第24話 と、ある騎士たちの戦闘

「・・・。 以上が、今回の任務だ。 誰か質問は?」


近衛騎士団【総師団長】である、ストラさんが目の前に並ぶ10人の部下たちに問う。


10人だけ?と思うだろうが。


ここに要るのは、各部隊の部隊長だけだ。


「はい。」


右手を胸の前に当てながら、皆が並ぶ列の前に1歩踏み出す部下。


「言ってみろ。ハンジ。」


「今回の討伐対象が、ヤザン湿地帯の炎亀フレイムタートルだとは理解しました。 ですが疑問があります・・・。」


言葉を区切るハンジに、その場に居る総師団長を除く全員・・が、【だよなぁ~】っと言った総意の表情を浮かべる。


「構わん。 言ってみろ。」


「何で、イクルさんが着いてくるんですが? イクル、戦えませんよね?」


「先の説明でも述べたが。 討伐だけなら、転移での移動でどうにでもなるのだが。


今回の討伐遠征の目的の1つとして。 いずれ来る、魔王討伐の遠征訓練も兼ねている。


なので、規模は小さいが、実戦形式での訓練としての目的だ。」


「はい。それも理解しております。 だから、余計にイクルさんが加わる意味が理解できないのですが?」


確かに、此処に居る全員が、イクルの事は知っている。


あの気さくな異邦人は、誰に対してでも、笑顔で挨拶して気兼ねなくに話しかけてくる。


無遠慮と言う訳ではない。 ある一定の距離を取りつつ接してくるのだ。


踏み込み過ぎず。かと言って、離れ過ぎずの距離を置きつつ。


だからだろうか。 ここに居る総師団長も含めて、部隊長全員もイクルに気軽に話しかけるように為っていた。


そして、イクルとの付き合いの中で。 イクルが決して強くない事も知っていた。


確かに鍛錬はしているのだが、イクルの強さは、せいぜい一般兵士の強さくらいだ。


騎士たちの強さには遠く及ばない。


騎士と呼ばれる者と、兵士と呼ばれる者たちでは、それ程の実力差が出るのだ。


魔力的にも、武力的にも。



「お前たちも知っての通り。 魔王と戦うのは、勇者アキトたちのパーティーだが。


それ以外にも、支援部隊。医療部隊。荷物などを運ぶ運搬部隊が在る。


今回の訓練遠征では、イクルには運搬部隊の1人として加わってもらう。」


「えっ! ってことはっ!?」


ハンジが驚きの声をあげる。


「「「「「おおおお!!!」」」」


総師団長の言葉で、ハンジを除く9人の部隊長も声を上げて嬉しそうな顔を見せる。


「御明察。 行軍の間の料理は【イクル】が作る。」


「「「「「しゃああぁあ!!」」」」」


喜ぶ10人の近衛部隊長。


「言っておくが。 誰が同伴するのかは、恨みっ子なしのクジ引きだからな。」


こうして厳選なるクジ引きの結果、レイラ率いる第6部隊が運搬部隊を務める事に為った。



 * * * * * *



初日、二日目共に。 特に異常も見られずに、先行するアキト達勇者パーティーの後を追う形で付いて行く。


三日目の夜、それは起こった。


野営の準備中に、魔獣と魔物が襲撃してきた。


魔物達は小鬼ゴブリンが10匹。 豚人オークが3匹。


魔獣の方は、湿地狼スワンプウルフが10匹。 湿地蛇スワンプスネークが4匹。



小鬼ゴブリンは、身長1メートル前後の緑色の肌をした人型の魔物。


豚人オークは、身長150センチくらいの、豚の顔に人の身体を持つ魔物。


どちらも、粗末だが武器や防具などを使い人を襲ってくる。


湿地狼スワンプウルフは、体長3メートルちょっと。


湿地蛇スワンプスネークは、体長2メートルくらい。



私達、運搬部隊を挟撃するような形でだ。


