第2話 とにかく歩こうか

「んん・・・。」


朝日の眩しさで目が覚める。


時計を見れば6時。


いつもは5時に起きていたので、思ったよりも身体が疲れていたようだ。


背負い袋から、もう1つの中身入りのペットボトルを取り出して水を飲み込む。


「ふうぅ~~。」


取り合えずは、無事な事に安心する。


何故かって? そりゃ、此処は地球じゃないからでしょ?


少なくとも、昨日の晩に。 月が2つ在る時点で気が付いてるよ。


仮に地球だとしても、何処かも分からない平原で大の字に為って寝れるほど、俺は楽観的ではない。


「異世界転移・・・だよなぁ~・・・。」


ラノベや、アニメで良くあるアレだ。


50歳にも為って、ラノベやアニメって思うかも知れないが。


人の趣味だほっとけ。


まぁ、嫁さんが【腐】系の人なので。 俺も軽く感化されたって事に。


これが、若い世代なら「ひゃっほおぉ!! 異世界最高!」とか、はしゃぐのかも知れないが。


生憎、こちとら50歳の既に枯れた状態に片足突っ込んでいる。いや、両足か?


背負い袋の中から、メロンパンを取り出して食いながら考える。


頭の中で、所持品を思い浮かべながら整理する。


ミゼットカッター(番線切り)。ラチェット。釘抜き(30センチ)。カッターナイフ。替え刃(30~40枚?)。


フルハーネス。安全ヘルメット。ヘッドライト。ゴム手袋。空調服。


空調服用のバッテリー2個。ソーラー式充填機一式。ヘッドライト用の単三電池6本(充填式)。仕事用のガラケーと個人用プライベートのスマホ(電波が届かないのは確認済み)


弁当箱(空)。水筒(お茶が半分)。 空のペットボトル1本。 今飲んでるペットボトル。


バターロールパンが1袋(6個要り)。替えの半袖1着。


そして、今着ている作業服と安全靴。


そして、タバコ2箱と100円ライターが1個に、携帯灰皿が1個。


うん。やばいなこりゃ。


早々に、水場を探して、食料を確保しないと飢え死ぬわっ!


昨日の帰りに、小腹が減ったので、朝食様にと思い、一緒にパンを買っておいて良かったよ。



枝の上で直立して周囲を見渡す。


大抵の人は、地平線や水平線って遠くに在るのだと思っているようだが。


実際には、地上に立っている状態での地平線の見える距離ってのは意外に近いもので。


距離的にすれば、大体4~5キロメートルって所だ。


今の木の上からの位置でも、地平線までの観測距離は、せいぜい8キロ圏内。


ここが、地球と同じ大きさならばね。


「ん?」


昨日は暗くて気が付かなかったけど。 向こうの方に何かが見える。


時計を見れば、時刻は6時35分。


自分の指を、時計の長針と短針に見立てて、太陽に向かって合わせる。


太陽が照っているとき、太陽の方向にアナログ時計の短針を向ける。 短針と文字盤の12時方向を2等分した方向が「南」だ。


地球と同じで、東から太陽が昇って居るならばの話だが。


何かが見える場所は「北」になる。


ここに居ても、餓死は確定事項。


周囲を見て、何も居ないことを確認して樹から降りていく。


一応、護身用としてのカッターを取り出して、ズボンのサイドポケットに入れておく。


何もないよりはマシだろう。


取り合えず、何かが見えた方角に向かってトボトボと歩き出す。


ここの世界?星? の太陽が、よほど不規則な動きでもしていない限りは、ある程度の方角は判るだろう。



 * * * * * *



時間にして5時間。


何かが見えた場所に近づいてきた。


まだ距離は在るが、どうやら川のようだ。


川の向こう側には、橋?らしき物と、建物らしき物が見える。


やったー!村だ!。 なんて言いながら駆け足で向かう事はしないよ。


そりゃそうでしょう。 だって、この星での、俺の立ち位置が全く判っていないのだから。


多くのラノベみたいに、友好的な人だと良いけど。 中には、黒目黒髪が不吉の象徴だったりする時も有るかも知れない。


そうでなくても、地元民以外の人には、良い目を向けないかもしれない。


取り合えず、川に向かって、少しずつ橋から逸れる様に移動していく。


川に近づいて行くと、話し声らしきものが聞こえてくる。


平原と言っても、まったく遮蔽物が無い訳じゃないので。 樹や岩に隠れるように声の聞こえる方角に近寄っていく。


そこには、女性らしき人が5人と。男性らしき人物が2人ほどいる。


なぜ【人らしき】なのかって?


遠目から見ているのもあるけど。 あれ? 俺の目、おかしくなったかな?


確かに最近は老眼も入ってきて、近くの物が見にくくは為っているが。


さらに遮蔽物に隠れながら近づいていく。


うん・・・。 俺の目はオカシクなんて為っていなかったな。


岩の影から、顔半分だけを出して7人を良く見る。


アレですよ、アレ。


ラノベに良く出てくる【獣人】さんと言うやつです。


ただし、人の顔と身体に、耳や尻尾が付いているのではなくて。


犬猫が、まんま大きくなって、2足歩行で歩ているんです。


その獣人さんが、服着て川で洗濯?をしているんです。


辛うじて、男女の見分け?雄雌オスメス?の違いは、スカートを履いているのが5人の方で、ズボンを履いているのが2人の方と言う違いで。


俺が勝手に、男女?に分けているだけで。


って・・・。俺、心の中で、誰に説明しているんだろう? 俺、以外には誰も居ないってのに・・・。


結構テンパっているんだな、やっぱし・・・。



その時、風が吹き抜けた。


決して強い風ではないが、俺のオールバックで後ろでゴム止めしているポニテールが軽く揺れているくらいの風だ。


が。 それが大問題だった。


俺の後ろから風が吹く。 その風が吹いた方向は獣人さんの方角。


川で洗濯?をしていた、女性らしき獣人さんが動きを止めて、男性の獣人さんの後ろ側に移動する。


男性の獣人さんの1人。黒猫の獣人さんは、腰から剣を抜き、小さい盾。 ラウンドシールドってやつ?を構えている。


もう1人の獣人さん。 茶色の犬の獣人さんは、弓に矢をつがえて、こちらに向かって構えている。


当然ですよねぇ~。獣人さんですものねぇ~。 嗅覚は、人間なんて比に為らないくらいには良いんでしょうねぇ~。


慌てて、岩に身を隠すも。 


「これ、絶対にバレてるよな?」


誰にと言う訳でない。 自分自身に問いかけているのだ。


うん、やっぱりテンパってます俺。

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