第28話 と、ある男の少年期:3

「東谷。ちょっとツラかせやぁ。」


陸上部の先輩から呼び出しを食らう。


校舎裏に連れていかれる。


まぁ、ここで、何かあったら、クラブのみんなが見てたので、先輩のせいなのは確定なので、流石に此処では何もしないだろう。


後ろに居る、2人が何やらビニール袋に入れて手に持っているけど・・・・。


ランドセル?


「お、気が付いたか?」


ニヤニヤしながら、先輩が俺に言う。


「先輩に妹さんっていましたっけ?」


「なぁ~に、スッとぼけてるんだよ。 俺に妹が居る訳ねぇだろうが。 おい。」


そう言われて、後ろの2人の片方が持つビニール袋を俺に投げてよこす。


袋を開けてランドセルを確認。



「・・・・・・・・」


3人の先輩はニヤニヤ眺めている。



「ついでに、こっちもだ。」


そう言って、もう1つのビニール袋を投げてよこす。


手さげ鞄に付いているキーホルダー。 修学旅行の時に、俺が渡した紅葉型のキーホルダー。



「2人には、何もしていませんよね? それで、用件は何ですか・・・。」


出来るだけ冷静に。


ここで、暴れても何にもならない。


「まだ、何もしてねよ。 全国大会を辞退しろ。」


(まだね。 俺が辞退すれば、順位繰り上げで先輩が全国に出るって寸法ですね・・・。)


「わかりました。 今すぐにでも、顧問に言って辞退を申請してきます。」


「見張ってるからな。」


「わかってます。 2人の安全の方が大事ですから。」


そのまま顧問の所に向かい、足の不調を訴えて、全国大会を辞退する。


説得するのに多少の時間は掛ったけど、何とか辞退届も受理された。


校門を出て、すぐの所で、先輩3人に合流する。



「2人は?」


「今から案内してやるよ。」


そう言って、連れていかれた先は、工場街にある空き地だった。



「お兄ちゃん!」


「東谷くん!」


妹の瞳と、桂子けいこさんが、俺に向かって言う。


2人の周囲には、6人の先輩が。



「ごめん。 怖かっただろう。 もう、大丈夫だから。」


2人に向かって、出来るだけ笑顔で言う。



「何、終わった気でいるんだ?」


「大会への辞退はしました。 約束は守りましたよ。」


「あぁ! それだけで終わると思ってるのかっ!」


「これ以上、僕にどうしろと?」


「土下座して、俺たちにワビ入れろっての!」


そのまま膝を折って、土下座をして頭を地面に擦り付けるように。


「この度は、先輩方の顔に泥を塗って申し訳ございませんでした。」


「わかりゃあ良いんだよっ!」


そう言って、俺の横腹を蹴り上げる。


「ぐつっ!」


「おらぁ! 土下座崩すなやぁ!」


もう1っ発。 こんどは顔面を蹴られる。


「いぐっ!」


痛みに耐えながら、必死に土下座の態勢に。


「お兄ちゃん!」


「もう辞めてっ!」


瞳が名前を叫び、桂子けいこさんが腕を掴まれているにもかかわらず俺の方に寄ってこようとする。


桂子けいこさんを押さえようと、先輩の1人が桂子けいこさんの身体を引き寄せる。


その時に、桂子けいこさん胸に手が触れたので、そのまま桂子けいこさんの胸を揉みしだく。


「いたっ!」


乱暴に胸をもまれて、苦痛の表情を浮かべる桂子けいこさん。


「おっ、結構デカいな。」


嫌らしい顔つきで、先輩が胸を揉み続ける。



「ぐあぁっ!」


突然、桂子けいこさんの胸を揉んでいた先輩が前方に倒れる。


「お前らっ! なにやってんだっ!」


桂子けいこさんと、妹の瞳の側には、いつの間にか1人の男性が立っていた。


垂水たるみ先輩っ!」


同じ陸上部の先輩で、目の前の不良の先輩とは違ったグループを仕切っている先輩。


垂水たるみ先輩も、短距離走での全国大会への切符を手にしている。


「東谷が突然、大会辞退をしたから、何かと思って後をつけてきたら・・・。 斎藤! おまえ最低だなっ!」


垂水先輩の言葉に、斎藤が顔を顰める。


「垂水先輩! 2人と逃げてください!」


「俺も手伝うっ!」


「この人数じゃ無理ですっ! 2人だけでも逃してください! お願いですっ!」


漫画やアニメじゃ、2対6なんて、余裕で勝てそうだと思うけど。


実際には、そこまで甘くない。


余程の実力差が無い限りは、2対1でも負けは確定している。


小学生の頃のは、普段は大人しいやつが切れて、不意を突いて無我夢中で暴れて何とかなったと言うのが妥当な線だろう。


最悪、ここで垂水先輩が加わっても、瞳か桂子けいこさんが捕まったら・・・。


多分、それこそ・・・・。 俺は一線を越えてしまう自信がある。



「くっ。 5~6分耐えろよ! 吉村が交番に行ってるからっ!」


そう言って、2人の腕を取って、この場から去ろうとする垂水先輩。


「まっ!」


「は~い。 皆さんの、お相手は俺ですから。」


追いかけようとする先輩の1人の顔面を横から殴りつける。


「てめぇ! ぶっ殺すっ!」



そこからは、6人に囲まれてリンチ状態。



吉村先輩と垂水先輩が警官を連れて合流して戻ってくる、僅か5分足らずの時間で俺はボロ雑巾の様になっていた。


そして、またもや病院に担ぎ込まれる事になる。



当然、俺をボコった先輩たちは、俺はともかく、桂子けいこさんの御両親が告訴して、斎藤先輩は少年院に。


残りの5人も監視付きの処分。



この時の怪我。 左脚の靱帯断裂によって、俺は、生涯本気で走る事が出来なくなる。


日常生活では不自由は無いが。

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