君が撮る写真の一部になりたい

やと

君が撮る写真の一部になりたい

高校一年生の梅雨、

家で心臓心不全で倒れて病院に搬送された。

目が覚めると見知らぬ白い天井が目に入った。

「あれ?これ」

「起きた」

「先生呼んでくるね」

「かあ」

声が上手く出ずに途中で止まる、此処は病院なのか?

真っ白い天井だけが見えて体が動かない

「柊さん、大丈夫ですか?」

「あ」

喋れないので頷くしかなかった。

先生が僕の目に光を当てて。

僕の名前が分かるか確認して喋れない事も説明してくれた。

「喋れないならスマホで何を喋りたいかやってみよう」


それから父が提案してくれて僕は家族や先生、看護師さんとコミュニケーションが取れるようになった。


「柊さん、点滴変えますね。調子はどうですか?」

「なんだか気持ち悪いです」

入院して暫くしてスマホの音声ガイドでコミュニケーションを取っていた。


「そうですよね、最初は皆そう言います」

「いつ頃慣れますかね?」

「それは人によるので頑張ってください」

まあ看護師さんの言う通り、慣れるしかないと思っていた所で母さんが見舞いに来てくれた

「凪大丈夫?」

「大丈夫」

スマホに打ち込むだけじゃなくて打ち込んだ文字が音声として喋ってくれるのでとても便利だと思えた。

「そうなら良かったけど、これ着替えね。

ここ置いておくね」

「有難う、そう言えば学校に連絡しちゃった?」

「当たり前よ」

「お願いなんだけど病気の事先生だけに言ってほしくて。友達とか他の生徒には言わないで」

「そう、分かった。ならそう先生に言っとくね。」

「そう言えば仕事大丈夫なの?」

「大丈夫。今は昼休み長くとっているし。

それにまだ子供なのだから親の仕事の心配なんかしないで」


高校生になっても、いつくになっても。

子供は子供なのだからと言うのが母さんの口癖だった。

さすがにもう高校生だと思っていても、

母さんの言う事も一理あるなと思うし、自分もいつか子供を持った時にそう思うのだろうか?

