君が撮る写真の一部になりたい

やと

君が撮る写真の一部になりたい

高校一年生の梅雨家で心臓心不全で倒れて病院に搬送された。

「あれ?これ」

「起きた」

「先生呼んでくるね」

「かあ」

声が途中で止まる、此処は病院なのか?真っ白い天井だけが見えて体が動かない

「柊さん、大丈夫ですか?」

「あ」

喋れないので頷くしかなかった。先生が僕の目に光を当てたり僕の名前が分かる

か確認して喋れない事も説明してくれた。

「喋れないならスマホで何喋りたいかやってみよう」

それから父が提案してくれて僕は家族や先生、看護師さんとコミュニケーションがとれた。

「柊さん、点滴変えますね。調子はどうですか?」

「なんだか気持ち悪いです」

「そうですよね、最初は皆そう言います」

「いつ頃慣れますかね?」

「それは人によるので頑張ってください」

まあ看護師さんの言う通り慣れるしかないと思ってる所に母さんが見舞いに来てくれた

「凪大丈夫?」

「大丈夫」

スマホに打ち込むだけじゃんなくて打ち込んだ文字が音声として喋ってくれるのでとても便利だと思える。

「そうなら良かったけど、これ着替えね。ここ置いておくね」

「有難う、そう言えば学校に連絡しちゃった?」

「当たり前よ」

「お願いなんだけど病気の事先生だけに言ってほしくて。友達とか他の生徒には言わないで」

「そう、分かった。ならそう先生に言っとくね。」

「そう言えば仕事大丈夫なの?」

「大丈夫よ今は昼休み長くとってるし。それにまだ子供なんだから仕事の心配なんかしないで」

高校生になってもいつくになっても子供は子供なのだからと言うのが母さんの口癖だった。さすがにもうと思っても母さんの言う事も一理あるなと思うし自分もいつか子供を持った時にそう思うのだろうか?

「ちゃんとご飯食べてる?」

「お母さんまだご飯たべれなんですよ」

「そうなんですか。」

「じゃあ凪が好きなお菓子持ってきたけどまだ駄目なのね」

お菓子、そう言えば暫く食べてない。部活に入ってちゃんとしたご飯しか食べてなくここ半年お菓子という存在が頭の中から消えていた。もう自分が好きだったお菓子の名前すら覚えてない。

「母さんお菓子見せて」

「でも食べれないよ」

「いいの」

「分かった」

そう言って母さんはお菓子を鞄から出した。そうだこれが僕が好きだったお菓子だ

「これ机に置いて行って」

「分かった」

それから僕の夏休みの宿題などを置いて母さんは病室を出て行った

「このお菓子好きなんですね」

「はい、小学生の時とかこればっかり食べてよく怒られてました」

「そうなんですね、でも良かったんですか?食べれないのに」

「はい、この存在を忘れてたので少し懐かしい感じがして」

「そっか」

そこから僕は持ってきて貰った宿題をやり尽くして三日で終わらせて持っていた小説も読み尽くしてしまった。そんな時に看護師さんが僕に言ってくれた事で僕の人生が変わって行く。

「小説好きなんだね」

「はい、小説を読むと色々な人間を知れる気がするんです」

「そんなに好きなら小説書いてみれば?」

「僕が?」

「うん」

「そんな、出来ませんよ。第一僕は勉強出来ないし」

「勉強出来なくても文才はあるかもよ」

文才があっても勉強出来ないと腐ってしまうものではないかと思ってしまう反面僕が小説を書いて読んでくれる人がいればと思ってしまった。それに一度死にかけたことでいつ自分が死んでも悔いのないように生きたいと思った。

「やってみます」

「そう、完成したら読ませてね」

それから僕は執筆を続けた。起きてる時や検査が無い時は必ず持ってきて貰ったパソコンと睨めっこをしていた、そんな時間が三週間を続いたある日出版社から連絡があった。

「柊さん、この度投稿している小説を書ご連絡しました。記載した電話番号にお電話ください」

直ぐに電話をした。幸い声もリハビリのおかげで出るようになった。そこからはとんとん拍子で話しが進んでいって書籍になって手元に自分の手に取った時は涙が込み上げてきそうになった。

「生きてる?」

「生きてるよ」

ラインの相手は同じクラスで同じサッカー部の陸人だった。

「今電話できる?」

「いいよ」

直ぐに電話がかかってきた。

「よう」

「ようじゃねえよ、急に入院したって聞いたけど大丈夫か?」

「うん、ただの検査入院だから」

「そうなんだ、で、いつ退院できるんだ?」

「それが夏休みずっとみたい」

「まじか。重症じゃん」

「そこまでじゃないよ」

「なるほどね、ちょっとテレビ通話にして」

そう言われてテレビ通話にすると陸人を筆頭に段々と人が増えていった

「皆練習してたの?」

「当たり前だろ、ひいらっち」

先輩からそう呼ばれているが久々に皆の声と顔を見れて嬉しくった

「ひろっち、合宿さぼったんだから戻ってきたら覚悟しとけよ」

「すいません」

「まあ気長に体調治せよ」

部長が気を利かせてそう言ってくれた

「先輩達も大会頑張って下さい、応援してます」

「おう」

「それじゃあ必ず治せよう」

最後に陸人が一言言って電話を切った。

最近良い事が続いているので何か悪い事が起きてしまうのではないかと不安になる

「柊さんちょっと良いですか?」

そう言って看護士さんが病室に入って来る

「お散歩行きませんか?」

「散歩ですか?」

「そうまだ車椅子だけど折角こんな良い天気だし、気分転換に」

「分かりました」

「じゃあ行こ」

車椅子に乗って病室を出る。下のフロアに行って外の庭にのような場所まで押してもらう

「外熱いですね」

「そうでしょ、もう八月だし」

「一ヶ月冷房の効いた部屋に居たのでより熱さを感じます」

「大丈夫?気持ち悪いくなったりしたら直ぐに言うんだよ」

「大丈夫です」

そう言って暫く看護士さんと談笑していたが看護士さんが驚く事を言い出した

「あそこのベンチに座っている人が読んでいるのって柊さんが書いた小説じゃない?」

そう言って指を指した所を見て見ると、確かに僕が書いて出した小説を読んでいる少女が座っていた、少女はきりっとした目元に顔立ちがとても優れていて大人っぽい雰囲気をかもし出していた。

「ちょっと話してみない?」

「え?」

いきなりすぎてどうしたらいいか悩んでいる内に看護士さんが少女に近付いていき何かを話している、暫くその状況が続いて看護士さんが戻ってきた。

「ちょっと私飲み物買ってくるね、何がいい?」

「じゃあ珈琲でお願いします」

そう言うと足早に去って行った。

待ってる間に何をしようかとさっきの少女の方を見ると段々と少女が近付いてくる、なんだか逃げたくなるが車椅子に慣れてない為どうしようもなくそのまま少女が隣のベンチに座った。

「あの?」

「はい?」

「柊先生ですよね?微熱恋読みました」

「先生だなんてそんな大層なものじゃないですよ」

「でも凄いですよ、執筆初めて一ヶ月足らずでデビューして世間からも評判良いし」

てっきり批評されると思って世間の評価なんて見なかったが案外そう言う訳ではないらしい

「あ、すいません話し過ぎました」

「いえいえ嬉しいですよ」

「良かった、柊先生の投稿に初めてコメントしたんです」

「あの、ヒカリってアカウントのかたですか?」

「そうです、覚えて下さったんですか?」

「そりゃ初めてコメントしてくれたんですから覚えてますよ」

「なんだか嬉しいですね」

「そうですね、そう言えばひかりさんは誰かのお見舞いで来られたんですか?」

「ひかりで良いですよ、同い年ですしタメでいいです」

「そうなんだ、じゃあ高校一年生か」

「うん、でも学校には暫く行ってないんだ」

「なんで?」

「私昔から心臓が悪くてずっと入院してるの」

「そっか」

「柊先生病気?」

「誠」

「え?」

「名前、先生って呼ばれるの好きじゃないんだ」

「じゃあ誠はなんで此処に居るの?」

「一カ月前に心不全で入院したんだ」

「そっか、でもこうやって誠に会えたんだから私もまだ付いてるな」

「お互い病気なんだから喜ぶ所じゃないでしょ」

「でも私はお見舞いに来てくれる人もいないしずっと此処にいて寂しかったしこれは神様が最初で最後のプレゼントだよ」

「最後?」

「うん、私もうそろそろ死ぬんだ」

「俺もあんまり長くないな」

「そうなの?」

「うん、此処に入院した時先生に意識が戻ったのは奇跡だって言われたし再発もあるし元々体が弱かった事もあって次に心臓が悪くなったら次はないだろうって言われた。だから後悔しないように小説を書いたんだ」

