第27話 と、ある男の少年期:2

気が付いたら、病院のベットの中だった。


病院から退院して、すぐに病院に逆戻り。


思わずクスッと笑ってしまう。


数時間して、叔父さんがやって来た。


「よっ! 元気じゃないわな。」


「元気なら、病院には居ないと思いますよ。」


くぐもった声で、叔父さんに返事を返す。


「まったく、博仁ひろひとさんも困ったもんだな。怪我した子供を、物置に閉じ込めるって。


 小夜さよも、自分の子供だろうに。もうちっと・・・・。」


母さんの事を言いかけて、叔父さんが言葉を詰まらす。


叔父さんが申し訳なさそうな目で俺を見る。


母さんの、お兄さん。武彦たけひこ叔父さん。


俺が、長期休校の時に、良く世話に為って居る叔父さん。


小学3年の時から、叔父さんが俺の事を見かねて、何かと夏冬休みには、叔父さんの家に呼んでくれている。



「気にしてませんから。 父さんとも、母さんとも。 3年ほど話らしい話もしていないですし。」


「はぁ・・・。 子供のくせに、頭が良すぎるってのも困りものだな。」


「瞳さえ、可愛がって貰えれば、僕は良いんです。」


「可愛くねえねなぁ。」


そう言って、叔父さんが、頭の上に手を置く。


「いっ!」


「悪い!」


「・・・・・」


「なぁ、聖人まさと。」


叔父さんが、急に真面目な顔に為って俺の名を呼ぶ。



「俺のとこの子供にならないか?」


叔父さんの言葉に、肩が小さく跳ねる。


「今すぐには無理だけど。 数年以内には、お前を養子にしたいと思ってる。


義信よしのぶも、聖人まさとが弟になる事に大賛成だ。」


「・・・・・」


「お前。 このままじゃ、いつか間違いを起こすかもしれないからな・・・。」


叔父さんの言葉に、目から涙が出てくる。


父さんとの良い思い出なんて、何1つ無い。


妹が出来てから、初めて家族旅行に行った時も、はしゃいで怒られた記憶しかない。


キャッチボールも、一緒にジェットコースターに乗った記憶も無い。


ウチにはゲーム機なんてものも無いから、一緒にゲームすらしたことも無い。


有るのは、怒っている父さんの顔だけ。


母さんにしても、成績が下がるとヒステリックに怒るだけ。


父さんのする事には口を出さない。


何度か、堂田君と兼子君の家に遊びに行った時に、父さんと仲よく遊ぶ2人を見て凄く羨ましかった。


なんで、うちは、父さんも母さんも、僕と遊んでくれないのだろうと。


自分でも気が付いている。


このままじゃ、多分、僕は駄目に為ると。


最近では、父さんにと母さんを、父母だと思えなくなってきている自分を自覚してきている。


憎しみや、殺意さえ持つことも在る。


多分、最後に待っているのは、親を殺すか、僕が親に殺されるかのどっちかだ・・・。




武彦たけひこオジサン!」


気が付いたら、叔父さんの名前を呼びながら、叔父さんに抱き着いて泣いていた。


「3年・・・。 3年以内に何とかする。 だから【絶対に】間違いを起こすなよ?」


「うん・・・。うん・・・。」



___________



怪我も治り、学校に戻る。


さすがに、苛めっ子たちも、極端な嫌がらせはしなくなってきたが。


一応、釘は指しておく。


妹に手を出さなければ、僕に何をしようが、僕の方からは手を出したりはしないと。



そして、小学校を卒業して、中学校に入学。



入学早々に、先輩方に呼び出される。


小学校で、悪目立ちし過ぎたらしい。


多少、殴られたけど。


この程度は、どうってことは無い。


散々、殴る蹴るの虐めを受けてきたんだ。 舐めないで欲しい。


とにかく下手に出て、先輩方の注意を引かないようにする。


中学では陸上部に入った。


小学の頃から、早起きして走ってたので(主に、虐めっ子から逃げるために)、1年の終わり頃には、中距離のレギュラーに選ばれていた。


非公認ながら、当時の中学生記録を何度か出してたので、クラブ内では持てはやされていた。


勉強の方も、成績を落とさない様に頑張った。


上位とは言わないまでも、絶えず100番前後(356人中)はキープしていた。


不良の先輩方には、ちょくちょく呼び出しを食らっていたが。 とにかく下手に出て、絡まれ過ぎないようにはしていた。



___________




中学2年の春。



小学から想い続けていた、桂子けいこさんにラブレターを書いた。


だけど、渡す事は出来なかった。


出す勇気が無かったとじゃない。


書いたラブレターを机の上に置いて居たら、父さんに見つかって見られた。


そのときの父さんの言葉。


「子供のくせに色恋など早いわ。ボケ。」


そう言って、書いたラブレターを目の前でビリビリに破かれた。


母さんは、それを見て薄っすらと笑っていた。


この時に、自分には恋をする資格も無いのかと思った。



2年の夏。


クラブで、400メートル走の種目を府大会突破した。


次の全国大会で、良い成績を残せば、中体連の目に留まって、オリンピックも夢じゃないかも知れない。


そして、良い記録を残せたら。 今度こそ、桂子けいこさんに告白しよう。


手紙じゃなくて、自分の口から。


これなら、破かれたりはしない。


などと、考えていた時期もあったさ。



全日本中学校陸上競技選手権大会 1週間前。

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