第5話 異世界の人

『長。彼と2人きりで話したいの。私の家に連れてって良いかな?』


『それは構わんが。 大丈夫なのか?』


『うん。大丈夫よ。 言葉も通じたし。 あっ!でも拘束はそのままでね。』


『それは勿論じゃ。 危害を加えぬとも言えんからな。』


何やら、虎獣人さんと話してたら、俺の方に向き直って、こう言った。


「私の家に行くから着いて来て。」


そう言って、手招きする金髪美女。


「あっ、荷物。」


彼女に釣られて、出ようとした時。 自分の荷物を思い出す。


「私が持って行くわ。 ナップとバックだけ?」


彼女の言葉に、頭を縦に振って肯定を。




金髪美女に連れられて、彼女の家?に着く。


他の家と同様に、板を並べて紐で縛り、屋根は茅葺かやぶき。


中の広さは、8畳くらいか?


「椅子に座ってて。」


そう言って、彼女は、金属容器から上の部分に紐が出た物に火を付ける。


そう、指先から火を出して、金属容器の紐に火を点けたのです。


金属容器は、アルコールランプ的な物か。


アルコールランプ的な物を、四角い金属の足の上に置かれた鍋の下に置く。


湯を沸かしてるのね。


「魔法見ても、余り驚かないのね?」


俺の方に向き直り彼女が言う。


「いや、十分に驚いているよ。」


ただねぇ~。 オルガさんの動きを見た後だからね。 魔法も在るんだろうなぁ~って考えは有ったよ。


異世界だしね。


「あなたも使えるようになるわよ。 理屈さえ理解できればね。」


「どうだろう? 何か、俺の場合って、特殊そうだし。」


主語が抜けているが。そこは、お互いに何となく通じる物が在るのだろう。


「イライザ。」


彼女が言う。


「え?」


「私の名前よ。 この世界でのね。」


「あっと。 小鳥遊たかなし 生来いくるです。


小鳥が遊ぶと書いて小鳥遊たかなし。生きるの生に、来訪の来で生来いくる。」


「変わった名前ね。」


「よく言われる。」


少しの沈黙が、部屋の中に漂う。


「それで。イライザは日本からの転生者とか言うやつかな?」


普段なら、絶対に言わないだろう言葉を出す。


もし現代日本で、こんな言葉を出そうものなら、間違いなく頭のネジが数本飛んだ異常なオタクだと思われるだろうからね。


「何で、そう思うの?」


イライザの問いに、俺は結構な自信があった。


何故なら、俺の名前を聞いた時に。 彼女は「変わった名前ね」と言った。


これが、現代日本や国外なら、大抵の外国の人は、こう言うからだ。


「ハーフか、クォーターですか?」って。


生来イクルなんて読み方。 どう考えても、普通は日本語読みでの発音ではないからね。


社会に出て自己紹介でも、似たような勘違いをされたことも在るからね。


それを、イライザに説明する。


「そうよ。お察しの通り、私は日本から神様の手違いで死んだ為に、この世界で転生したのよ。


あ、お湯が沸いたわ。」


そう言って。彼女は、カップに何かを入れて鍋から湯を注ぐ。


「暴れないなら、拘束を解くけど。」


「ここで、暴れる意味がない上に。 俺が君たちに勝てる要素が全然見えない。で、結論から言うと。危害を加える気はない。」


それは、もうキッパリと言い放ち断言する。


イライザは、俺の拘束されていた紐を解く。


「まぁ、本気で拘束するなら。後ろ側で拘束されてるしね。」


「うん。俺もそう思うよ。前だと口で紐を噛みちぎる事が出来るしね。 その期待を裏切らないためにも、暴れたりはしないよ。」


そして、俺は彼女から渡された飲み物を飲みながら、この星に来たいきさつを話した。


と言っても。 うたた寝して気が付いたら平原に寝転がって居た状態なんだけどね。


「それはまた、何とも・・・。」


うん、言いたい事は判るよ。 寝て起きたら異世界だったって。


だから、俺にはスキルとか特殊な能力とかは一切ない!


何故言い切れるのかって? そりゃ試したからさ!


ここに来るまで、8キロ以上も歩くんだよ。


色々と試さない方がおかしい!


オープンステータスとか。 ファイヤー!とか。 地面に落ちてる木の棒を拾って思いっきり振ってみたりとか。


その際に、ソニックウェーブとか叫んでみたりとか・・・・。


そりゃもう、端から他人が見れば、頭の中身が凄い状態に為って居ると思われても仕方のない行動をしてた自覚が在る。


勿論、イライザには話していない。 いや!誰にも話す気は無いっ! 最早、この年に為ってからの黒歴史を経験したんだから勘弁してよぉ・・・。


と、俺が1人で落ち込んでいたら。


「ほんと、貴方って何で、この世界に来たの? 他の奴らはともかく。」


イライザを見れば、何か変な物を見るような目で俺を見ていた。


ってか。今、イライザが言った言葉。


他の奴ら、て言ったよね?


「えっと、イライザさん。 つかぬ事をお聞きしますが。」


「なに?」


「今、他の奴らって、おっしゃいましたよね?」


「言ったわよ。」


「もしかして、俺たちみたいに、転生や転移で来ている地球人がいらっしゃるのでしょうか?」


「うん。居るわよ。私の知っているだけでも、4人は居るから。 貴方を含めると5人目だけどね。」


おおうっ! 何てこった! って事は何か? イライザを含めて、俺も入れると、最低でも6人は居るって事だよね!?


「居るんだね・・・。」


「そうよ。 他の奴らは、ちゃんと目的があって、この世界に送られて来たんだけどね。 私も含めて。」


「目的?」


「うん。 魔王討伐って目的で。」

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