「じゃあお揃いだね」

「なんだか嫌な共通点だね」

思わず二人で笑ってしまった

「じゃあ私が先に死んだら誠に一度だけチャンスをあげるよ」

「なにそれ」

「よくあるでしょ小説でもドラマでも最後に生き返ったってやつ」

「そんなのフィクションでしょ」

「じゃあ私が現実にしてあげる、だからその時は誠になにか分かるように合図するね」

「合図?」

「うん、なににしようか」

そう言うとひかりは上を向いて考える始めた、なんだか不思議な人だなって思った。

「じゃあこうしよう」

「なに?」

「こっち向いて?」

「え?」

そう言われてひかりの方を向くとひかりが鞄から持ち出した一眼レフカメラで僕を撮った

「写真?」

「うん、私好きなんだ」

「そうじゃなくて、撮るなら言ってよ」

「えーだってそれじゃあ意味ないじゃん」

「意味って」

「これからも撮っていい?」

「今度はちゃんと言ってから撮ってよ」

「それだと格好つけるでしょ」

「そうじゃなくて、びっくりするから。ってか格好つけないよ」

「どうかな」

ひかりはもう直ぐ死ぬなんて嘘のように元気に笑って見せた

「柊さんもう戻らないと」

いつから居たのか僕の背後から突然声をかけられた

「分かりました、じゃあね」

「あの、また会える?」

「もちろん。病室八○五」

「私は八○七」

なんと以外と近かった

「じゃあ明日誠の部屋に行くね」

「分かった」

看護士さんが車椅子を押して庭から離れる

「随分と楽しそうでしたね」

「まあ良い子でしたから」

「そう、よかったらひかりちゃんと仲良くしてあげて」

「そのつもりです、僕に見舞いに来てくれる人いないですし」

「そうなの?この前楽しそうに電話してたのに」

「あれはなんと言うか。電話や連絡しても実際来てくれる人なんて以外といないものですよ」

「友達なのに?」

「心配はしてくれてもわざわざ時間を作る価値が僕にはないんですよ」

「そんなことないと思うけど」

「人間なんてそんなもんです」

「なんだかませてるね」

「高校なのに生意気でしたかね」

「いいや、なら尚更ひかりちゃんと仲良くしてあげて」

「どう言う意味ですか?」

「ひかりちゃんも前に同じようなこと言ってたから」

「そうなんですね」

こうして意外な形で僕の最初の読者に出会った一日が終わり次の日から毎日二人でお互いの病室を行き来して検査や消灯の時間まで二人で過ごした。

「何かいい写真のモデルない?」

急にひかりがそう言い出した

「急に言われてもな」

「此処らへんにある物は撮り尽くしたんだよね」

「自分で探せよ」

「だって撮って飽きないの誠だけだし」

「それは嬉しいけど新鮮なだけで直ぐに飽きるだろう」

「そんな事ないよ」

今日は言わなければいけない事があった

「そっか」

「んーじゃあ今度近くでやってる花火しない?」

「花火?」

「そう友達と花火したかったんだ」

「でも何処で?」

「病院の庭でやろうよ」

「良いのそれ?」

「うん、先生とか看護師さんに言ったら皆でやろうって言ってたし」

「そうなのか、じゃあやろう」

「うん」

ひかりは嬉しそうに外を見ている

「あのさ」

「どうしたの?」

「明日で退院できる事になったんだ」

「え?」

驚きと悲しさで溢れているような表情で俯いてしまった

「おめでとう」

「うん」

「じゃあ一緒に居られるの今日が最後だね」

「なんで?」

「だって学校あるでしょ?」

「だったとしても学校終わりに必ず来るし部活も辞めるから休みの日も来るよ」

「辞めるの?」

「うん。先生にもう部活は出来ないって言われたし病気の事も生徒には誰も言ってないから急に倒れる所見られたくないし」

「言ってないんだ」

「余計な心配かけたくないし」

「そっか、でも誠のそう言う所良くないよ」

「どう言う所?」

「言葉が足りないんだよ」

「そうかな?」

「そう、絶対そう」

なんだか怒ってるご様子にぴんと来ない

「だって退院の事だって前から分かってたのに言ってくれなかったじゃない」

「ごめんでもなんか言い出せなくて」

「そう言う所が悪いって言ってるのこれはちゃんと矯正しないとだね」

「矯正?」

「そう、だってこれから毎日来てくれるんでしょ?」

「まあそう言うつもりだけど」

「夏休み終わるのいつ?」

「明後日」

「時間ないじゃん」

「夏休みなんて二ヶ月もないよ」

「そんなのもう暫く学校に行ってないんだから感覚なくなるわ」

「そんなに怒るなってでも花火大会にしては時期遅くない?」

「今はそんな事どうでもいいの」

それからひかりの説教で機嫌が直る事はなかった。

次の日になるまで明日でやっと此処から解放されると言う気持ちとひかりと少しでも一緒に居られる時間が減ると言う現実に心が押し潰されそうであまり寝られなかった。

「あまり無茶をしてはいけないよ、それから薬を必ず飲むのと激しい運動は控えてね」

「分かりました」

「忘れ物ない?」

今日は両親が休みをとってくれて久々に家族で集まれた

「全部持った」

「じゃあ行こうか」

「ちょっと待って」

病室を出る時にひかりに声をかけようとしたが病室にいなく検査なのかと思っていたのでラインで一言。

「じゃあ行くね」

既読にならないと言う事はきっと検査なのだろうそう思って下のフロアまで行って病院のドアを出ようとした時後ろから声が聞こえた

「ちょっと待って」

「ひかり?」

「挨拶もなしに帰るなんて酷いじゃない」

「それは病室にいなかったから」

「だからって検査終わるまで待ってくれてもいいじゃん」

「ごめんって」

泣きそうな顔を見てやっぱり寂しいのだろうと感じたのと共に自分も寂しいと思った。

「ちゃんと毎日来るから」

「約束だよ」

「うん。約束」

指切りをして病院を出た。

「あの子が話してたひかりちゃん?」

「そう」

「友達できたのね」

「学校でも友達はいるよ」

「そう?あんまり話さないからいないのかと思ってた」

「部活に入っているんだし友達くらいいるよ」

「そうなんだ」

「誠、行きたい所ないか?」

「うーん、とりあえず家に帰りたい」

「そうか」

父さんが運転しながら聞いてくるから多分気を利かせてくれたのだろうと思ったが実際は病院にいても毎日シャワーは浴びれないから早くお風呂に入りたかった。

車で病院から二十分電車では三十分くらいだこれなら一人で電車でひかりに会いに行くのに時間的な問題はない。

「ただいま」

「おかえり」

なんだか久々な感じがする、これをひかりは久しく経験してないとなると相当な苦痛だろう

「お風呂入って良い?」

「いいよ、多分沸いてるから。荷物置いて入りな」

「うん」

荷物を自分の部屋へと持って入った約二ヶ月ぶりの自分の部屋に落ち着きを感じる

「さてと取り敢えずお風呂に入ろう」

こちらも二ヶ月ぶりの自宅のお風呂。もう湯船に足を伸ばす事は出来ないがそれでも家中の全ての空間が落ち着くものだらけで溢れている。ただこれまでとは違う点が一カ所、胸に刻まれた手術跡。これが自分が死の間際にいた事を証明している。でもこの傷で生きてるのならまだましな方なのかもしれない

