夏の風物詩
リナちゃんから連絡がきて、「肝試しに行こうよ」という話になった。
どうやら、クラスの男子達に近場のスポットを散策し、涼しくなろうという夏らしい企画を持ちかけられたとの事。
家にばかり閉じこもっていても難なので、ボクはOKを出した。
そして、約束の時間までリビングにいて、夕方前になったら向かう事にした。
「……んー」
ボクがダラダラしていると、お義姉ちゃんがテレビを点ける。
テレビのチャンネルを変えて、ちょうど心霊番組を観始めた。
テレビの前で膝を抱える姿は、何だか可愛らしいけど、気になる事がある。
「幽霊とか平気なの?」
「……人間の方が怖いもん」
「それ言ったら……」
幽霊の立場ない気がするけど。
テレビの画面には、ホームビデオで撮ったと思われる映像が映し出されている。
「……ほぁ~……」
お姉ちゃんは口を半開きで観ていた。
廃屋の中を探索している人達が、奇妙な音を聞いて振り返る。
振り返った先には、自分たちが入ってきた部屋の入口があり、縁からは誰かが顔を覗かせていた。
「ほぁ~……」
「リアクションおかしいって」
「え?」
「ポケーっとしながら観るもんじゃないよ。怖くないの?」
まるで日曜の朝八時にやってる番組でも観てるかのようなテンション。
夏と言えばホラーみたいな所はある。
風物詩だと思うし、ボクだって観ていて夏を感じるけど。
少なくとも、ボーっとして観たりはできない。
「おねえちゃんの部屋から、たまに変な声聞こえるけど」
「……んー……賞味期限切れの……」
「は?」
「……あ、でも、その時は……トイレにこもるから」
「ちょっと待って。賞味期限切れって。ボク捨ててるよ? 冷蔵庫にそういうのがあったら」
幽霊いるかもね、って脅かそうとしたけど、幽霊より気になるワードが出てきて、それどころではなくなった。
「え、……買ってきたの?」
「たまに。……コンビニで」
「え? 出られるの?」
すると、お義姉ちゃんは自慢げに胸を反らし、こう言った。
「知ってる? 深夜の2時って、誰もいないの」
どうやら、義姉は夜遅くに出歩いているみたいだ。
義姉の事だから、初めからコンビニに特攻する真似はしない。
何度も通って人通りを窺っていたに違いない。
それで時間まで計って、2時がベストと見極めたのだ。
「店員さんは二人いるけど。ちょうど物が届く時間だから、一人は離れられない。つまり、あたしを見る人は、一人だけ」
「おねえちゃん……」
「あたしだって頑張ってるもん。いつまでも引きこもってないから」
「何の潜入ミッション? 下見までする事じゃないでしょ!」
ボクの知らない所で、義姉は行動的だった。
でも、引きこもりと人目を避けるのは相変わらず。
陰キャここに極まれりである。
「何買ってるの?」
「……プリン」
「いつもは冷蔵庫に入ってないよ? ……ハッ……まさか」
義姉の汚部屋を頭に浮かべる。
言われてみれば、ボクが買った覚えのない袋菓子など、部屋の隅っこに置かれていた。他も散らかってるから、掃除する時は「早く綺麗にしよう」の一心で気にしていなかった。
「要冷蔵を要常温にしてたのか。……腹壊すってば」
お義姉ちゃんがセルフネグレクトをしていて、ショックを受けた。
いや、今更だけど。
まさか、冷蔵食品を常温で食べてるなんて思わなかった。
「お願いだから冷蔵庫に入れて。面倒くさがらないでよ」
「んー……」
「あと、今日の夜。ボクいないから」
「お出かけ?」
口を尖らせて振り向く義姉。
「肝試しに行ってくる」
「……塩持ってく?」
「い、いいよ。どうして、友達との肝試しで、本格的な装備をしていくんだよ。ガチ過ぎるよ」
行くのは心霊スポットではなくて、それっぽい場所だ。
義姉はボクが肝試しに行くと聞いて、重い腰を上げる。
何をするのかと見守っていたら、無言で皿を用意し、棚に入っていた粗塩を取り出す。
盛り塩の準備を行っていた。
幽霊を信じていないわけではないみたいだった。
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