第36話 三大陸合同会談:4

「ま、マゾダ様は御多忙によって・・・」


「ほう。 いつ、儂が、そなたを頼らねばならぬほどに、忙しくなったと言うのかな。」


バカ次官の言葉の途中で、ドアを開いて入ってきたのは。


スラブ帝国外務大臣。 マゾダ・カラモット。 その人だった。


「これは、マゾダ外務大臣。 お早いおつきで。」


「イクルよ。 そう年寄りを苛めんでくれんかの。」


「これは、申し訳ございません。 なにぶん、余りにも酷い人材だったので、目眩を通り越して頭痛がしておりますので。」


「まずは、ホーデン王。 それと、種族代表者の皆様。 この度は、部下の非礼を御詫び申し上げます。」


そう言って、頭を深く下げるマゾダ外務大臣。


「なっ! マゾダ様っ!」


「アブノよ。 弁明はあるか。」


「わっ。私はっ!スラブ帝国の事を思ったからこそ・・・」


「この期に及んで、まだ悪あがきをするか。 救いようが無いな。 外務大臣次官アブノを連行せよ。」


「まって! まってくださっ・・。」


わめく元バカ次官を挟み込むように、マゾダ外務大臣に着いて来た2人の兵士が腕を取って部屋から連れ出していく。



「さて。改めて、もう一度。 今回は、私の不手際で、皆様方に多大な、ご迷惑を犯したことを、心より申し訳なく思います。」


もう1度、代表たちに向かって、深く頭を下げるマゾダ外務大臣。


「マゾダ外務大臣。過ぎた事は仕方ありません。


起こってしまった事を、アレコレ悔やんで後悔するのは悪い事ではありませんが。


今は、それを、次の場に生かす事の方が大事なのでは?


いま、重要なのは。 この場に居る代表の方々に、我々の案を受けてくれる様に説明する事です。


違いますか?」


「合い分かった。 そなたの言う通りだ。


その為にも、私も全力で説明いたそう。」


そう言って、マゾダ外務大臣は、アブノ元外務大臣バカ次官が座っていた席に腰を降ろす。


「それでは。 ここからが本番です。


ルカさん。 皆さんに資料を配っていただけませんか。」


「はい。」


短く返事を返して、ルカさん達メイドが資料を配りだしていく。


先ほどから配られている紙は。


現代の紙のように精錬された紙ではなく、目の粗い藁半紙のような紙だが。


この星では、高級品の部類に入る。



資料が配られたのを確認してから。 俺とマゾダ外務大臣が、各代表者に説明をする。



「正気かっ(ですか!?)!?」


説明を終えた後の代表者たちの、第一声がコレだった。


「正気も正気。 それでは、逆に聞きますが。


他に、良い案を提案できる方はいらっしゃいますか?」


「迎え撃てばいいだろう!」


白虎ホワイトタイガーのトーマ。


「で、上空から油を撒かれて、火を点けられて。 多くの兵と市民の命を散らし。 最後には田畑を焼かれると?」


「だからと言って、何もせずに逃げろと言うのかっ!」


「逃げるのではありません。 反撃する為に、準備を整えながら敵を誘い込むのです。」


俺と、マゾダ外務大臣の考えた作戦。


魔人族を各大陸の半分以上まで侵攻をさせる。


侵攻すればする程に、魔人族側の補給線は必然的に伸びる。


魔人族とて、飲まず食わずで戦う事は不可能だ。


どこかで、休憩を挟み寝食をする。


補給船が伸びると言う事は、戦線に出てくる兵士の数も減る。


兵士も、無限にいる訳ではない。


最終的には、地形的に魔人族から、一番遠い人族の大陸。


ホーデン王国とスミニ王国に市民達を多く囲い。


期を見て、各大陸に散った戦力で魔人族の大陸に潜入して、少数精鋭で撹乱しながら魔王を倒す。


作戦と呼ぶには、余りにも幼稚な戦略。


そして、この作戦で一番大きな障害は。


亜人族、獣人族の大陸に存在する、各都市や主要部族の土地を、一時的・・・にとは言え手放すことに。


当然、そこに住んでいる人たちが納得するかと言えば、納得できるはずが無いだろう。


だから、俺とマゾダ外務大臣は心を悪魔に売り渡した。



この作戦に賛同しないのなら。


好きにしてくれと・・・。



徹底抗戦して、戦って命を散らすのも良いだろう。


土地と財産を取って、魔人族に下って生き残れるのなら、それでも良いだろう。


投降して生き残れるのなら。



魔人族が、侵攻して来た時に、同じ町村に住んでいた魔人族の人たちが。


突然に、つい先ほどまで親しげにしていた人たちに攻撃をした。


これは、魔人族が侵攻をした全ての場所で見受けられた現象。



俺とマゾダ外務大臣は、この報告を聞いて、1つの事柄を念頭に置いた。


【 今の魔人族の王。 つまり魔王は、魔人族と言う種族を強制的に支配下に置けるのではないかと。】


魔人族の男性に協力してもらい。


スタンと、一緒に手足を拘束した状態で、魔人族の侵攻ルートに近づいたことがある。


結果は、見事に当たってしまった。


魔人族の男性は、魔人族の侵攻ルートに差し掛かり、魔人族の姿が見えた頃に突然暴れだした。


敵意をむき出しにしてだ。


一方で、スタンの方に異常は見られる事も無く通常通りだった。


暴れる魔人族の男性を連れて、魔人族の侵攻ルートから、かなり離れると暴れていた魔人族の男性は正気に戻ってくれた。


この結果から、魔王の支配下?かも知れない魔人族の一定の範囲に入ると、味方の魔人族であろうと、瞬時に敵になってしまう。


そして、離れてところで正気に戻ってくれると言う事は、魔王の能力チカラ?に感化された魔人族の一定範囲から離れると効果が薄れる。


この検証を、何度か繰り返して分かった事もある。


魔王の支配下に置かれるのは、魔人族だけで。


魔人族と、別の種族に産まれた子供たちには影響はない。



勿論、この事は、先に配った資料にも、名前は出していないが記されていた。



それにも関わらず、あの元外大臣バカ次官は理解していなかったのだ。


いや、理解はしていても、そんな輩は排除しろと思っていたのかも知れない。


獣人族の白虎ホワイトタイガーのトーマの場合は。


獣人族は、1度自分たちが心を許した者には、裏切られるまで信じる人たちが多い。


特に、個としての強さが大きい程に、その傾向は強い。


その為に、白虎ホワイトタイガーのトーマは、なぜ裏切られるのかが理解できて居なかったと言っていい。


そこに、スラブ帝国騎士のノーマの言葉。


「魔人族以外の種族の根絶。」と言うワードで。


裏切りではなく、自分の意志で反抗はしても、否が応でも支配下に置かれると理解した。


なぜなら、魔人族以外の姿をした、魔人族の血を引いた者たちは居るのだから。


そう。 魔人族と、他の種族の間に出来た【子】も、魔人族としての姿をしていないだけで、キチンと魔人族の血は引いているのだから。


例え脳筋と言えど、仮にも大きな1都市の代表者だ。


通常の人との感性が多少違うだけで、おつむの方が足りない訳ではない。


頭の足りない人に、都市の代表者などは務まりはしないのだ。

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