お風呂を出てラインに通知が入っていた

「誠さんは家に着いた頃かな?」

「うん、お風呂入ってた」

「お風呂だなんていいな」

「やっぱりそう思う?」

「そりゃ自分の家のお風呂に入ったの何年前よって話し。それにこっちは二日に一回のシャワーだけだよ」

「羨ましいだろ」

「次来た時覚えてろよ」

拗ねてしまった、少し意地悪してしまったな。

「お風呂どうだった?」

「気持ち良かったよ」

「そう、なら良かった。お昼なに食べたい?」

「うーん、特にこれ食べたいって言うのはないな」

「誠さ、折角退院したんだからなにかいいなさいよ」

「じゃあカレー」

「それは夕食にする」

「えーなにか言って言ったのに」

「それじゃあ炒飯でも作るよ」

父さんが料理するなんて珍しい、でも実は結構料理が上手くて結構楽しみにしていた

昼ご飯を食べて部屋の整理をして明後日の学校の準説明するかを考えるなんと言っても約二カ月も入院していた訳でただの体調不良では言い訳にはならないだろうかと言って本当の事は言いたくない。

そんな事を一日中考えていたら退院して家に帰った日は言い訳を考える時間で終わった。

翌日約束通りに昼過ぎにひかりの病室に僕は居た。

「そんな事考えてたの?」

けらけらとひかりが笑う

「だって病気の事を言いたくないしかと言って病気の事を言いたくないしで頭がいっぱいだったの」

「そんなに言いたくないの?」

「なんか今までの関係性が壊れそうで怖いんだ」

「そんなので壊れるものじゃないよ友情って」

「友達いないひかりが言うのか」

「別にいない訳じゃないよ」

少し恥ずかしそうにそして悲しそうにひかりが言う

「本当か?」

「まあ向こうはもう友達って思ってるか分からないけど」

これだけで大体喧嘩分かれでもしたのだろうと理解できたそれと同時にひかりがこんな状態なのになんで見舞いに来ないのか理解が出来なかった。

「それで良いの?」

「良いのって?」

「だって俺が来るまでずっと一人だったんだろ?」

「まあそうだね」

「そいつ今どこにいる?」

「なんで?」

「俺が連れて来る」

「ちょっと怒ってない?」

「怒ってる」

「なんでよ」

「分かんないでもこのままでいいわけない、名前は?」

「いいよそんなのそれに今何処にいるか分かんないし」

「それなら俺は日本中、世界中だって探し出してやる」

「なんでそんなにしてくれるの?」

「それは」

今の自分がどう言う感情でこんなこと言っているのか分からないけどひかりはもう長くないと分かっているので尚更引き下がれない。

「分かんないけどそうした方が俺は良いと思うから」

「それはお節介じゃない?」

「お節介と親切は紙一重とも言うだろ?」

「まあでも良いよ」

「取りあえず名前教えて」

「白井優って人」

なんだかどこかで聞いた事ある名前だ

「分かった取りあえず今日は帰るわ」

「分かった」

病院を出て次の日にもやっとした感情に答えがでる訳だがそんな事しりもしなかった。

「お帰り」

「ただいま」

「ちゃんと薬飲んでる?」

「うん」

「明日学校なんだからお風呂入ってご飯食べて早く寝る、分かった?」

「分かってるよ」

薬はちゃんと飲んでるし心配しすぎと思うがやはり再発がある事が問題で僕自身心配している、此所で倒れたらと思うそう言う恐怖が常に頭の片隅にある。

朝目覚めると今日もちゃんと生きてるって思う、もし寝ている時に病気に襲われたらと不安になりながら眠りにつくが白い天井を見ると今日も寿命が伸びてるって思える。

「おはよう」

「おはよう、早いね」

リビングに行くと既に父さんがスーツを着てご飯を食べている

「あんなに朝弱かったのに」

そう言う母さんも仕事に行く恰好をしている

「朝私が車で送って行こうか?」

「そんな事したら折角先生だけに言った意味がなくなるじゃん」

「そう」

やはり心配なのだろうそりゃ心配しない親などいないと思うが車で送ってもらうまでされると少し嫌だ

「行ってきます」

今日も誰もいない家に声をかける、親は先に家を出るから誰もいない訳だが小さい時に病気で叔父が亡くなって悲しくて泣いていたら父親が

「おじいちゃんは家にいるよ」

そう仏壇の方に向かって言ったそこには写真があるが当然叔父はいないだけど小さい僕はそれを信じた事で今ではすっかり習慣化してしまった。

電車に揺られて学校に向かうあんなに言い訳を考えたのに結局なにも浮かばなかった。音楽を聞きながら通学路を進んで十分、学校に着いた。

学校に着いたら職員室に行くように言われていたので職員室に向かう

「失礼します、一年四組の柊です」

そう言うと担任の先生が僕に挨拶に来てくれた

「柊君大丈夫?」

「まあお蔭様で、それで病気の事は」

「うん、先生しか知らないけど仲の良い友達には言った方が良いんじゃない?」

「いや、誰にも知られたくないんです」

「そう、分かった。でもなにかあれば先生に言うんだよ」

「はい」

職員室を出て教室に向かう、こんなにも教室が怖いと思ったのは初めてだ。

教室をの扉を開けると一番に陸人が声をかけてくれた

「誠大丈夫か?」

陸人が声をかけた途端にクラスの皆が僕の方を見てくる。

「大丈夫だよ」

「あれからずっと入院してたんだろ?」

「うん、でももう大丈夫だから」

「それなら良いけど」

僕の席につくとなんだか二カ月いなかっただけで皆に会うのも此処に座るのも久し振りな感じがする。

授業中も休み時間もやはりずっと病気がちらついて集中が出来なかった体育も休まなければいけなく見学をしていた。こんなんではいけないと思いながらひかりも学校に通っていたらこんな思いをするのだろうかと気付けば病気の事かひかりの事を考えてしまっている。

退院後初めての学校を終えてほっとしているが僕にはもう一つやらなければいけない事があった

「なあ陸人白井優って人この同じ学年だったよね?」

「そうだけど」

「何組?」

「三組だけど、まさかお前告るのか?」

陸人がでかい声で言うものだから皆がこちらを見てくる中には

「頑張れ」

だとか

「白井さんは無理だぞ」

とか余計な事ばかりを言う奴らばっかりだった。

「いや、そう言う訳じゃないけど」

「良いから行くぞ」

「行くって何処に?」

「三組」

なんだか勘違いしているみたいだしまあ高校生なんて薔薇色なんだと思うが僕は白井さんには興味はないけど白井さんは色んな男子から降られただとか中にはイケメンな先輩と付き合ったり分かれたりとなにかと噂話が絶えないので僕がいくら頑張ろうと無理だろうそんな事は知らず陸人だけではなく色んな人間が出てくる三組に行くと陸人につられて白井さんに話しかける

「白井さんちょっといい?」

「なに?」

「こいつがなんか話しがあるんだって」

「なに?」

目付きがきつい上に色んな人間が見ていてなんとも言いずらい状況になっている

「いや、あのなんと言うか」

「なんなのそう言うなよなよした奴嫌いなんだけど、もう私行くね」

「あーあ、早く言わないから」

陸人が小言を言うし皆が僕にがっかりしたり当然だと言わんばかりと勝手に終わらせようとするでもひかりの顔が頭の中で浮かんだ、ひかりの為ならもうどうにでもなれと思った。

