高カロリー

 衝撃的なお誘いがあった。


『ウチ、別荘あるからさ。夏川来ない?』


 クラスの男子から、キャンプのお誘いがきたのだ。

 誘いが来たとき、ボクは隣の部屋にいる義姉が脳裏を過った。


「お、おねえちゃーん!」


 部屋から叫んでみる。

 今は音沙汰がないけど、大声で事情を叫んでみた。


「クラスの子にキャンプ誘われたんだけどさぁ! 行っていい!?」


 ドタドタドタ……。

 慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、ノックもなしに扉が開いた。

 眉間に皺を寄せて、わなわな震える義姉がやってきた。


「ご……ご飯は……?」

「あー……、うん。そうね」


 お義姉ちゃんがぎこちない動きで接近してくる。

 ベッドに座り、至近距離からボクをガン見してきた。


「え、……死ぬよ?」

「うーん」

「あ、でも、い、いいよ。別に? ケイちゃんが行きたいなら、別にいいよ。帰ってきたら119番してね。おねえちゃん死んでるから!」


 こうなると分かっていた。


「け、ケイちゃんは……どうしたいの……?」

「正直に言うと、行きたい」

「……ぐすっ。……だったら……行けば――あ」

「あ?」


 お義姉ちゃんが叫ぶ途中で、何かを思いついたらしい。


「おじさん……中華料理とか作るの……上手かったよね?」

「まあ、ラーメン作る時とか、鶏がらで出汁取る人だからね」


 一度、食べさせてもらったことがあるけど、本当に美味しかった。

 あっさりしてるのに、鶏肉の塩味がちゃんとあって、食べた後も口に残らない感じが好きだ。


 そこで、ボクは気づいた。


「まさか、……おじさんに……世話になる気じゃ……」

「え、へへ。我がまま言っていい、って許可貰ったし。うんと甘えようかな」

「いやいや。あれ、社交辞令だよ!」

「でも、頼めばいけそうかなぁ、って」


 そりゃ、おじさんの事だからOK出すだろうけど。

 最近、おじさんの世話になってばかりで、申し訳ないやら何やらだ。

 ボクが悩んでいると、お義姉ちゃんは部屋に戻って行く。


「マスオさんのこと、家政婦か何かだと思ってんのかな」


 とはいえ、ボクもクラスメイトとの交遊は重ねておきたい。

 大人には大人の社会があるように、学生には学生の社会があるのだ。


 幸い、ボクのクラスではイジメというイジメはないけど。

 クラスで浮いてる人は、やはりいてしまう。

 義姉の事は心配だし、ずっと気に掛けてるけど、ボクもボクで必死だった。


 *


 義姉と一緒にマスオさんの家に来た。

 日が暮れる頃だったら、マスオさんは確実に家の中にいる。

 インターホンを鳴らすと、タンクトップと短パンの田舎くさい恰好で出てきた。


 事情を話すと、マスオさんは「なるほど」と納得。


「いいよ。行っておいで」

「すいません。何か、ニートの子供を預ける親みたいになっちゃって」

「……ニートじゃないもん。引きこもってるだけだもん」


 お義姉ちゃんは不満げに口を尖らせる。


(何だか、今年の夏は色々と大変だなぁ。おねえちゃんが引きこもって一年目だから、仕方ないんだろうけど)


 主にお義姉ちゃんが何かやらかすので、ボクは毎度額を押さえるハメになっている。

 ボクが言いたい言葉をグッと堪える横で、お義姉ちゃんが図々しくもリクエストをした。


「あ、脂っこいもの……食べたい……」


 モジモジしながら、デブカロリーの食べ物を要求。

 最近は、筋トレばかりとはいえ、運動はしている。

 なので、プラスマイナス0になっているはずだ。

 体中のお肉も、目立った変化がない。


 とはいえ、太るだろう。


「おねえちゃん。……ラーメン好きだよね」

「おぉ。中華そば食いたいってか。はは。じゃあ、今日にでも作ってやろうか?」

「……え、いいの?」

「いいぞ。食いたいもん、たらふく食いな」


 マスオさんが大黒天に見えてきた。

 でも、ウチのお義姉ちゃんを甘やかすと、本当にデブるので、ほどほどにしてほしい。


 ボクの心配をよそに、お義姉ちゃんは涎を垂らしていた。

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