「私が魔物を受け持つ。 残りはイクルを守りつつ魔獣への対処を。」


「「「「はっ!」」」」


4人が声をあげて、1人はイクルの側に。 残りは魔獣の来る方向に向かって構える。


まだ距離に的に余裕のある、魔物に向かって、私は魔法を唱える。


集え、火、風。弾けろ爆風フレアバースト!」



使った魔法は、爆風フレアバースト


ちゃんと、魔物周辺に範囲は指定してあるし、威力も多少は押さえている。


全力で撃つと、自分たちにも被害が出てしまうからな。


今の魔法で生き残ったのは、小鬼ゴブリン2匹と、豚人オークが1匹。


駆けだして、擦れ違いざまに小鬼ゴブリンを切り倒す。


返す剣戟で、最後の小鬼ゴブリンを倒す。


「フゴオォ!」


豚人オークが私に向かって、手に持つ棍棒を振り下げる。


左側に向かって、少し大きめに躱してから、横薙ぎに剣を振るう。


剣が豚人オークの腹を裂き傷を付けるが、分厚い脂肪に邪魔をされてか、真っ二つにするには至らなかった。


「ブガアアァァァァ!!」


痛みで、滅茶苦茶に棍棒を振り回して攻撃してくる豚人オーク


数度、豚人オークの攻撃を躱して、剣で豚人オークの右足を断ち切る。


自重を支えきれなくなった豚人オークが地面に倒れる。


隙を逃さず、そのまま豚人オークの頭に剣を突き刺す。


豚人オークが、黒い霧となって、魔石だけを残して消えた。



倒し終えて、皆の方に視線を向ける。


「苦戦をしている様子は・・・無いな。」


それもそうだ。 小型の魔獣程度に遅れを取る様な部下たちではない。


そうでなければ、近衛騎士になど為れないからな。


と、思った矢先だった。


暗闇の向こう側から、大きめの魔力を感知した。


魔力を感じた方に向かって視線を凝らす。


軽く地面に振動が伝わってくる。


大鬼オーガ。」


しかも、かなり大きい。


普通の大鬼オーガは、大きくても精々が2メートルちょっと。


こっちに近づいて来る大鬼オーガは、多分3メートル近く有ると思われる。


特殊個体ユニークか。」


特殊個体ユニーク大鬼オーガと、私の視線が合う。


貫け!光!ホーリー


一条の光が、大鬼オーガに向かって直進する。



 * * * * * *



「シッ! 隊長、派手にやってるなぁ~。」


湿地狼スワンプウルフを倒しながら、カルさんが言う。


「ですね。」


カルさんの言葉に相槌を打つ俺。


今さっき、大きめの爆発音が聞こえたので、レイラさんが範囲魔法を使ったのだろう。


ドモンさん、カッシュさんが、残りの湿地狼スワンプウルフを倒す。


パッチョさんが、最後の湿地蛇スワンプスネークを倒す。


皆さんが、魔獣たちを殲滅するまで、俺は立って見てるだけ。


だって、下手に戦闘に参加すると、皆さんの迷惑に為るからね


「あっ、解体するのは、湿地蛇スワンプスネークだけで良いですからね。」


湿地狼スワンプウルフの方は?」


「さすがに行きで、この量を全部は持ち切れませんからね。


美味しい方だけにしときましょう。


湿地狼スワンプウルフの方は、焼却でお願いしますね。」


「わかった。 明日の朝は蛇肉か。 楽しみだ。」


そう言って、3人に伝えに行くカルさん。


ブルブルブルッ。 っと胸のポケットに入れているスマホが震える。


「はいはい、イクルです。」


「そっちが、騒がしそうだけど大丈夫?」


スマホの向こうから聞こえた声はセリアだった。


「小型の魔獣と魔物に襲われたけど全員無事だよ。


レイラさんだけは、新しく出てきた・・・大鬼オーガ?っぽいのと戦ってるけど。」


「っぽい? 応援は?」


