第37話 耐える時

三大陸合同会談が終わった後に。


一番早く動いたのは獣人族だった


完全な国家ではなく、名目上での都市国家として中枢部が結成されていたのが幸いだった。


元々、獣人族の大半は狩猟民族で、都市部に住む獣人族の人たち以外は身軽。


心配されていた食糧事情も、白虎ホワイトタイガーのトーマが納める都市以外の三都市の代表者たちが。


もしもの時の状況を想定して、蓄えていたので獣人族全体を半年以上は生き延び得させる量はある。


まぁ、代表者たちの、【もしも】と言う想定を通り越して最悪の状況なのだが。



次に行動を起こしたのは亜人族。


亜人族も、国としての体裁は保っているが。


それでも、人族ほどの国家規模は無く。


一般市民の避難は、多少の混乱を生んだが、それでも比較的に早く収集を着けて、ホーデン王国に少しずつだが避難を開始している。


勿論、中には、住み慣れた地や、自分の財産を投げうっての避難などしたくないと言う人たちも数多くいた。


しかし、魔人族の侵攻が進むに連れて、魔人族以外の種族根絶説が強くなってきて危機感が出てくると。


財産よりも、命優先の傾向が強くなってくる。




そして、これまた最後まで、財と権力にしがみ付いて、命と天秤にかけていたのは人族。


それも、主に貴族と商人と言った、権力と金欲の塊といった人が中心となり。


中には、国に対して批判を煽り、国の頭をげ替えて魔人族との徹底抗戦をうたう者もいた。


そして、三ヶ月が経ち。


三大陸会談での打ち合わせ通りに、徐々に魔人族の侵攻戦線は伸びていき、獣人族、亜人族の大陸の3分の1を占領していた。


人族の大陸にも、魔人族の侵攻が及び、レクサス王国が攻め込まれた。


最初の侵攻時に、ニセカンダル連合諸国の沿岸線は、既に魔人族の手に落ちていたため。


次に攻め込まれるのは、レクサス王国か、バルト共和国の、どちらかに為るのは予想できていた。


なぜニセカンダル連合を占拠して、次の侵攻に向かわなかったと言えば、ニセカンダル連合から、バルト共和国、レクサス王国の、どちらに侵攻するにしろ。


ニセカンダル連合と、大陸中央部を遮るように、南北に渡ってそびえる広がる、スルト山脈を迂回しなければならないからだ。


標高8千メートル~1万2千メートルの山々が、南北に渡って、およそ500キロ近く伸びている。


如何いかに魔人族と言えど、山脈を直接越えて、人族大陸中央部のホーデン王国への侵攻は不可能だ。


この頃になって、ようやく危機感を覚えたのか。


権力と財に目が眩んでいた人たちが、財産を放り投げてスラブ帝国とホーデン王国へ逃げてくる。


だが。


スラブ帝国、ホーデン王国ともに、この者たちを迎え入れる事はしなかった。


既に避難民たちを迎え入れている状態での、三大陸連合の食糧事情はカツカツだった。


兵士たちには、量を調整しての1日3食。


戦う者たちが、いざと言う時に、腹が減って全力で行動できない危険性を考慮しての配給。


王族も貴族も平民も1日2食と、できるだけ平等に為る様に管理はしている。


不満はあるだろうが、この状態で贅沢をしている余裕はない。


節約して2年。 普通に暮らして1年も持てばいい方だろう。


そこに、権力欲と金欲に囚われた者たちが加わるとどうなるのか。 予想に容易たやすい。


だから、非情と言われようが、鬼と言われようが、切り捨てた。


最初に、救いの手は差し伸べたのだ。


それを拒否して、権力と財にしがみ付いた結果だ。


例え、この戦争が終わっても。


そこから各大陸の復興には10年以上の歳月が必要となるだろう。


数千万を生かすために、数万を見捨てる。


民が有っての国であり、国が在っての民でもある。

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