第6話 魔王と勇者

「魔王討伐?」


「そうよ。 この世界に現れる魔王を倒す。 それが、私たち6人に与えられた使命なの。」


そう言って、イライザは俺に語り始めた。



この星には、4つの大陸があり。


人族の大陸。 獣人族の大陸。 亜人族の大陸。 そして、魔人族の大陸。


今の魔人族の王。つまりは魔王は、比較的温厚で、他の種族とも親睦を保っているのだけど。


元々、魔人族と言うのは。 他の種族よりも、肉体的にも魔力的にも優れている種族なので。 過半数は、他の種族を見下ろしがちになるそうだ。


イライザを、この星に送り込んだ神様の話では。 


勇者が現れて、数年以内には魔人族の大陸で、他種族を嫌う魔王に世代交代して、この星全体を巻き込んでの争いが確立すると。


そして、神様の未来視では、この星の生命体が死滅する可能性が高い事を。


ただし、それが魔王が直接関与しているのか。 他の出来事も相まっての事なのか迄は分からないそうだ。


そして、神様の言う事では。 勇者は異世界転生ではなくて、異世界転移で、この星に現れるらしい。


イライザを入れて、5人の転生者は、勇者を探すべくして各大陸を旅してるそうだ。


だから、俺を見た時に彼女は、てっきり俺が勇者なのかと思ったらしいが。


へいへい。 何の変哲の無い、只の50のオッサンで悪うございました。


それに、どう考えても、50歳の勇者なんてオカシイでしょう。 どんなネタだよって言いたくなるレベルだよ。


「ソニアなら、詳しく解かりそうなんだけど。」


俺を見ながら、イライザが呟く。


「ソニア?」


思わず、イライザが呟いた単語を復唱してしまう。


「ええ。 私たちの仲間で。 人族で一番大きな王国の姫様よ。」


勇者の仲間で、お姫さまって。 いかにもテンプレって感じですね。


「ソニアは聖女って呼ばれているくらいの回復魔法の使い手で。 死亡さえしなければ、瀕死の状態だろうと、部位欠損だろうと回復させる事が出来るの。


そして、人のステータスを数字化して見る事が出来るのよ。」


回復魔法すげぇな!


しかも、他人のステータスを数字化して見れるって。 多分、神様からの特殊能力ギフト的なものなんだろうな。


「言っておくけど。 普通の回復魔法じゃ、部位欠損とかを治すのは無理だからね。」


そうでしょね! そんな回復魔法の使い手がゴロゴロいたら、それこそ戦争が長引いて仕方がないし!


「回復魔法は凄いんだけどね。 それ以外の戦闘能力は軒並み全滅。 だから勇者探索に出る事も出来なくて、城で大人しく待ってるってわけよ。」


「イライザも、何か特殊能力的な・・・。」


物を持っているのか? と聞きかけて言葉を止めた。


会って間もないのに、アレコレ聞くのは無用の詮索ってものだろう。 それに、自分の特殊能力をホイホイと他人に教えるものでも無いだろうに。


「持ってるわよ。」


「えっ!?」


「私も、神様から貰った特殊能力を知りたいんでしょ?」


「まぁ、興味が無いと言えば嘘になるかな。」


「技工士。」


「はい?」


「だから、技工士って言うのが私の能力。」


何でも、無機物や植物限定だけど。


その手に取った物に魔力を流して、その仕組みや素材などが理解できて、材料さえ揃える事が出来れば同じ物を作る事が出来るとか。


現代日本でのチートってやつですね・・・それも。


でも、チートって、直訳すると【騙す】って意味だし。


元々の意味としては、ゲームサーバーに侵入してのハッキングでのシステム改竄や。


ゲームシステムを、外部から悟られない様に操作する事を指すのが元の意味合いなんだよね。


そう、BOTボットツールとか。


「教えても大丈夫なのか?」


聞いておいてなんだけど。 これ他人に話して良い事なのじゃないのは分かる。


「異世界転移で、この世界に来たんでしょ? なら、現代日本の色々な物を持ってるでしょ? それを私に見せて欲しいの。」


あぁ、成程ね。 俺の持ち物を、技工士と言う特殊能力で調べて色々する気なのね。


イライザに言われて、俺の荷物を地面に並べていく。


テーブルの上じゃ狭すぎるのでね。


ミゼットカッター(番線切り)。ラチェット。釘抜き(30センチ)。カッターナイフ。替え刃(30~40枚?)。


フルハーネス。安全ヘルメット。ヘッドライト。ゴム手袋。空調服。三線延長コード(10メートル)


空調服用のバッテリー2個。ソーラー式充填機一式。ヘッドライト用の単三電池6本(充填式)。


仕事用のガラケーと個人用プライベートのスマホ(電波が届かないのは確認済み).


弁当箱(空)。水筒(お茶が半分)。 空のペットボトル1本。 飲みかけのペットボトル。


バターロールパンが1袋(6個入り)。替えの半袖1着。腕時計。


そして、タバコ3箱と100円ライターが1個に、携帯灰皿が1個。


まぁ、良く見れば。結構、持ってるよな俺・・・。


これでも、必要最低限の物しか入れてない方だけどね。


なんせ普段なら、これプラスで、防塵服や仕事用のノートPCに安全眼鏡に防塵マスク、その他小道具なんかも詰め込んでいるんだから。


普段は、大型のキャリーバックを引きずっての移動だからね俺。


俺の持ち物の中でも、特にイライザの目を引いたのは。


ソーラーパネル式充填機一式と、スマホだった。


うん、判るよ。現代日本人として、スマホは持ってたはずだよね。


空調服も、物珍しそうに見ていた。


一通り手に取り、魔力を流し終えて、仕組みと素材などを理解したのか。


いまは、あごに手を当てて、1人でブツブツと呟いている。


さすがに暇だったので、さっき魔力を流す為に封を開けた、バター入りロールパンに手を伸ばして一齧り。


もしゃもしゃと、味をかみしめながら咀嚼しているとイライザと目が合う。


イライザが物欲しそうに見ていたので。


「食うか?」


「うん!」


即答された。


6個入りだったので、半分の3個をイライザに袋のまま手渡す。


最初の1つを、口に入れた瞬間には、それはもうとろけそうな顔をしていた。


1つ目のバター入りロールパンは、勢い勇んで食べていたが。 2つ目からは、味を噛みしめる様に食べていた。


余りにも美味そうに食べるので、自分の分から1個イライザに渡してしまったよ。

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