第21話 鍛錬勇者

「ほらほら、アキト。腕が下がってきているぞ!」


「くっつぅ!」


いま僕たちは、王城の訓練場で僕の訓練中だ。


この1週間は、僕の基礎訓練に、皆が付き合ってくれている。


なぜ、訓練をしているのかと言えば。


単純に僕が弱いからだ。


カルドラ様から、基礎身体能力上昇を貰ったのだから、訓練なんかしなくても強いだろうと思った?


とんでもないっ! 確かに基本的な身体能力は、この世界の人たちの【一般市民】よりは上らしいのだが。


ソニアに、ステータスを見て貰った結果、判ったことは【城の兵士たちと同じくらいだね】と言う、心をえぐる言葉だった。


魔法にしても、全魔法属性を持っていて喜んでいたけれど。


世の中、そんなに甘くはなかった。


確かに全魔法属性は持っていた。


そう、持ってただけなのだっ!


つまり、どういう事かって言うと。


使える魔法は全部初級。 最初から、全部鍛えないといけないのだった・・・。


ちくしょう! あの神様! 絶対に文句言ってやる!



訓練を重ねていくうちに、みんなの戦い方も分かった。


アレスさんは、パワータイプの短槍使いでタンクも兼ねる。


スタンさんは、生粋の魔法使い。


セリアさんは、魔法も使える弓使いで、近接戦闘もある程度はこなせる。


イライザさんは、魔法と道具による支援タイプだけど、近接戦闘もこなせる。


今は、アレスさんと訓練中だ。


短槍と四角盾スクエアシールドを巧みに操りながら、僕に攻撃を仕掛けてくる。


短槍で、僕を牽制しながら、僕の攻撃は四角盾スクエアシールドで流す。


そして、隙が出来た所に短槍での攻撃を。


僕の付けている鎧。 手足の個所なら、どこの部分で攻撃を受けても、盾の役割を果たしてくれる事が分かったので、アレスさんの短槍を腕の部分で弾きながら懐に入り込む。


だけど、懐に入り込むと、アレスさんの四角盾スクエアシールドで僕は押し返される。


せっかく懐に入り込んだのに・・・。


「剣だけでの攻撃に頼り過ぎだ! 試合だと思うなっ! 殺し合いだと思えっ! もっと身体の全てを使えっ!」


頭では理解してるんだけどねっ! どうしても、剣を当てにしてしまう!


いくら刃を落としてはいても、当たれば痛いし怪我もする。


アレスさんに近寄ろうとした僕に、カウンターでアレスさんが体当たりしてきた。


体制を崩した所に盾での追い打ち。 そのまま、短槍を喉元に突き付けられて。


「勝負ありだな。」


「・・・・。」


全戦全敗。 4人だけではなく。 イクルさんや、城の兵士さんとも稽古をしたけど、ALL敗け。


アレスさん、スタンさん、イライザさん、セリアさん、ソニアの5人が集まって話をしている。


「はぁ・・・。」


訓練場の端によって溜め息をつく。


「落ち込んでるか?」


気さくな感じで話しかけてくるイクルさん。


「はい・・・。」


「異世界転移で、チートで無双俺、つえぇできるとでも思ったか?。」


「そこまでは行かなくても。もっと強くなれるものだと・・・。」


「安心しろ。 お前は強い。 少なくとも、2年かけて鍛えた、俺と同じくらいには強い。 自信もって良いぞ。」


そう言って、僕の頭を2度軽く撫でるイクルさん。


そう、この人や城の兵士さん達とは、そこそこ良い勝負が出来た。


僕と同じ転移者だけど、神様に転移されたのではなく。


気が付いたら、この世界に転移していたという人物。


神様から特殊能力ギフトを貰うでもなく、本当に只の50歳のオジサンとして、この世界に転移してしまった人。


「イクルさんは・・・。どうして自分を鍛えたのですか?」


「それは、どっちの意味で?」


「えっ?」


「その言い方だと。 なんで、俺が強くなろうとしたのかと言う解釈と。どうして、俺が強くなれたのかって解釈が受け取れるよ。」


「あっ! どうして自分を鍛えようと思ったのですか?」


「この星で生き残るため。 それだけだよ。」


空を見喘げながら返事を返してくれるイクルさん。


「でも、外に出なければ危険はそんなに無いですよね?」


「確かに。外に出なければ危険はないが。 街の中だって危険あるだろう?」


イクルさんの言葉に首を傾げる。


「ここは、地球じゃないんだ。ましてや、平和で争いの無い日本でもない。


法律は在るが、基本的には王政で貴族優位の法律だ。


街の中でも、荒くれ者や、酒に酔った勢いで絡まれる事もある。


警察替わりの衛兵も居るが、基本的には自分の身は自分で守れないとね。


違うかい?」



この世界に来た時と比べて、大分マシに為ったと言うイクルさんの出た、お腹を見ながら考えてしまう。


普通の1職人さんであったイクルさんが、何の特殊能力ギフトも無く。 知識も言葉も通じない世界に突然の転移。


相当、苦労したとは聞いた。


だけど、彼はこうも言った。


「苦労はしたと思うけど。 俺は恵まれていたと思うよ。」


理由を聞いた。


「少なくとも、出会った最初の人たちに、警戒はされたけど突然襲われることも無かったし。


黒目黒髪の人が、嫌悪の対象でも無かった。」


イクルは、年配の方の割に、アニメやラノベとかが好きなので。結構、そう言った異世界転移や転生物を見ているのだとか。


「だから、もっと負けろ。」


「えっ!?」


言葉の意味が分からずに、思わず頓狂な声が出てしまう。


「負けて、何が自分に足りなかったのを考えて。 相手の動きを盗め。


物を盗めば犯罪だが、技術は盗んでもOKなんだからな。 盗める時に盗まないと損するぞ。」


そう言って、ニカッっと笑う。


「負けて、見て、盗んで、自分で使えるように考える。 特に必要なのは、相手から盗んだ技術を、そのまま使えるようになる事じゃなくて。


自分で【使いやすいよう】に、試行錯誤するのが一番重要だよ。


最初から強い奴なんて。それこそ神様から異能チートを授かった者くらいだろうね。」


「じゃぁ、なんで僕は貰えなかったのでしょうか?


あの神様カルドラは、僕に魔王を倒せと言って転移させたのに。


なんで、僕には異能チートを持たせなかったのでしょう?」


「そうだねぇ~。 俺的な考えで良いなら、質問に返す事が出来るけど?」


「お願いします。是非、聞いておきたいです。」



僕は、まっすぐにイクルの目を見て言う。

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