「ちょっと待って」

「痛いんですけど」

思わず腕をつかんでしまった

「あ、ごめん」

「なんの本当に」

「あの、田烏ひかりって知ってる?」

そう言うと表情が変わって僕を見てくる。

「なんであんたがひかりの事知ってるの?」

「いやちょっと病院で会って」

「ちょっと来て」

誰も居ない場所につ連れてかれて話しをする

「あんたひかりとどう言う関係なの?」

「ただの友達だけど」

「そうなんだそれで私になにか?」

「いや、ひかりの見舞いに行ってほしくて」

「なんで?」

「いやひかりが友達だって言った人白井さんしかいなかったし」

少し興味があったのかそれともただの気まぐれか白井さんは僕に質問を続けた

「なんで名前が同じってだけで私がひかりの言ってる人だって分かったの?」

「朝に見かけた時にひかりと同じ縫いぐるみバックに付けてたから」

「なにそれ、きも」

「いや普通に傷つくからやめて」

そう言うとふっと笑顔を見せた

「じゃあ正解って事で行くよ」

「本当?」

「行くって行ったでしょう」

「よし」

自分でも驚く程にでかい声がでた

「うるさい、ほら行くよ」

自分でも予想外な展開になって驚いている、学校であんなに人気な人と一緒に電車に乗っているなんて。学校の皆に知られたら大変だ。でも会話は殆どないのが悲しいしひかりの事を聞きたいがそんな雰囲気ではないし学校にでて電車に乗った時にあんまり話し掛けないでって言われてしまった。

「で、どこ病院?」

「あと五分くらいでつくよ」

電車から出て歩いていても隣に居てほしくないのか僕の半歩後ろで付いてくる。その間にも会話はないでもひかりに僕以外の人に会えるのならなんでも良かったしなんなら嬉しかった。

病院について病室まで案内して声をかけて入る

「ひかり、入るよ」

「はーい」

病室に入って白井さんを見た瞬間にどっと涙きだした。

「優ちゃん、久し振り」

「ひかり久し振りね」

なんだか想像と違って困惑している所を白井さんが見て笑いながら説明してくれた。

「その顔じゃあ喧嘩分かれでもしてひかりと会うのが気まずいとか思ってたんでしょ?」

「なんで分かったの?」

「だって貴方ずっと緊張してたし」

「それだけで?」

「まあ縫いぐるみ見ただけで呼ぶとかどうかしてるでしょ」

「まあ確かに」

「優ちゃん、ごめんね」

「まだひぎずってるのね、もう怒ってないよ」

「そっか」

不安になっていた顔がぱっと明るくなった。なんだか自分だけ蚊帳の外って感じで気まずかった

「で、どう言う事?」

「貴方にも分かるよりに簡潔に言うと、私達は小学生の時に病院で会ってそれから同じ学校って事で仲良くなって中学でも学校は同じだったけど途中で海外に行く事になってなかなか会えなかっただけ」

「そうなんだ、ってかさっきなんか僕の事馬鹿にしたよね」

「別に馬鹿にはしてないよ。見たまんまの印象で話しただけ」

「それが馬鹿にしてるって言ってるんだ」

「誠も優ちゃん仲が良いんだね」

「どこを見たらそう見えるのよ」

「そうだよ大体今日初めて喋ったのに」

「こんな見るからに陰キャで空気読めないやつ嫌い」

「空気読めないってなんだよ」

「だって皆の前でこの事話さなくても良いじゃん」

「それは皆が勘違いしてただけだし」

「そんな事言って実はみたいな」

「天地がひっくり返ってもない」

「俺もない」

「なんであんたが上からなのよ」

「ひかりちゃん点滴変えるよ」

「はーい」

看護師さんが入ってきた

「あら今日は誠君だけじゃないのね」

慣れた手つきで点滴変える看護師さんが珍しそうに言ってくる

「初めまして白井です」

「初めまして」

「誠君は調子どう?」

「大丈夫です」

「ちゃんと薬飲んでる?」

「はい、言われた通りに」

「なら良いけど、そうだひかりちゃん花火何時だっけ?」

「そうだ、もうやろうかな」

「花火?」

「そう言えば今日って言ってたな」

「花火大会とか行けなかったし写真のモデルに花火やりたいなって」

「今日やるの?」

「うん、もう買ってあるんだ」

そう言ってベットの中からビニール袋いっぱいに花火が詰まっていた

「それ全部花火か?」

「そうだけど」

「そんなに必要なの」

「まあ色んな人誘ったしコンビニで買ったんだけど買いすぎたかな」

「買いすぎだよ」

「じゃあ皆呼ぼうか」

そう言って看護師さんにひかりが誘った人達を呼んでもらって病院の庭に集まってもらったらひかりを診ている先生や看護師さん達など入院している子供から大人、お年寄りまで庭には祭りでもやってるのかと言える程に人が集まった。