そんなことを最近よく思う事が増えた。


「それよりもちゃんとご飯食べている?」

「お母さん、まだご飯柊君はご飯食べられないんですよ」

「そうなんですか。」

「じゃあ凪が好きなお菓子持ってきたけどまだ駄目なのね」

お菓子。

そう言えば暫く食べてない。

部活に入ってからちゃんとしたご飯しか食べてなく、ここ半年お菓子という存在が頭の中から消えていた。

もう自分が好きだったお菓子の名前すら覚えてない。


「母さんお菓子見せて」

「でも食べられないよ」

「いいの」

「分かった」

そう言って母さんはお菓子を鞄から出した。そうだ、これが僕が好きだったお菓子だ。


「これ机に置いて行って」

「分かった」

それから僕の夏休みの宿題などを置いて母さんは病室を出て行った。

「このお菓子好きなんですね」

「はい、小学生の時とかこればっかり食べてよく怒られていました」

「そうなんですね、でも良かったんですか?食べられないのに」

笑いながらお菓子のパッケージを見ていると寂しそうな顔を看護師さんがした。

「はい、この存在を忘れていたので少し懐かしい感じがして」

「そっか」


そこから僕は持ってきて貰った宿題をやり尽くして、三日で終わらせてしまった。

持っていた小説も読み尽くし、そんな時に看護師さんが僕に言ってくれた一言で僕の人生が変わって行く。


「小説好きなんだね」

「はい、小説を読むと色々な人間を知れる気がするんです」

「そんなに好きなら小説書いてみれば?」

「僕が?」

「うん」

「そんな、出来ませんよ。第一、僕は勉強も出来ないし」

「勉強出来なくても文才はあるかもよ」


文才があっても勉強出来ないと腐ってしまうものではないかと思ってしまう。

反面僕が小説を書いて読んでくれる人がいればと思ってしまった。

それに一度死にかけたことでいつ自分が死んでも悔いのないように生きたいと思った。


「やってみます」

「そう、完成したら読ませてね」


それから僕は執筆を続けた。

起きている時や検査が無い時は必ず持ってきて貰った、パソコンと睨めっこをしていた。

そんな時間が三週間を続いたある日出版社から連絡があった。


「柊さん、この度投稿している小説を書ご連絡しました。記載した電話番号にお電話ください」

直ぐに電話をした。

幸い声もリハビリのおかげで出るようになった。

そこからはとんとん拍子で話しが進んでいって、書籍になって。

手元に自分の手に取った時は涙が込み上げてきそうになった。


「生きてる?」

「生きてるよ」

ラインの相手は同じクラスで同じサッカー部の陸人だった。

「今電話できる?」

「いいよ」

直ぐに電話がかかってきた。

「よう」

「よう、じゃねえよ、急に入院したって聞いたけど大丈夫か?」

「うん、ただの検査入院だから」

「そうなんだ、いつ退院できるんだ?」

「それが夏休みずっとみたい」

「まじか。重症じゃん」

「そこまでじゃないよ」

「なるほどね、ちょっとテレビ通話にして」

そう言われてテレビ通話にすると陸人を筆頭に段々と人が増えていった


「皆練習していたの?」

「当たり前だろ、ひろっち」

先輩からそう呼ばれているが久々に皆の声と顔を見られて嬉しくった。


「ひろっち、合宿さぼったんだから戻ってきたら覚悟しとけよ」

「すいません」

「まあ気長に体調治せよ」

部長が気を利かせてそう言ってくれた

「先輩達も大会頑張って下さい、応援しています」

「おう」

「それじゃあ必ず治せよ」


最後に陸人が一言言って電話を切った。

最近良い事が続いているので何か悪い事が起きてしまうのではないかと不安になる


「柊さんちょっと良いですか?」

そう言って看護士さんが病室に入って来る。

「お散歩行きませんか?」

「散歩ですか?」

「うん。まだ車椅子だけど折角こんな良い天気だし、気分転換に」

「分かりました」

「じゃあ行こ」

車椅子に乗って病室を出る。

下のフロアに行って、外の庭のような場所まで押してもらう。


「外熱いですね」

「そうでしょ、もう八月だし」

「一ヶ月冷房の効いた部屋に居たのでより熱さを感じます」

「大丈夫?気持ち悪るくなったりしたら直ぐに言うんだよ」

「大丈夫です」

そう言って暫く看護士さんと談笑していたが看護士さんが驚く事を言い出した。


「あそこのベンチに座っている人が読んでいるのって柊さんが書いた小説じゃない?」

そう言って指を指した所を見て見ると、確かに僕が書いて出した。小説を読んでいる少女が座っていた。

少女はきりっとした目元に顔立ちがとても優れていて大人っぽい雰囲気をかもし出していた。


「ちょっと話してみない?」

「え?」

いきなりすぎてどうしたらいいか悩んでいる内に看護士さんが少女に近付いていき、何かを話している。

暫くその状況が続いて看護士さんが戻ってきた。

「ちょっと私飲み物買ってくるね。何がいい?」

「じゃあ珈琲でお願いします」

そう言うと足早に去って行った。


看護師さんを待ってる間に何をしようかとふとさっきの少女の方を見ると段々と少女が近付いてくる

なんだか逃げたくなるが車椅子に慣れてない為どうしようもなくそのまま少女が隣のベンチに座った。


「あの?」

「はい?」

「柊先生ですよね?微熱恋読みました」

「先生だなんてそんな大層なものじゃないですよ」

「でも凄いですよ、執筆初めて一ヶ月足らずでデビューして世間からも評判良いし」

てっきり批評されると思って、世間の評価なんて見なかったが、案外そう言う訳ではないらしい。

「あ、すいません話し過ぎました」

「いえいえ、嬉しいですよ」

「良かった、柊先生の投稿に初めてコメントしたんです」

「あの、ヒカリってアカウントの人ですか?」

「そうです、覚えて下さったんですか?」

「そりゃ、初めてコメントしてくれたんですから覚えてますよ」

「なんだか嬉しいですね」

「そうですね、そう言えばひかりさんは誰かのお見舞いで来られたんですか?」

「ひかりで良いですよ、同い年ですしタメでいいです」

普段異性に名前で呼ぶ事はないのだがなんだかすっと名前を呼べた。


「そうなんだ、じゃあ高校一年生か」

「うん、でも学校には暫く行ってないんだ」

「なんで?」

「私昔から心臓が悪くてずっと入院しているの」

「そっか」

「柊先生も病気?」

「誠」

「え?」

「名前、先生って呼ばれるの好きじゃないんだ」

「じゃあ誠はなんで此処に居るの?」

「一カ月前に心不全で入院したんだ」

「そっか、でもこうやって誠に会えたんだから私もまだ付いているな」

「お互い病気なんだから喜ぶ所じゃないでしょ」

「でも私はお見舞いに来てくれる人もいないしずっと此処にいて寂しかったし、これは神様が最初で最後のプレゼントだよ」

「最後?」

「うん、私もうそろそろ死ぬんだ」

ひかりの重い一言で普通は、雰囲気も重くなるところだけど自分も先は長くないので自然と会話が続いていく。


「俺もあんまり長くないな」

「そうなの?」

「うん、此処に入院した時先生に意識が戻ったのは奇跡だって言われたし、再発もある元々体が弱かった事もあって次に心臓が悪くなったら次はないだろうって言われた。だから後悔しないように小説を書いたんだ」