「要らないと思う。 他のみんなは、解体作業に入ってるし。


あぁ~、ぽいって言うのは。大鬼オーガにしてはデカい?」


特殊個体ユニーク大鬼オーガかもね? 他の人が動いていないなら大丈夫そうね。」


「そだね。 何かあったら、直ぐに連絡するから。」


「そうしてよ。」


「うん。 で、明日の朝に合流して料理を渡すから。」


「わかったわ。楽しみにしてるから。 それじゃ。」


「おう。」


そう言って、セリアが連絡を切る。


「さて、皆の料理でも作っておくかね。」


そう呟いて、器具に火を入れて調理をしていく。


因みに、魔力0の俺が、スマホ型魔道具で、セリア達と連絡が取れるのは。


俺のスマホ型魔道具だけには、魔道具からコードが伸びていて、腰の魔石に繋がっており。


魔石から魔力を取り出して、スマホ型魔道具に魔力を流す仕組みだ。



 * * * * * *



貫け!光!ホーリー


一条の光が、大鬼オーガに向かって直進する。


レイラの魔法が、特殊個体ユニーク大鬼オーガの右脚に当たって大きめの穴をあける。


クラっと大鬼オーガの体制が崩れそうになるが、すぐさま大鬼オーガは貫かれた右脚に力を入れて踏ん張りなおす。


大鬼オーガは、まるで傷など気にする様子も無く。


「グルアアアアッ!」


一声上げて、ズンズンと音を立てながらレイラに接近して、右手に持つ金属の塊をレイラに向かって薙ぎ払う。


レイラ身長と同じくらいの金属の塊。 金棒がレイラを粉砕しようと迫ってくる。


レイラは背中に手を回して、背中に掛けていたカイトシールドを左手に装備して、大鬼オーガの金棒を迎え撃つ。


ガインッ!!


金属と金属が激しくぶつかり合い激しい音が上がる。


巨大な大鬼オーガから繰り出される、自分よりも質量の大きな金棒の攻撃を、レイラは左手の盾で受け止めていた。


レイラの足元には、数十センチ以上は押された跡が残っており。


レイラの足首は地面に埋まっていた。


普通の兵士や騎士なら、まず間違いなく大怪我か致命傷になりそうな攻撃を、レイラは無傷で受け止めていた。


「ハアアアアァァァァ!」


左腕に力を入れて、盾で勝ち上げる様に金棒を弾く。


金棒を弾かれて、大鬼オーガの身体も反る。


勿論、身体強化の魔法は使っている。


この程度の芸当が出来なければ、近衛騎士の部隊長には成れない。


逆に言えば、近衛騎士の部隊長なら、これ位は出来て当然。



上体が反った大鬼オーガの胴体めがけて、レイラの右手に持つ剣が閃く。


肉を切り裂く感触が手に伝わる。


が、骨を断ち切るには至らなかった。


大鬼オーガの身体半分を絶った所で、レイラの剣が止まった。


「グルアアアアァァ!」


痛みなのか、怒りなのか、分からない咆哮を上げて、大鬼オーガが仰け反った体制から金棒を大上段からレイラめがけて振り下ろす。


ガインッ!


大上段から振り下ろされる金棒を、レイラは盾で受け止めた。


受け止めた衝撃で、レイラの右足の地面が陥没して、レイラの脛の辺りまで埋まる。


だがレイラは、何事も無かったかのように、地面に埋まった右脚を引き抜くと、大鬼オーガに向かって1歩前進して。


「はあぁぁぁっ!」


気合一閃。 大鬼オーガの中ほどで止まっていた剣に力を込めて、大鬼オーガの身体を断ち切った。


大鬼オーガの身体は、黒い霧となり霧散した。


「食事前の運動にはなったか?」


盾を背中に戻し、剣を鞘に居れて、イクル達の方に歩を進める。

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