「じゃあ皆花火持っていってそれぞれ楽しみましょう」

ひかりの一言で一斉に皆がひかりに感謝を告げながら花火を持っていった。

「あんなにあったのにもうなくなったな」

ひかりは子供やその親だったりお年寄りに捕まって沢山の人に囲まれてとても楽しそうだった

「ひかりがあんな笑顔なの久し振りに見た」

「やっぱり来て正解だっただろ」

「なんかあんたの手の平って感じで嫌だけど取り敢えず良しとするわ」

「素直じゃないな」

「それでひかりの事どう思ってるのよ」

「どう思ってるって?」

「本当に空気読めないね」

「よく分からないから聞いてるんだけど」

「ひかりの事好きなの?」

「直球だな」

「こう言わないと分かんないでしょ」

「そこまでじゃないよ。でも自分は人の事好きになった事ないから分かんない」

「好きってなんか気付いたらその人の事考えてたりまあ人によって変わるからこれってものはないけどただその人が喜びそうな事考えたりそれは気付いたらって感じだよ」

「じゃあそうなのかも」

「そうなのってひかりには時間がないんだよ」

「分かってるけど自分の感情を押し付けたくないんだよ」

「馬鹿」

「シンプル悪口やめろよ」

「うるさいそんなんじゃひかりは渡せないね」

「なんで親目線なんだよ」

「だって中学までずっと一緒だったし」

「そう言えば今日ひかりが誤ってたけどなにがあったの?」

「私が海外に行くってなってひかりが泣き止まなくてちょっと揉めただけそれにもう海外に行く前に解決してるし」

「じゃあなんで帰ってきて直ぐに会わなかったんだよ」

「それはちょっと気まずかっただけ、あなた少し気を使いなさいよ」

「でも親も大部前に亡くなってたんだし寂しかったのに」

「分かってるよでもそう思うならもっとひかりの事考えてあげて」

「考えてるよ」

「じゃあ舞台用意してあげる」

「舞台?」

「そう私らの文化祭に呼ぼう」

「でもひかりは外に出るの難しいだろ」

「それがあんたの仕事でしょ」

「無理言うなよ」

「ひかりに対する想いはがあれば大丈夫でしょ」

「それとこれとは話しが違うだろ」

「それにあんたの小説映画やるんでしょ?」

「なんで知ってるんだ」

「昨日ニュースでやってて、学校の皆知ってたよ」

「そうなんだ」

「文化祭の後に映画言ったら完璧」

「完璧ね」

「ちょっと二人でいちゃいちゃしないでよ」

「してない」

さっきまで人気者だったのにいつの間にかそれをかいくぐって僕らの前に来た

「誠皆が感謝してたよ」

「俺に?」

「うん」

「なんで?」

「だって花火やろうって決めてくれたじゃん」

「花火やろうって言ったのひかりだろ」

「私だけじゃあ出来なかったよ」

「そんな事ないだろ」

そう言うと白井さんが溜め息をついて僕に一言言った

「あんたの後押しが嬉しかったんでしょ」

「そうなの?」

ひかりが恥ずかしそうに顔をそらした

「全く本当に空気読めないな」

「うるさい」

「誠君久し振り」

声がした方を見ると僕の主治医の先生が花火を持ちながら嬉しそうに近付いてきた

「誠君ってあの人?」

「そうだよ」

近くの子供達がこっちに来るようにと僕に手招きをしている

「ほら皆の所に行ってあげな」

「分かった」

小走りで子供達の方に行った

「そう言えばひかりの言ってた事本当に起きたね」

「縫いぐるみの事?」

「そう」

「まあお呪い程度だと思ってたからびっくりしたよ」

「ひかりが縫いぐるみに必ず誰かが気付いて私達を再会出来るようにしてくれるなんて言った時はなに言ってるんだって思ったけど現実に柊君みたいな人いるんだね」

「優ちゃんを本当に連れてきた時は誠に関心したよ、懐かしいね二人で話すの。入院してた時は優ちゃん泣き虫だったのに海外に行って変わったんだね」

「うるさい、で、柊君の事どう思ってるの?」

「私は誠の事…」

「誠君だったっけ」

「はい」

お年寄りが話しかけてきた

「ありがとうね」

「もう私らは長くないから最後に楽しい思い出ができたよ」

「お礼は僕じゃなくてひかりに言ってください」

「そうだね」

「誠君はひかりちゃんの事好きなの?」

無邪気な子供が僕に聞いてきた

「こらそう言う事聞かないで、ごめんなさい」

子供の親が誤ってきた

「大丈夫ですよ」

「私の子供だけじゃなくて皆やっぱり入院してるから娯楽も少なくて」

「じゃあ良かったですやっり楽しい事は皆でやったほうが良いですから」

「そう言ってくれたら嬉しいわ」

「誠君退院してから調子どう?」

主治医の先生が会話が切れた間に聞いてきた

「痛む事もなくなりましたし薬も飲んでます」

「そう良かったでも前に言った通り再発の可能性はあるしもし次なにかあれば」

「分かってますもう大部前から僕の心臓は弱っていて次倒れたら死ぬ可能性が高い事も」

「無理しない程度に後悔のないように生きるんだよ」

先生の言葉でやっぱりもう僕にも時間がないのだと言う現実を突きつけてくる

「先生、もし壊したくない関係性があってそれが自分の感情の押し付けでたった一言で壊れてしまうかもしれないとしたらどうしますか?」

「私は怖がりだから言わないかもしれないけどそれで何度も後悔してきたから誠君にはそうなってほしくないな。それに誠君は普通の人と違った物を持ってしまってるから尚更後悔してほしくないな」

「分かりました」

ひかりの方を見ると一眼レフカメラを持って色んな所を撮っている。ひかりは僕の事をどう思ってるのだろうか、もし少しでも可能性があるのならもう少しだけ君が撮る写真の先に居たいと思った。

「ひかり起きてる?」

花火をした日から少し経った時ひかりに文化祭の事を言ったら行きたいと言ったが先生には難しいと言われてしまったらしくここ数日元気がなかったので心配で時間が許す限りひかりのそばにいようと思いひかりの病室に僕は居る。

声をかけたがひかりは寝ていた

「なんだ寝てるのか」

ひかりの寝顔はとても可愛らしかったがこれが続く事がいつの日か来ると思ったら涙が流れた

「なんで泣いてるの?」

いつの間にかひかりが起きてぼくの方を見ていた

「いや、何でもないよ」

「もしかしてキスしようとか考えてたんでしょ?」

「そんな訳ないだろ」

「顔を真っ赤だよ。もうウブだなー」

ひかりが楽しそうにからかってくる

「やめろよ」

「ごめんってば、そんなに怒んないでよ」

「こっちは心配してたのに」

「心配?ああ、文化祭の事?」

「それもあるけど」

「それなら問題ないよ」

「なんで?」

「もう外出許可もらったし」

「本当に?」

「うん、薬のんでちゃんと報告したら良いって」

「あんなに反対されてたのに説得できたのか?」

「誠がついてたら良いって」

もう駄目かと諦めていたのに先生には感謝だと思った

「それに誠の小説の映画やるならなんとしてでも行かなきゃね」

「本当に行くのか?」

「なんで?」

「なんか恥ずかしい」

「別に誠が出てる訳じゃないでしょ?」

「そうだけど、脚本を共同でやらせてもらったしなんか恥ずかしいんだよ」

「ずっと小説読んできてるんだから今さらでしょ」

「それとこれとは違うんだよ」

「変な所で照れるなよ気持ち悪い」

「来てたのかよ」

「来たら悪いの?」

白井さんがいつの間にか病室に来ていた

「それより文化祭来れるって本当?」

「うん、当日はちゃんと行くから」

「無理しないでね」

「大丈夫だよ。優ちゃんのクラスはなにやるの?」

「喫茶店だよ」

「そうなんだ。誠は屋台だったよね?」

「うん」

「楽しみだな。高校の文化祭に行けるなんてないと思ってたから」

「じゃあひかりが楽しめるように準備しとくから」

「うん」

「ここの所毎日来てるな」

「それは貴方もでしょ?」

「俺は良いんだよ」

「それはひかりが決める事でしょう」

「私は二人が来てくれるので嬉しいよ」

「ひかりはこの人に甘いのよ」

「そうかな」

「そうよ」

「ひかりもこう言ってるんだし良いじゃん」

「調子乗らない、それにお見舞いに来てるならパソコンやめなよ」

「仕事なんだからしょうがないだろ」

「誠はそのままで良いんだよ、私は誠が小説書いてる所が見たいんだから」

こんなやりとりをしていたらいつも直ぐに帰る時間になってしまう

「誠君ちょっと良い?」

「はい」

看護師さんが僕を呼び止める

「じゃあ私は先に帰るね」

白井さんが先に帰っていく

「なんですか?」

「ひかりちゃんと文化祭と映画に行くのよね?」

「はい」

「ちゃんと薬と報告するように見ててあげて」

「分かってます」

「ひかりちゃん久し振りに外に出る為に辛い薬投与して頑張ってるからちゃんと見てあげてね」

「分かりました」

分かっていた。症状が良くなく外出するのなら辛い薬を受けなくてはいけないとも、ひかりに残された時間も少なくなっていた事も。

そんな少なくなった時間も僕はひかりの病室に行き僕は文化祭の日までなんとかもってくれないかと願いながら当日を迎えた。

「ひかり、入るよ」

「はーい」

「大丈夫?」

「なにが?」

「いや体調とか」

「そんなのもう万全だよ、やっとこの日が来たって感じで元気いっぱい」

「それなら良いけど」

「もう時間?」

「いやまだ少し時間あるよ」

「そっか、そう言えば文化祭昨日からだよね?」

「うん」

「どうだった?」

「昨日は学校関係者しか居なかったけど皆楽しんでいたよ」

「誠は?」

「僕は一日受付だけだったからあんまり楽しくなかった」

「折角の文化祭なんだから楽しまなきゃ」

「分かってるよでも今日は仕事もないしひかりと回れるから楽しみだよ」

「そっか、じゃあ今日は案内頼むよ」

「了解」

普段の会話を続けて二人だけの時間を過ごしていたらラインに通知が入った

「もう病院でた?」

「まだだけど」

「なんか人多いみたいだから早めに来てね」

「誰か?」

「白井さん」

「なんだって?」

「なんか人が多いから早めに来てだって」

「じゃあそろそろ行こうか」

「分かった」

ひかりを車椅子に乗せて看護師さんに挨拶に行った

「行ってきます」

そう言うと看護師さんが先生を呼ぶから少し待ってと言われた

「ひかりちゃん、ちょっと血圧計るね」

「はーい」

先生がひかりに血圧や脈など機械で図って異常がない事が分かって先生が笑顔になった

「大丈夫そうだね」

「良かった」

「でも無理はしないでね、柊君もちゃんと見ていてあげて」

「もう先生は心配しすぎ」

「誠君ちょっと良い?」

ひかりを主に見ていた看護師さえに呼ばれた

「誠君には言っとくけど最近ひかりちゃん、最近あんまり調子良くないから本当は私も先生も外出は許可したくなかったんだけどひかりちゃん、今日を本当に楽しみにしてて辛い薬も耐えてたからやむなく許可したけどひかりちゃんが外出できるのは今日が最後になる可能性だ高いからひかりちゃんが無理ない程度に思い出を作ってあげて」

