


ただし、内装とかに気を配らない事を条件にだが。」


「内装には気を配らなくて良いです。 せいぜい5日。長くても10日の期間を隠れて過ごすだけですので。


立って歩けて、身体を横に出来て、快適に眠れる空間を確保できていれば。」


「食糧事情は、前回と同じように優遇しれくれるのか?」


「もちろんです。 基本給金以外に、危険手当付き。


1つの潜伏先を作り終えて、2日の休暇。


食事は1日3食でデザート付き。 お酒も仕事に影響の出ない範囲でなら。」


「高位貴族並みだな。」


そう言ったのは、マゾダ外務大臣。


「敵地に先行しての潜伏作業なのですよ。 これでも足りないくらいです。」


勿論、護衛は着けるが。 それでも、敵の真っただ中。 しかも、魔王城の近くでの作業。


更に、敵は魔人族だけでなく、魔物と言った物まで襲ってくる可能性も高い。


今迄も、日に何人かは大怪我を負って転移陣で転移されて来る。


まぁ、こっちには、死亡して居なければ例え重症でも即座に治せる、反則級チート回復役ヒーラーのソニアが居るからな。


1日に、20~30人くらいは大怪我をしても大丈夫だ。


と、思った自分に対して。


俺の思考も、相当だな。っと、自分で突っ込みをした。

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