第25話 ユメ

「あんた、頭に白いのが一杯あるわね。 カビが生えてるんじゃないの?」


「うわっ! コイツ頭にカビが生えてるっ! エンガチョッ!」


「きったないわね~! 寄らないでっ!」


「カビが寄ってくるんじゃねぇ!」


「いたっ!」


「カビがいたがってるんじゃねぇ! 近寄るなっ!」


「いたいっ!」


(だったら、殴りに来ないでよっ!)


___________



「殴られたら! 殴り返してこいっ! 泣いて帰ってくるなっ!」


「ゴメンなさい! ゴメンなさい!」


(やだっ! もう辞めてよっ! 痛いっ!)


同級生に殴られて、泣いて帰ってきたのが気に食わないらしく親父に殴られる。


___________



「あんたって子はっ! 少しは丸山さんの淳二君を見習いなさいっ! どんどん成績が上がっていっているのに!」


「ゴメンなさい! ゴメンなさい!」


(算数苦手なのに・・・国語は僕の方が上なのに・・・。なんで、淳二君と比べるのさ・・・。)



___________



「クッ!」


「少し叩かれたくらいで、大げさに痛がってんじゃねえよ!」


「うぐっ!」


「津川菌とカビっ! 菌同士でちょうどいいなっ!」


「うっ・・・。」


「大丈夫・・・じゃないね・・・。ゴメンね・・・。」


「・・・気にしないで。」


(クソッ! 群れなきゃ何も出来ない癖にっ!)


___________


「転校生の、廣垣ひろがき 尚子なおこさんと、桂子けいこさんだ。 みんな仲良くするように。」


(双子の姉妹かぁ。 可愛いなぁ。 妹の桂子けいこさん・・・・。)


___________


「あなた、虐められてるの?」


「そうだよ。 だから廣垣さんも、僕に関わらない方が良いよ。 君も苛めの的にされるから。」


___________


「お母さんっ! お兄ちゃんが怪我してる!」


「絆創膏でも貼っておけば置けば治るから。」


「お父さんっ!お兄ちゃんが!


「子供同士の喧嘩に、親が口出しするのものじゃないから。」


ひとみ。心配すんな。 大丈夫だから。」


___________


「へぇ、カビの妹か。 妹にもカビが生えてるのか? あははは。」


「カビの妹も、カビって事か!」


「カビ! カビ! カビ!」


「カビじゃないもん! お兄ちゃんも私も、カビなんて生えてない!」


「妹カビが、生意気いってるんじゃねえぇよ!」


「きゃっ!」


「おまえらあああああ! 瞳になにやってんだああああああっ!」


___________


「・・・と言う事情で。 息子さんが、相手方の、お子さんに怪我をさせてしまったので。 ご両親からの苦情が来ておりまして。」


「誠に申し訳ございません。 今後、このような事が無いように、キチンと言い聞かせておきますので。


相手側の方にも、後から、お詫びに伺わらせていただきます。」


「お兄ちゃんは! 私を庇って!」


「瞳は黙ってなさいっ!」


「お兄ちゃんは悪くないっ!」


___________


「反省するまで、そこに入ってろっ!」


「お父さん! お兄ちゃんは私を庇って・・・」


「お前は黙ってなさい! いいか! 反省したと思うまで、物置から出すんじゃないぞっ!」


___________


「普段は、殴られたら殴り返せって言ってるくせに・・・・。」


________


「腹減ったなぁ~・・・。 喉も乾いたし・・・・。 暑い・・・。」


_____


(もう・・・・出して・・・・)


__


(ごめん・・・)



 * * * * * *



「イクル。 イクル。」


身体を揺さぶられながら、名前を呼ぶ声が聞こえて目を開ける。


「う・・ん・・・? レイラ?」


「大丈夫か? うなされていたぞ。」


「あ・・・あぁ。 ちょっと夢を見てただけだ。 大丈夫だ。 すまんな。」


「何がだ?」


うるさかったんだろ?」


「あほか。」


「てっ。」


軽く頭を小突かれた。


「仲間を心配するのは当然だろう。」


「そりゃ、どうも。 で、何で俺のテントにレイラさんが居るの?」


「夜這いをして、既成事実を作ろうかと思ってな。」


口角を上げてニヤリと笑うレイラ。


「それ、割と洒落に為ってないんだけど!? レイラに組み敷かれたら、手も足も出ないからね俺!?」


「冗談だ。1割はな。」


「9割は本気!?」


「シャルも喜ぶぞ。」


「っく! そこで娘を引き合いに出すのはズルいだろう。」


「だが事実だ。」


「はぁあああ・・・・。 まったく、レイラと言い。ファルナと言い。 こんなオッサンの何処が良いのやら・・・・。」


「優しい所。 周りに気を使えるところ。 誰かの為に怒れるところ。 子供を大事に思ってくれるところ。 1人の女性を思ってくれるところ。」


「まて、まて、まて、まて! 何だそれは!?」


「お前の良い所だ。 何だったら、もっと言ってやろうか?」


「辞めてくれ・・・。 恥ずかしくて悶え死にそうだわ・・・。」


「貴族としては、子を沢山 残さないといけない事から考えると。私は貴族としては失格なのだろうがな。


だが、1女性としては。 やはり、好きに為った男性には、自分だけを見つめていて欲しいものだ。


それが、お前の美徳でも在るんだから、恥ずかしがらずに誇っても良いと私は思うぞ。」


「・・・・・・。」


「で。 何をうなされていた。」


「言っただろう。 夢を見てただけだって。」


「話せない内容なのか?」


「俺の、子供の頃の夢だよ。」


「それは興味が在るな。」


「物好きだねぇ。」


「なに。 話すだけでも、結構 気が楽になる時も有るものだぞ。」


「はは、確かにな。」


「夜明けまでには、まだ少し時間が有る。 話せ。」


「おーけー。 俺の昔話の愚痴でも聞いてくれ。」

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