第10話 国王様と

セリアさんに連れられて、城の廊下を進んでいく。


時々、城の衛兵やメイドさん達と擦れ違うが。


セリアさんと一緒だからか、怪訝な表情を見せることはあっても、呼び止められたりはしなかった。


どのくらい歩いたのだろうか。 時間的には長くないはずだが、無言で歩いている為に長く感じられた。


かなり立派な両開きの扉の前で、セリアさんが足を止めドアをノックした。


『セリアです。 転移者を連れてきました。』


『入りたまえ。』


ドアの向こうから声が返ってきたが、俺には勿論わからない。


『失礼します。』


セリアさんが、こちらの言葉で何か言って俺の方を見て頷く。


言葉は判らなくても、雰囲気で理解はできる。 一緒に入れって事だろう。


俺も頷いて返事を返す。



ドアを開けて、セリアと一緒に部屋の中に入る。


ドアの入った側には2人の兵士。 金属鎧で身を包んでいる。


部屋の中には、正面に立派な机があり、豪華な服を着た男性が座っている。


その男性の左右には、中央の男性ほどではないが、立派な服を着こんだ男性が2人立っている。


立派な机の前には、大きめのテーブルがあり。


テーブルを囲むように、革張りのソファーが置かれていた。


『その者が、異世界から来たと言う御人か?』


『はい。お父様。 名前はイクルと言うらしいです。 年齢は、今年で50歳になるとイライザから聞いております。』


ソファーに座る、俺から見て左の薄青色の髪の女性が何かを話している。


俺の名前が出たので、俺の紹介的な事を言っているのだろう。


『その見た目で、私よりも年上なのか。 異世界の人とは、みな同じように若く見えるものなのか?』


豪華な服を着た男性。 多分、この国の王様だろう。その側のに居るのが、宰相とか大臣とか言った人だろう。


『たぶん、彼が特別若く見えるだけだと思います。』


『それで、その者がソニア達の探している勇者なのか?』


『いえ、残念ながら違います。 どうやら、この方は。 偶然、この地に迷い込んだ異世界の人のようです。』


『そうか・・・。』


女性の言葉と共に、俺の方に3人の視線が集まる。


あぁ、その顔は判るよ。 言葉が通じなくてもね。


何てったって、如何にも残念そうな顔をしてるし。


『確かに、勇者様本人ではないかも知れませんが。 もしかしたら、勇者の血縁者か何かかも知れないと思うので。


勇者様が見つかり、事の次第が確かになるまで、城で保護させて戴きたく。 お父様に許可を貰いにまいりました。』


薄青色の髪の女性が、王様らしき人に向かって頭を下げる。


『グレン。 どうお思う?』


『はい。僭越ながら。


仮に、勇者でなくとも、異世界の住人と言うだけで価値はあると思います。


姫様たち程の特別な力がなくとも。 異世界の知識は貴重でもあります。 故に、国で囲ってみるのも一興かと。』


『判った。 城への滞在を許そう。 確か、言葉が通じないそうだな? 教育係として誰かつけよう。』


『その点は、ご安心を。 セリアが、彼の教育係と成るのを請け負ってくださいましたので。』


『お任せを。』


セリアが軽く頭を下げる。


スタン、イライザ、アレスの3人も、立ち上がって頭を下げる。


『それでは、お父様。


改めて、この異世界の方も交えて、勇者様の探索の件も踏まえた上で話をしたいと覆いますので。 退出させていただきます。』


4人が部屋から出て行こうとする。


セリアが、俺の右腕を軽く引き着いて来いと合図をするが。


俺の視線は、王を捉えたままだった。


部屋の中の人物たちの視線が俺に集まる。


その視線集まる中、俺は膝を折り曲げて正座をして床に両手を着けて頭を深く下げた。


『『『『ドゲザ!』』』』


あ、やっぱり在ったんだ。土下座。


土下座=謝罪 と、取られる意味合いが多いと思うが。


この土下座。 実は感謝の姿勢でもある。




 * * * * * *



「貴方ねっ! 国王に向かって何て事をしてくれるのよっ!」


「落ち着けイライザ。 彼も悪気があった訳ではない。」


宥めるスタン。


「悪気の有無の問題じゃないでしょ! 国王に向かっての奴隷宣言なんてっ!」


「はっ?」


イライザの言葉に、間抜けな声が出てしまった。


「あぁ~、イクル。 この世界じゃ、土下座は奴隷宣言の証なんだ。」


アレスが、俺の肩に手を置きながら言う。


「マジで?」


「マジだ。」


アレスから視線を外して、他の3人に目をやれば。 3人とも頷いて見せてくれた。


あぁ~、うん。 そりゃ、軽く騒ぎになるはずだ。


話を聞けば。


土下座をした後に、奴隷契約と言われる魔法を使用して、奴隷契約が完了するらしい。


どこの馬の骨とも判らない、50のオッサンが。 国王様に奴隷宣言をしたんだ。


不敬罪で、処分されなかっただけでも儲けものだろう。


しかも、この後の会話で。この国、ホーデン王国は、奴隷禁止制度を取っている国で。 人族の国の中でも、かなり珍しい国なのだとか。


因みにだが。 今、部屋の中には、俺、イライザ、アレス、スタン、セリア。


そして、この国の姫様のソニア。


部屋の中に入るなり、ソニアが見張りの兵士と側仕えのメイドさん達を無理やり追い出して今の状況に至る。



「ごめん。」


ここは、素直に謝る俺。


国が違えば、作法も違うと言うが。 まさかの土下座礼が、奴隷宣言だとはね・・・。


「誰だよ、間違った風習を教えたのは・・・。」


「500年前の勇者らしいよ。」


イライザが言う。


「えっ?」


「声に出してたよ。」


どうやら、声に出してしまってたようだ。 それに、イライザが答えてくれたと。


詳しく話を聞けば、500年前の勇者の他にも、1000年前にも勇者は現れていたらしい。


500年前の勇者は、勿論日本人だろう。 それに多分、1000年前の勇者も。


ってか、これだけ異世界と言うか、違う次元の星に来る人物で日本人率が高いって。


最早、日本と言う国は呪われているのじゃないかと思ってしまうよ。


と、そこで俺は在る事が気に為ったので、皆に聞いてみることにした。

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