第3話 ハプニング

そして、ふと来た方向に視線を向けた時に。 俺の視界に、危ない物が目に入ってしまう。


そして、それと視線が合う。


「ゲッ・・・。やべっ!」


視線が合ったソレとは、ズバリ猪だった。


多分、猪の獣人さんではないと思う! だって! 四足歩行だし服も着てないしっ!


いやっ!服を着せたら獣人さんに為るのかって言うと、そうじゃない気もするっ!


いやいやっ! 何を考えてんだ俺っ! 


などと馬鹿な事を考えて居たら、案の定と言うべきか、猪が俺の方に向かって駆け出してきた。


距離的には、100メートル前後。 多分、俺の所に来るのに10数秒もかからないだろう。


荷物を持って、慌てて岩陰から飛び出して。 今まで隠れていた位置とは反対の方に荷物を置いて、獣人さん達の居る場所から上流の方に向かって駆ける。


そして猪の方に身体を向け直す。


既に猪は、俺の所まで10メートル。


大慌てで、左に飛んで躱すっ!


急いで身体を起こして、猪の向かった方角に目を向ける。


猪は、Uターンをすると。再度、俺に向かって突進してくる。


距離が在る時は気が付かなかったが。 この猪! めっちゃデカイっ!


地球での猪の大きさの倍以上はあるんじゃない!? 多分、2メートル以上はある!


迫ってくる猪を、今度も全力で左側に躱す!


何とか猪を躱して、俺の背に川が来るようにした。


もちろん、獣人さん達の方に猪が行かない様に位置を取っている。



Uターンを終えて、猪が俺の方に向かって・・・。 来ない。


俺の背に川が在る事を知ってか。 猪は、前足で地面を叩いてはいるが突進はしてこない。


この川の幅は、大体20メートル前後。深いのか浅いのかは知らないが、猪が躊躇っているところ見ると。


この猪が、本能でなのか、川が深い事を知っているかは分からないが。 俺への突進は止まってくれた。



と、その時。 何かが猪の身体に刺さる。



「ピギャァァァアアア!」


大きな叫び声と共に、猪が激しく体をゆすって、俺の方を見る。


「俺じゃねえからっ!」


と、俺が猪に向かって叫び終わると同時に、再び何かが猪の後ろ脚に刺さる。


「プィギャアァァァ!」


猪に刺さった物を良く見ると。それは矢だった。


そして、次の瞬間には。


黒猫の獣人さんが猪の横に居て。 猪の目から頭部に向かって、深々と剣を突き刺していた。


猪は数度、身体を痙攣させると、ドサッと音を立てながら地面に倒れた。


そして剣を引き抜くと、俺に向かって、血が付いたままの剣を突き出しながら話しかけてくる。



『お前は誰だ? 何故、人間が1人で武器も持たないで、こんな所に居る?』


うん。何を言っているのか全然わかりません。


ただ何となく、俺に対して警戒をしているのは分かりますよ。


俺が同じ立場なら、どこの誰ともわからない。 ましてや種族の違う者に対して用心するのは当たり前ですからね。


「えぇ~と。 助けてくれてありがとう。」


そう言って、頭を下げる。 もちろん、視線は黒猫の獣人さんから出来るだけ外さないようにして。


俺の言葉を聞いて、黒猫の獣人さんは頭を傾げた。


獣人さんの言葉が俺に判らないのだから。 俺の言葉も獣人さんに判らないのですよね。


『何を言っている。 共通語を話せ。』


黒猫の獣人さんが何か言うけど。 とにかく何を言っているのか判らん。


取り合えず、抵抗の意思が無いのを示さないといけない。


多分、川の反対側では、犬の獣人さんが矢を構えているのは想像できるからね。


ゆっくりと両手を頭の上に持って行き、膝を折って地面にうつぶせに為る様に寝転がり、頭部だけは獣人さんの方に向けている。


はっきり言って、かなり怖いが。 さっき猪に止めを刺した黒猫の獣人さんの速度。


俺には、辛うじて視認するのが出来たくらいの速度だ。 ここで逃げ出しても、逃げ切れる気がしない。


逃げ出した瞬間に、手に持ってる剣でバッサリ切られるのがオチだろう。


どの道このままだと、いずれは餓死か、今みたいに猪か他の動物に襲われて死ぬのがオチだろうし。


ならば、少しでも生存率を上げるには、此処で大人しく捕まっておいた方が身のためだろう。


俺が、この星で生きていくすべが見つかるかもしれないし。 拷問とかされないよな?