「はい、任せてください。ちゃんとひかりを送り届けます」

「誠なに話してるの?」

「いや文化祭なにやるのとかだよ」

「そっか」

これがひかりと外で遊ぶ最初で最後になるのかと思った。

「じゃあ行こうか」

「うん」

「ひかりちゃん、楽しんでね。それから連絡はきちんとするように」

「分かってますって」

「じゃあ行ってきます」

ひかりを連れて病院を出て看護師さえが運転する車で学校に向かった

「なんだか高校のに行けるってだけで楽しくなってきたよ」

「まだ着いてないのに?」

「うん」

ひかりの顔を見ると少し顔色が悪く感じた

「顔色悪いけど大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「水飲む?」

「大丈夫だって、誠もなんだか看護師さえに似てきたよ」

「それはひかりが心配なだけ」

「そっかでも学校に行ったら顔色も良くなるよ」

「なら良いけど」

ひかりの体調を気にしながら僕もなんだが緊張してきて学校に着くのに時間が早く感じた。

「じゃあ私はここで」

「はーい」

「ありがとうございます」

車を出て看護師さんにお礼を言って学校に入る

「誠君」

「はい?」

「学校でるちょっと前に連絡してね」

「分かりました」

再び学校に足を向けた。学校の門を括ると受付をしている先生と生徒会の生徒が出迎えてくれた

「誠誰か連れてるの?」

驚いた様子で複数の人から聞かれる

「いやその友達だよ」

「本当か?彼女じゃないのか?」

なんだか嬉しそうにからかってくる

「いや彼女というか病院で知り合った友達だよ」

「彼女です」

「え?」

急に突拍子のない事を言うものだから驚いてしまった

「ほら、って言うか彼女に友達なんて言うなよ」

「いやそれはなんと言うか」

突然の出来事でひかりが俺の事どう思ってるとか分からないしそんな事を考えている事で少し人集りができてしまった

「あ、ひかり此処に居たんだ」

「優ちゃん」

そんな僕を見たのか助け船を白井さんが出してくれた

「じゃあちょっと行ってくるね?」

「どこに?」

「女の子の用事を聞くのは野暮だよ」

「えー」

「じゃあ一階の自販機の前で待ってて」

「分かった」

なんだか分からないけど言われた通りに自販機の前でひかりが好きなジュースを持って横にあるベンチで待つ事にした。その間僕が彼女を連れてきたと言う事が噂になって友達が僕に話しかけてきた。こう見えても友達は多いので色んな友達が次々に僕に問いかけてくる。上手くごまかしながら十分くらい経って白井さんが僕を呼んだ。

「ちょっと来て」

「ひかりは?」

「今連れてくから」

少し嫌な予感がした、もしかしたらひかりが倒れたりしてたりしたらどうしようと思った。すると一番近くにあった女子トイレからひかりが出てきた。

「え?」

ひかりがメイクをして出てきたので思わず持っていたジュースを落としてしまった。メイクをしたひかりは元々持っていた大人びた雰囲気だけではなくキリッとした目元を活かしながら可愛らしくなってモデルのようにそして名前の通りどんなに人混みに混ざっても光って見えると思えるくらい可愛かった

「ちょっと初めてメイクした乙女に何も言わないってどう言う事?」

「本当に空気読めないよね」

「いやいやちょっとびっくりして」

「メイクして顔忘れちゃった?」

ひかりが少し残念と機嫌を落とした用に見えた為直ぐに誤解を問いた

「いやめちゃめちゃ似合ってるし可愛いよ」

そう言うとひかりは顔を背けてしまった。

「それでいい」

「え、どう言う事?ちょっとひかりこっち向けよ」

「うるさい、もう行くよ。押して」

ひかりは顔が赤くなっていた。何時ぞやの仕返しができた、とても幸せだと思えた。

「はいはい」

「じゃあ最初は誠のクラスに行こう」

「分かった」

自分のクラスに行くと皆が驚いた様子で僕らを見てきた

「誠彼女連れてくるなら言えよ」

「うるさい」

「可愛いですね。なんて名前ですか?」

クラスの女子が話しかけていつの間にかひかりはどんどん色んな屋台を回っていた

「お前も隅に置けないな、あんなに可愛い子捕まえるなんて。病院で出会ったのか?」

「うん、病室も近くて歳も同じだったから仲良くなるのに時間はかかんなかったよ」

「そっか、誠が部活やめても直ぐに帰ってたのも気になってたけどあの子のお見舞いに行ってたんだな」

「まあそんな感じ」

一番仲が良い陸人にも学校の誰にもまだ病院に通院している事は言ってないのでそう言う事にした

「まあお前が幸せならなんでも良いわ」

「なんだよ気持ち悪いな」

「うるさい、ひかりちゃん」

「おい、下の名前で気安く呼ぶな」

こうして自分のクラスの屋台で遊び笑顔を見せるひかりを見て白井さんのクラスに行く事になった

「いらっしゃい、ひかり」

「俺は?」

「ひかりやっぱりメイクして良かったでしょ?思った通り可愛い」

「おい無視すんな」

「二名様来店です」

「こちらの席へどうぞ」

「何にする?」

「どうしようかな」

「何にしますか?って優に振られた柊君じゃん」

告白もしてないのに勝手に振られた事になってる

「告ってないし」

「そうなの?優が言ってたよ降ったって」

「なんでだよ」

「お連れになってるのは彼女さんかな?」

「はい」

ひかりはこの状況を楽しんでどうやらこのまま俺の彼女と言うつもりらしい

「ならこのカップル限定のパフェなんてどうですか?」

「じゃあそれにします」

「はーい、パフェ入りました」

「パフェとか食べて大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

程なくしてパフェが運ばれて来たのだがこれが相当でかく食べるのに苦労した

「はーお腹いっぱいだ」

「少ししか食べてないだろ」

「いやいや結構食べたけど」

「殆ど俺が食べたんだが」

「食べ盛りの男子高校生なんだからいっぱい食べなきゃ」

「はいはい、じゃあそろそろ出ようか」

「ちょっと待って」

「どうした?」

ひかりの顔を見ると真っ青になって苦しそうにしていた。直ぐに水と薬を持ってひかりに渡した。

「やっぱり大丈夫じゃなかったじゃん」

「少し休んで良い?」

「勿論」

外に出て風を当てて悪かった顔色が少し良くなった

「じゃあ帰るか」

「なんで?」

「そんな状態で映画は無理だろ」

「でもそれを楽しみに頑張って来たのに」

「映画はまだやってるしいつでも行けるよ」

「私に次はないのに?」

やはりひかりは自分にもう時間がないことを知っていた

「言われなくも分かってるよだってずっとこの体で生きて来たんだから」

「でも」

「最後」

「え?」

「最後の我が儘聞いてよ」

「最後って」

「誠にはちゃんと受け止めて欲しいんだ」

「俺にはそんな事できないよ」

「出来るよ」

「なんで言い切れるんだよ」

「だってずっと一人だった私を見つけてくれた、それに優ちゃんともまた会わせてくれた。だから聞いて私の最後の我が儘」

「分かった、でもなにかあれば直ぐに言うんだぞ」

「分かった」

看護師さんに連絡して学校を出て車で近い映画館に向かった

「ひかりちゃん大丈夫?」

「うん。なんだか色んな人に会って元気もらっちゃった」

嘘だあんなに苦しそうにしていたのに僕の映画の為だけに頑張っている姿はとても苦しいものだった

「映画館って初めて来たよ」

「映画館に来るとワクワクするでしょ?」

「結構自信あるね」

「そうじゃなくて映画って何があるか分からないからワクワクするって事」

「誠なんか自分が原作で脚本まで担当してるのに自信なさげだよね」

「そりゃ初めて脚本やるし共同で歴のある人に見てもらったってなっても自信はないよ」

「そう言うものなんだ」

「そう言うもの」

チケットを買って席に着いて本編が始めるまでに流れる予告を見ていると隣に居るひかりが突然手を繋いでくる、驚いてひかりの方を見ると笑顔で僕を見てくる

「なにかあれば言うんでしょ、彼氏さん」

「からかうなよ」

「でも嫌がってないじゃん」

「まあ悪くはない」

「素直じゃないな、ちゃんと私の異変に気付いてよ」

「当たり前だなにがあってもちゃんと病院に送り届けるから」

「ありがとう」

初めて異性と手を繋いだ事でドキドキして映画の内容が入って来なかったがでも自分は映画が完成した時に全部見ていたので内容は頭に入っているが僕が危惧していたのは制作してない人間がどう言う反応をするのかそして一番の読者であるひかりに落胆されたくなかった事だった。