「じゃあお揃いだね」

「なんだか嫌な共通点だね」

思わず二人で笑ってしまった

「じゃあ私が先に死んだら誠に一度だけチャンスをあげるよ」

「なにそれ」

「よくあるでしょ小説でもドラマでも最後に生き返ったってやつ」

「そんなのフィクションでしょ」

「じゃあ私が現実にしてあげる、だからその時は誠になにか分かるように合図するね」

「合図?」

「うん、なににしようか」

そう言うとひかりは上を向いて考え始めた、なんだか不思議な人だなって思った。


「じゃあこうしよう」

「なに?」

「こっち向いて?」

「え?」

そう言われてひかりの方を向くとひかりが鞄から持ち出した一眼レフカメラで僕を撮った。

「写真?」

「うん、私好きなんだ」

「そうじゃなくて、撮るなら言ってよ」

「えー、だってそれじゃあ意味ないじゃん」

「意味って」

「これからも撮っていい?」

「今度はちゃんと言ってから撮ってよ」

「それだと格好つけるでしょ」

「そうじゃなくて、びっくりするから。ってか言うか格好つけないよ」

「どうかな」

ひかりはもう直ぐ死ぬなんて嘘のように元気に笑って見せた


「柊さんもう戻らないと」

いつから居たのか僕の背後から突然声をかけられた。

「分かりました、じゃあね」

「あの、また会える?」

ひかりはとても寂しそうにまるで子犬のような顔をしてもう会えない?と言ったのが印象的だった。

「もちろん。病室八○五」

「私は八○七」

なんと以外と近かった。

「じゃあ明日誠の部屋に行くね」

「分かった」


看護士さんが車椅子を押して庭から離れる。

「随分と楽しそうでしたね」

「まあ良い子でしたから」

「そう、よかったらひかりちゃんと仲良くしてあげて」

「そのつもりです、僕に見舞いに来てくれる人いないですし」

「そうなの?この前楽しそうに電話していたのに」

「あれはなんと言うか。電話や連絡しても実際来てくれる人なんて、以外といないものですよ」

「友達なのに?」

「心配はしてくれてもわざわざ、時間を作る価値が僕にはないんですよ」

「そんなことないと思うけど」

「人間なんてそんなもんです」

「なんだかませてるね」

「高校なのに生意気でしたかね」

「いいや、なら尚更ひかりちゃんと仲良くしてあげて」

「どう言う意味ですか?」

「ひかりちゃんも前に同じようなこと言っていたから」

「そうなんですね」


こうして意外な形で僕の最初の読者に出会った一日が終わり。

次の日から毎日二人でお互いの病室を行き来して検査や消灯の時間まで二人で過ごした。


「何かいい写真のモデルない?」

急にひかりがそう言い出した。

「急に言われてもな」

「此処らへんにある物は殆ど、撮り尽くしたんだよね」

「自分で探せよ」

「だって撮って飽きないの誠だけだし」

「それは嬉しいけど新鮮なだけで直ぐに飽きるだろう」

「そんな事ないよ」


いつもと同じ時間にひかりの病室で談笑をしていたが、実は今日は言わなければいけない事があった。

「そっか」

「んー、じゃあ今度花火しない?」

「花火?」

急に突拍子もないことを言い出したので少しだけ驚きをもちつつ楽しそうだと思った。

「そう友達と花火したかったんだ」

「でも何処で?」

「病院の庭でやろうよ」

「良いのそれ?」

「うん、先生とか看護師さんに言ったら皆でやろうって言っていたし」

「そうなのか、じゃあやろう」

「うん」

ひかりは嬉しそうに外を見ている


「あのさ」

「どうしたの?」

「明日で退院できる事になったんだ」

「え?」

驚きと悲しさで溢れているような表情で俯いてしまった。

「おめでとう」

「うん」

それでも僕の退院を祝福してくれた。


「じゃあ一緒に居られるの今日が最後だね」

「なんで?」

「だって学校あるでしょ?」

悲しそうでもう僕とは一切会えないだろうと勝手に決めつけて話を進める。


「だったとしても学校終わりに必ず来るし、部活も辞めるから休みの日も来るよ」

「辞めるの?」

「うん。先生にもう部活は出来ないって言われたし、病気の事も生徒には誰も言ってないかしそれに、急に倒れる所見られたくないし」

