第26話 と、ある男の少年期:1

小鳥遊たかなし 生来いくる


旧姓:東谷ひがしたに 聖人まさと


四国の愛媛県に産まれる。



5歳の時まで、母方の祖父母の家に預けられて。 小学校に上がる時に両親の元に。


この時まで、両親の顔すら知らなかった俺には、突然両親が出来たように感じた。


母親の顔は、何となくだが覚えていたような気がするが。


父親に関しては、本当に覚えすらなかった。



そして、小学校1年の時の身体検査の時に、校医の先生に身長を測られていた時の一言がキッカケだった。



「あなた、頭に白いのが見えるわね。 カビじゃないの?」


この校医の一言で、俺の学校での あだ名は【カビ】。


クラスどころか、学校中に広まってしまい。 小中学校時代は、ずっとカビと言う仇名あだなだった。



もちろん、最初の頃は、自分の仇名が嫌で、クラスの同級生たちに対しても反抗していたが。


低学年で、1人で同級生に喧嘩を売っても、逆にボコボコにされるのがオチだった。


擦り傷、打撲傷などは毎日の様にできた。


そして、身体の痛みよりも、悔しくて泣きながら家に帰ると・・・。



「泣いて帰ってくるなっ! 殴られたら殴り返してこいっ!」


家に帰ると、今度は父親から泣いて帰ってくるなと殴られる。


当然、同級生に殴られるよりも、大人である父親に殴られる方が痛いので、俺は更に泣く。


「泣くなっ!」


泣くと、また殴られる。



母親は、そんな俺を見ても知らん顔。



この年に、俺に妹が出来た。


妹の名前はひとみ



学校では、相も変わらず同級生からの苛めを受ける。


小学3年に為った時、クラス替えで、他のクラスで俺と同じように虐められていた津川と言う女生徒と同じクラスに為る。


この頃から、俺は無駄に同級生たちに反抗しなくなっていた。


反抗しなければ、殴られる事も減ると知ったから。


ある日の事。 津川さんに、男子使徒たちが絡まれていたのを見かけた。


関わらなければ、殴られる回数が減るので、その日は無視を決め込むことにした。


同級生たちが、スカートめくりで津川さんに絡む。


そのうちにエスカレートしだしてきて、スカートを強引に脱がしてパンツにまで手を出そうとしていた。


何人かの苛めっ子たちは、流石に気が引けたのか、遠巻きに見ていたが。


それでも、引かない何人かが津川さんのパンツにまで手を出した。


この時点まで、無視を決め込んでいた俺。


今まで、関わらない事を決め込んでいたのに、この時は何故だか動いてしまっていた。


「やめようよ・・・。 さすがに、やりすぎだよ・・・。」


格好良く、辞めろっ!とか言えればよかったのだけど。


同学年どころか、学校中から虐めの対象とされていた俺に、そんな格好いいセリフなど言える訳でもなく。


出来るだけ、苛めっ子たちを刺激しない言いかたで、こう言ったんだと思う。


「東谷。おまえ津川が好きなのか!?」


此処で、どう言っても、苛めっ子たちに良いように言われるのは分かっている。


「かわいそうだよ。 やめようよ。 ねっ?」


ハッキリ言って、めちゃめちゃ怖い。 でも、後ろで泣いている津川さんを見たら・・・。


「おーい! 東谷が津川の事が好きなんだってよ!!」


クラス中に聞こえる様に大声で言う苛めっ子。


「「「津川が好~き! 津川が好~き! 津川が好~き!」」」


クラス中が大合唱する。


耐えきれなくなったのか、津川さんが自分のスカートを手にして泣きながら教室から出ていく。


「津川の代わりに東谷を脱がせえぇえ!」


その一言で、丸裸にされて、両手両足を掴まれて、衣服を脱がされて、素っ裸で学校中を引きづずり回された。


この日は、久しぶりに家に帰るまでの道のりを号泣しながら帰ったな。


家に帰ってからは、晩飯も食べずに、布団の中で枕を噛みしめて声が出ない様にして泣き続けたな。


声を出すと、父親に殴られるから・・・。


お腹が痛いって言い訳したと思う。



そして、津川さんは・・・。


「カビっ! 向こうに行って!」


数日の間、学校を休んで久しぶりに出てきたと思ったら、隣の席の俺に向かって言った言葉。


津川さんの後ろで、同級生の女子たちがニヤニヤしてるのが見えた。



一瞬で、理解してしまった。


俺の虐めに加われば、津川さんの虐めが減るのだろうと。



「うん。ごめん。」


そう言って、津川さんの席から少しだけ離れるようにする。


「こっちくんなカビ!」


「ごめん・・・」


反対の席の同級生に言われる。 慌てて、少しだけ津川さんの方に戻す。


「こっちに来ないで!」


泣きそうな表情で言う津川さん。