これはもう、この星の人?人族?と獣人さんの仲の良さに賭けるしかない。 戦争とか、種族虐待とかしてないと良いなぁ・・・。



『抵抗する気はないみたいだな?』


いつの間にか、犬の獣人さんが側に来ていて、黒猫の獣人さんに話しかけている。 弓に矢はつがえたままで、俺の方に向けている。


『あぁ、そうみたいだな。 だが、言葉が通じない。』


『言葉が通じない?』


『あぁ、何かを言ってたが、何を言っているのか、さっぱり判らん。』


『見た感じ【人族】だろ? なら共通語は話せて当然だろうが?』


『俺に聞かれても分かる訳がないだろうに。 取り合えず近寄ってみる。 何か合った時は援護を頼む。』


『任せろ。』



あ、黒猫の獣人さんが近づいてくる。 剣と盾を構えながらだけど。


そして、黒猫の獣人さんとの距離が近ずくにつれて、黒猫の獣人さんが黒猫じゃないと分かった。


(黒豹だっ!)


一見、猫の顔の造形に似ているが。 猫じゃなくて黒豹だったのか。


『もう、一度聞くぞ。 なぜ人族が、こんな所に1人で居る? 仲間は居るのか?』


「ごめん。 何を言っているのか分からないです。」


『共通語を話せ。』


「ごめん、わからない。」


言葉が通じないと、こんなものだろう・・・。


黒豹獣人さんの言い方は、多少はきつめだが、尋問するような口調では無いと思う。


お互いに、微妙な表情に為って要るのは理解できる。


『悪いが、拘束させてもらうぞ。 イーサン!』


あっ! 今の何となく分かったぞ! 多分、イーサンってのが名前だ。


現に、犬獣人さんが、こっち向かって来るから。 多分、間違ってはいないはずだ。


「イクル。」


『ん? 何だ?』


右手だけを頭から外して、自分を指さしながら、もう1度言う。


「イクル。」


『イクル?』


「イクル。」


『イクル。お前の名か?』


黒豹獣人さんが、俺の名を呼んだので、頭を上下させて頷いてみる。


多分、俺の名を確認したのだろう。


端から見れば。何とも、おバカなやり取りに見えただろう。 現に弓の構えを解いて、近くに来た犬獣人さんの表情が、何となくだけど苦笑しているように見える。


『一応、用心のために拘束する。』


『わかった。 イクルとやら。 立ってくれるか?』


何を言ったのかは分からないが。 黒豹獣人さんが、俺に向かって手の平を上に向けて、立てって言ってるように見えたので、ゆっくりと相手の表情を伺いながら立つ。


犬獣人さんが、自分の両手を俺の方に向けて、手の甲同士を引っ付けている。


うん。俺に、こうしろって事ね。


犬獣人さんをマネて、手を前に出して、手の甲同士を合わせる。


親指と小指を紐で結んで固定される。 うん。 これ、逆関節になってて、指同士を縛るから物を握る事も無理だから何もできんよ。


後ろ手で縛られたら、マジで何もできんと思う。 前向きで縛ってくれた事に感謝しよう。


俺が縛られたの見て、ようやく黒豹獣人さんの方も、剣の血を布で拭って納刀してくれた。


一応、お礼にと。 俺は2人に向かって腰を折って頭を下げた。


犬獣人さんが、俺の腕を取り軽く引く。


着いて来いって意味だろう。


犬獣人さんに従って、俺は歩き出した所で思い出し。 自分の荷物の方に視線を向けると。


黒豹獣人さんが、俺の視線に気が付いて、俺の荷物の方向かって歩き出して、荷物を手にして戻ってくる。


再び、腰を折って頭を下げてお礼をする。


こうして俺は、2人に連れられながら。 女性の獣人さん達と合流して、村の中に入っていくのだった。

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