「はー、良い映画だった」

「本当?」

「うん。ちゃんと原作に忠実だったし原作に出てなかったシーンも補填されてて百点だよ」

ひかりにこんなに言われればもう他の人間の評価なんてどうでも良いと思える程だった

「てっきり酷評される覚悟だったから」

「私を見くびらないで欲しいな、私は誠の小説の最初の読者で一番のファンだし映画が良かったのは事実だから」

「そっか、なら良いや」

「うん、素直で宜しい。あとは誠はもっと自身を持って」

「分かった、じゃあ行こうか」

「ちょっと待って」

「どうした?また気分悪くなったか?」

「違うよ」

「じゃあなに?」

少し恥ずかしそうにもじもじとしている

「時間ないけどまだなんかあるの?」

「下にゲームセンターあるじゃん」

「あるけど」

「その、プリクラって言うのやりたい」

少し迷ったけどひかりが最後にやりたいと言った事と最後の思い出として残してやりたいと思った。

「じゃあ時間無いし行こうか」

ゲームセンターに行ってプリクラの機会の前に行くと周りは沢山のJKが居て場違いを感じた。

「これどうやってやるの?」

「分からん」

「私も分からない」

「ひかりがやりたいって言ったんだから少しは調べろよ」

「まあなんとかなるでしょ」

そう言って色んな所を押している。お金を入れると急にカウントダウンがされてパシャっと音がなった

「なにこれ変な顔」

「ひかりもぶれてるじゃん」

笑い合いながら次々と撮っていく、なかにはポーズを決めたりしてテンションが上がったひかりが車椅子から立ち上がってポーズをした時は焦ったがものの数秒で特に問題はなかった。

「楽しかった」

「それはなにより、じゃあ今度こそ帰えるよ」

「うん、まだ未練はあるけどもうやりたこと出来たしこれで満足したよ」

看護師さんに連絡して車で迎えに来てもらう

「ひかりちゃん楽しめた?」

「うん、もう充分」

「そっか、誠君も楽しめた?」

「はい」

車で病院に向かいながらひかりは先程撮ったプリクラを嬉しそうに見たり看護師さんに見せたり学校

で起きた出来事などを思い出すように話していた、僕も楽しく話しているがやはりひかりの残された時間を考えると心の底から笑顔にはなれない。

「じゃあ車で止めてくるからひかりちゃんは先に行ってて」

「誠は?」

「もう今日は疲れたと思うから面会はできないよ」

「分かりました」

「もう少しだけ誠と一緒にいたら駄目?」

「ひかりちゃん、分かってると思うけどひかりちゃんの体は限界に近いんだよ」

「分かってるだからもう少しだけ」

そう言うと看護師さんは溜め息をついて悩んでいたが先生には自分で言っておくからと許可してもらい僕もひかりと一緒に病室に行った

「お帰りなさい」

「先生ただいま」

「じゃあ軽い検査するから誠君はちょっと待ってて」

「分かりました」

ひかりが先生に連れられて行ったのと同時にラインに通知が入った。相手は白井さんだった。

「ひかりはどう?」

「大部疲れてたけどなんとか病院に着いたよ。ひかりは今から検査」

「そうなら良かった」

「じゃあ今から通知鳴りやまないと思うけど気にしないで」

「え?」

「良いから、ひかりが帰って来てからまたライン開いて」

「分かった」

何が送られてくるのかと思いながらラインを閉じると通知がどんどんと入ってきてあっと言う間にアイコンの端に数字が行った。何事かと思ったがひかりが帰って来るまで我慢した。

ひかりは十分程で帰って来た。

「どうだった?」

「なにが?」

「なにがって検査」

「ああ、それならばっちりだったよ」

「そっか」

本当なのだろうか、どこか悪くなっていないだろうか。そんな考えるが頭をよぎって会話が浮かばないそんな僕を見てひかりは頭を撫でできた

「よしよし」

「やめろよ」

「大丈夫だって今日は私の意思で行ったし私の最後の我が儘と思い出を沢山くれてありがとう」

「そんな事言わないでくれ」

自然と涙が流れて声が上手く出ない

「もう高校生にもなって泣かないでよ」

「分かってる」

「大丈夫私は誠が生きてれば傍にいるから」

「死ぬなんていやだよ」

「私も」

ひかりの方を見るとひかりも涙を流していた

「死ぬの怖いし嫌だもっと誠と優ちゃんと沢山の時間を過ごしたい」

「なにかまだ時間を過ごせる可能性はないのか?」

「うーん、もう沢山試してそれでも私の心臓はもう限界みたい」

「そっか、そうだライン」

「ライン?」

「そう」

こんな時に関係ない連絡を白井さんが寄越す訳ない

「あ、写真」

そこには俺とひかりの写真が沢山送られてきた、白井さんだけじゃない陸人や他の友達から沢山の学校の様子など色んな写真があった

「良いね、それ」

「皆いつの間に撮ってたんだろ?」

「結構後ろ姿が多いね」

「隠れて撮ってたからだろうね。あ、ひかり」

「本当だ」

そこには僕のクラスの屋台で遊ぶひかりの姿が映っていた

「本当なら車椅子なんて乗らないで普通に学校に通っていて普通に文化祭に行きたかった。私は普通の高校生で居たかった。毎朝お父さんと一緒に家を出てお母さんのお弁当を持ってそう言う世界で誠と出会いたかったな」

「そうだよな」

「ねえ最後にもう一度約束するね」

「何を?」

「誠が死んだら生き返させてあげる」

「そんな事出来る訳ないだろ、俺ももう」

「私の後に直ぐにこっちに来たら許さないから」

「でも」

「でもじゃない、必ず私が出来る事でちゃんと私がやったって分かるようにするから」

「なら、楽しみにしてるよ」

「不吉だね」

「そうだね」

この会話は僕らにしか分からないだろうしこんな会話を笑いながら出来る事も僕らのような境遇になってしまってる人間にしかできない。だから僕とひかりの時間が止まったように感じた。