仕方が無いので、自分の席を立って、教室の後ろの方に向かって行く。


途中何度も、同級生たちから、お腹や背中を叩かれる。



授業が始まる。


「東谷。なにしてる。席に着きなさい。」


「はい。」



授業中にも、先生が黒板に書き込んでいる隙に、背中を叩かれたり、輪ゴムで顔を狙い撃ちされたりする。



________



小学5年時に、クラスに転校生が。


双子の姉妹。


廣垣ひろがき 尚子なおこさんと、桂子けいこさん。


この時。 初めて女性に好意を抱いたと思う。


同じ容姿なのに、妹の桂子けいこさんに。



「よろしくね。」


笑顔で俺に言ってくる廣垣ひろがき 桂子けいこさん。


クラスでボッチな俺の席は窓際の一番後ろ。


休憩時間に真っ先に出られないようにする為に、出入り口の側には座らせて貰えない。




「あ・・・うん・・・。よろしく。」


ドギマギしながら、それだけ言ったのは、50を超えた年に為っても鮮明に覚えている。


授業中にも、教科書を貸すと言う名目で、ついつい桂子けいこさんの顔を見てしまう。



桂子けいこ桂子けいこ。」


姉の尚子なおこさんが、桂子けいこさんを呼ぶ。


「なに? 姉さん?」


尚子なおこさんが、桂子けいこの耳に近づけて何かを話す。


桂子けいこさんが、驚いた表情で俺を見る。


分かり切っていた。


仇名がカビの俺。


1年の時に、頭にカビが生えてると言われてから虐めの標的。



「どれどれ?」


そう言って、桂子けいこさんが俺の頭を撫で繰り回す。


何が起こって居るのか分からずに、撫でられたままの状態で桂子けいこさんを見る。


「移ってないわよ。カビ。」


そう言って、桂子けいこさんが、俺の頭を撫でていた手を皆に見える様に広げる。



___________



彼女が来てから、俺の周りが少しづつだけど変わっていった。


虐められるのは相変わらずだけど、少数の女子生徒たちからはカビと言う仇名から本名で呼ばれるようになった。


その時に、津川さんが、泣きながら謝ってきたので「気にしてないよ。」と言ったら、余計に泣き出して、何故か女生徒たちから白い目で見られていた。


男子使徒の友達も少しだけど出来た。


堂田君と兼子君の2人だけど。


だからなのだろうか。


苛めっ子たちが面白く思っていなかったことに気が付かなかった。



小学6年の時に、妹が小学校に入学してきた。


「お兄ちゃん!」


入学して少した頃。 妹が友達を連れて俺の教室に来た。


「美紀ちゃんと、弘美ちゃんだよ。」


友達を自慢しに来たんだろう。


可愛らしく妹が笑顔で言う。


「なんだ!カビの妹か!」


俺の身体を押しのけて、割り込んできて妹を見る苛めっ子たち。


「カビの妹も、カビが生えてるのか。」


そう言って、妹の頭に手を伸ばして、探す仕草をする。


「カビなんてないもん!」


妹が手を払いのけようとしながら言う。


「カビの妹の癖に生意気なんだっよっと!」


妹の頭を押す苛めっ子。


「あっ!」


頭を押されて、妹の身体が・・・・。


ゴツンっという音と共に、妹の頭が机の角にぶつかって・・・。


血が出る・・・。


「いたっ! うわぁぁぁん・・・。」


頭に手を当てて泣き出す妹。



「おまえらああああああぁぁぁぁ! 瞳になにやってんだああああぁぁぁぁあ!!」



そこからは、良く覚えていない。


妹を泣かして傷つけたコイツラを許せなくて、泣きならメチャクチャに殴って蹴ったのは、なんとなくだが覚えている。




先生に羽交い絞めにされて、正気に戻った時には、教室の椅子や机は散乱して、辺りは血まみれ。


虐めっ子たちは、泣きながら俺から離れようと必死だった。



騒ぎを聞いて駆け付けた先生が、俺を止めるの相当手間取っていたと言うし。



俺自身も、相当の怪我をしてて。


苛めっ子たちを殴り過ぎたせいで。 流血は勿論。 左手首骨折、右手の親指、中指、薬指を骨折、肋骨も折っていた。




確か、その日のうちに両親が来て、相手側(苛めっ子たち)の両親に謝罪。


そして、俺は。 病院で数日を過ごして、退院した日に。


父親に問答無用で、相手の子供に大怪我をさせたと言う理由で、家の離れに在る物置に閉じ込められた。


昼に退院してきたので、昼飯も食っておらず。


さらに、晩飯も抜きにされて、飲まず食わずで、どれくらい閉じ込められていたのだろうか。


密閉に近い状態で、外の状況も分からない暗闇の中。


だんだんと、自分の意識が遠のいていくのが分かった。

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