「じゃあもう行くね」

「うん、ちょっと待って」

「なに?」

「手、繋いで」

「分かった」

ひかりの傍に行ってた手を出す

「もっとこっち来てよ」

結局さっきと同じ距離まで行っててを繋いだ瞬間ひかりが僕をグッと引っ張ってキスをした

「え?」

「これが私の答えだよ」

「ずるい」

「うるさい早く帰りな」

「分かった」

ひかりの病室を出て病院の庭に向かった

「あんなに空気読めなかったのに最後に出来たじゃん、言葉が足りない事は治せなかったけどこれは治せたね」

庭のベンチに座って空を見ていた。下を向いたら涙が流れてしまそうだった。

「誠君」

声がした方を見ると看護師さんだった

「隣良い?」

「はい」

「ひかりちゃんどうだった?」

「元気でした」

「そう」

「でももうひかりには無いんですよね、時間が。」

「うん」

「なんでもっと早く出会えなかったんだろ」

「そうだね、はい、ハンカチ」

看護師さんがハンカチを渡すまで自分が涙を流していた事に気付かなかった。

「どうにかしたいけど僕には何もできないですよね?」

「そうだね。私達も何度も諦めそうになったけどひかりちゃんは頑張ったよ」

その言葉がひかりともう会えないと思えてしまう、まだ生きてるのに、まだ暖かかったのに。

次の日朝一番で病院に行った、もう一度だけひかりを見たいと思った、何度も神様に祈った。

そして病室にいつも通り声をかけようとした時ひかりの心臓は終わりを迎えた

「ひかり」

そう言って近付いて声をかけても帰って来ない、先生も看護師さんももう出来る事はないと顔が物語っていた。

ひかりをどこかに運んでいって僕は何もできなかった。ひかりの好きだったジュースを自販機で買いに行って病室に戻ったがやはりひかりの姿は何処にもなかった。

ひかりは最後まで気まぐれで猫みたいだった、ベットに座ってひかりの私物を見てひかりの撮った写真が飾ってある内に一枚だけ僕とひかりが映っていた。

「なあひかり、これ良く撮れてるな」

そう言っても返事は帰って来ない、でもいつの間にか病室の端から白井さんの声が聞こえた

「その写真、ひかりが一番気にいってたんだよ」

「そうなんだ」

最後にひかりの写真を見て僕は病院を出た。

少し日が経ってひかりの葬儀が行われた。

葬儀はひかりが亡くなると言う事実を突きつけてくる、それはとても苦しい。でもそんな感情は僕だけが抱いてる訳じゃない事も理解した上でなにも考えられなかった。

「誠君大丈夫?」

「はい、辛いのは僕だけじゃないので」

「そう、これ持っていてあげて」

看護師さんがひかりの写真のアルバムを渡してくれた

「良いんですか?」

「うん、これだけは誠君に持っていて欲しいの」

「分かりました」

僕はアルバムを見ながら沢山の風景写真を見ていったそこには俺だけが映ってる写真も何枚から入っていた。その写真をしばらく見ていたら白井さんが話しかけて来た。

「大丈夫?」

「それ今日色んな人に何度も言われたよ」

精一杯の笑顔で返すがぎこちない笑顔になっていたと分かっていた、でもそうでもしてないと今でも泣き崩れてしまいそうだった。

「無理しなくて良いわよ」

「でもひかりは多分泣いて欲しいとは言わないでしょ」

「そうね、ひかりはこんな時だとしても笑顔で送って欲しいって思うでしょうね」

「そうだよ、だから僕は泣かない」

「でもひかりにもう家族はいないし多分ひかりを一番理解して分かり合えたのは貴方だけなんだからその苦しみと辛さ、独り占めしても誰も文句は言わないよ」

「分かってるなら泣かせようとしないでよ」

「だからこそ言わして貰うけど少しでも変な事考えてたら許さないから」

「それは大丈夫だよ、だってそれがひかりが一番怒る事だから」

「そう、なら良いわ」

そう言い残して白井さんはどこかに行ってしまった。

そして次第に葬儀場には僕だけが残っていた

「やっぱりひかりが居ないとつまんないな」

写真を見つめてぽつりとこぼした本音と共に外では雨がぽつりと降りだしたまるで僕の心を表しているかのようだった。

そんな僕の心など置き去りにするように朝やって来る

「誠朝だよ」

「分かってる」

「起きてたんだ」

「うん、準備して下行くわ」

「お父さん、誠大丈夫かな電気も付けないで椅子に座ってたけど」

「心配だけど今はそっとして置いてあげよう」

「そうね」

制服に着替えてリビングに行き朝食を食べて家を出る

「行ってきます」

「薬ちゃんと持った?」

「持った」

「気をつけてね」

「うん」

家を出ていつものように電車に乗って学校に向かう

「誠、おはよう」

「おはよう」

「あれからひかりちゃんだっけ?進捗あった」

「進捗もなにもないよ」

「そうか」

ひかりが亡くなった事は白井さんしか知らない、だから皆にはいつものように振る舞って気付かれいようにと心がけた。大丈夫今までだって病気の事も上手く誤魔化せたし今までと変わらない日常を過ごせば良いだけそう思う度にひかりの事が頭から離れない、今にでも泣きそうだった。

授業が始まっても内容が入って来るはずもなくぼんやりとただ時間が過ぎるのを待った。多分それが神様を怒らせたのだろう。

「此処の問題誰かに解いてもらおうか、じゃあ柊」

先生に呼ばれた事にも気付けなくて少し教室が静かになる

「おい、誠」

「なに?」

「この問題当てられてるぞ」

「え?」

「どうした?柊調子でも悪いのか」

「いや大丈夫です」

「じゃあ答えて」

「はい」

立ち上がって教科書を見た瞬間突然胸の痛みに襲われた

「柊、頭悪いから分かんないだろ」

クラスメイトのいじりで教室が笑いに包まれたのと同時に僕の記憶はそこで途切れた

目が覚めると見た事がある真っ白い天井、此処は病院だと直ぐに理解出来たそれと同時に僕が隠していた病気の事が学校の皆にばれてしまったと思い落胆している所に看護師さんが病室に入って来た

「誠君目が覚めたんだ、先生呼んでくるからちょっと待ってて」

看護師さんの慌てようで僕はいよいよ不味い状況だと思った。程なくして主治医の先生が僕を軽く診断する。

「異常はないね、良かった」

「先生、僕また戻ってきちゃいました」

「冗談が言えるくらいなら心配ないね」

「僕はどのくらい眠っていましたか?」

「五日間くらいだね」

「そうですか」

「運ばれて来た時は本当に焦ったよ、でも手術も上手くいったしそれに君の心臓はまだ動けるよ」

「良かったです」

本心であいりながら少し雑念がよぎった

「柊君」

「白井さんか」

「私で悪かったね」

「いや、一人でも来てくれる人が居るなら僕は嬉しいよ」

「なに言ってんのこの五日間皆が来てくれてたんだよ」

「え?」

「前に誠君お見舞いに来てくれる人なんていないなんて言ってたけど本当に沢山友達が来ていたよ」

「そうなんですか?」

「うん、じゃあ僕らはこれで失礼するね」

「はい」

「柊君まで死んじゃうじゃないかって本当に思ったよ、ひかりと出会わせてそのままなんて私は許さないから」

「ごめん」

「そうだ、これ見て」

白井さんが僕に見せたのは僕Twitterのリプ欄だった

「柊先生病気に負けるな」

「いつまでも柊先生の小説を楽しみにしてるのでどうか無事であって下さい」

「いつも柊先生には元気を貰っているので今度は僕らが元気を送ります」

そこには読み切れない程に沢山の読者からの無事を祈るコメントが溢れていた

「皆なんで知ってるの?」

「柊君が倒れてから小説の担当してる人が持病だってTwitterで言ったらしくてそれがネットニュースになって広まったみたい」

「そうなんだ」

元気を少し貰った気分だった

「それとこれね」

渡されたのは大きめの紙袋だったそこには

「誠へ」

と書かれていた

「なにこれ?」

「さあ私も柊君に渡してって言われただけだから」

「そっか」

「私なんか飲み物買って来る」

「分かった」

早速紙袋を開けるとそこには大きめな風景写真の写真集が入っていた名前にはひかりと名前で乗っていた。直ぐにページをめくると沢山の風景写真が乗っていた。それを何気なく見ていると最後のページから封筒が落ちた。それを開いて見るとひかりの字で書かれた手紙が入っていた。

「これを見ていると言う事は私はもう生きてないよね、これは夢だった風景写真の写真集を出す事が決まって発売までに誠に何かあった時ように一冊だけ先に作って担当してくれた人に優ちゃんに渡してほしいとお願いしていた物です。本当は誠に何も起きない事を思いつつ、いつか私が約束した事を現実にします。生き返せる事はやっぱり出来ないけど私はいつまでも誠の傍に居るから。それから最後にずっと病気で何も良い事なんてないと思ってたけど一つだけ良かった事があった。それは誠と出会えた事、そして病気じゃなくて普通に生きたかったって言った事覚えてる?あれは本当だけど少しだけ嘘だった、だって病気で入院してなかったら誠にも優ちゃんにも出会えなかったと思ってたから。さあ最後にもう一度封筒の中を確認してね。」

直ぐに封筒を見てみると一枚の写真が入っていたそれはひかりが一番気に入っていると白井さんが言っていた写真だった、ふと写真の裏側を見るとひかりの文字で一言

「誠大好きだよ」

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