「言ってないんだ」

「余計な心配かけたくないし」

「そっか、でも誠のそう言う所良くないよ」

「どう言う所?」

「言葉が足りない所だよ」

「そうかな?」

「そう、絶対そう」

なんだか怒っているご様子にぴんと来ない

「だって退院の事だって前から分かっていたのに言ってくれなかったじゃない」

「ごめん、でもなんか言い出せなくて」

「そう言う所が悪いって言ってるの、これはちゃんと矯正しないとだね」

「矯正?」

「そう、だってこれから毎日来てくれるんでしょ?」

「まあそうのつもりだけど」

「夏休み終わるのいつ?」

「明後日」

「時間ないじゃん」

「夏休みなんて二ヶ月もないよ」


「そんなのもう暫く学校に行ってないんだから感覚なくなるわ!!」

「そんなに怒るなって、でも花火大会にしては時期遅くない?」

「今はそんな事どうでもいいの」

それからひかりの説教で機嫌が直る事はなかった。


次の日になるまで、明日でやっと此処から解放されると言う気持ちと、ひかりと少しでも一緒に居られる時間が減ると言う現実に心が押し潰されそうであまり寝られなかった。


「あまり無茶をしてはいけないよ、それから薬を必ず飲むのと激しい運動は控えてね」

「分かりました」

「忘れ物ない?」

今日は両親が休みをとってくれて久々に家族で集まれた。

「全部持った」

「じゃあ行こうか」

「ちょっと待って」

病室を出る時にひかりに声をかけようとしたが、病室にいなく検査なのかと思っていたのでラインで一言メッセージを送った。

『じゃあ行くね』


既読にならないと言う事はきっと検査なのだろうそう思って、下のフロアまで行って病院のドアを出ようとした時、後ろから声が聞こえた。

「ちょっと待って」

「ひかり?」

「挨拶もなしに帰るなんて酷いじゃない」

「それは病室にいなかったから」

「だからって検査終わるまで待ってくれてもいいじゃん」

「ごめんって」

泣きそうな顔を見てやっぱり、寂しいのだろうと感じたのと共に自分も寂しいと思った。

「ちゃんと毎日来るから」

「約束だよ」

「うん。約束」

指切りをして病院を出た。


「あの子が話していたひかりちゃん?」

「そう」

「友達できたのね」

「学校でも友達はいるよ」

「そう?あんまり話さないからいないのかと思っていたよ」

「部活に入っているんだし、友達くらいいるよ」

「そうなんだ」


「誠、行きたい所ないか?」

「うーん、とりあえず家に帰りたい」

「そうか」


父さんが運転しながら聞いてくるから多分気を利かせてくれたのだろうと思ったが、実際は病院にいても、毎日シャワーは浴びられないから早くお風呂に入りたかった。

車で病院から二十分電車なので三十分くらいだ。

これなら一人で電車でひかりに会いに行くのに時間的な問題はない。


「ただいま」

「おかえり」

なんだか久々な感じがする、これをひかりは久しく経験してないとなると相当な苦痛だろう。

「お風呂入って良い?」

「いいよ、多分沸いているから。荷物置いて入りな」

「うん」


荷物を自分の部屋へと持って入った約二ヶ月ぶりの自分の部屋に落ち着きを感じる。

「さてと取り敢えずお風呂に入ろう」

こちらも二ヶ月ぶりの自宅のお風呂。

もう湯船に足を伸ばす事は出来ないがそれでも家中の全ての空間が落ち着くものだらけで溢れている。

ただこれまでとは違う点が一カ所、胸に刻まれた手術跡。

これが自分が死の間際にいた事を証明している。

でもこの傷で生きているのならまだましな方なのかもしれない。

お風呂を出てラインに通知が入っていた。


「誠さんは家に着いた頃かな?」

「うん、お風呂入っていた」

「お風呂だなんて良いなー」

「やっぱりそう思う?」

「そりゃ自分の家のお風呂に入ったの何年前よって話し。それにこっちは二日に一回のシャワーだけだよ」

「羨ましいだろ」

「次来た時覚えていろよ」

拗ねてしまった、少し意地悪してしまったな。


「お風呂どうだった?」

「気持ち良かったよ」

「そう、なら良かった。お昼なに食べたい?」

「うーん、特にこれ食べたいって言うのはないな」

「誠さ、折角退院したんだからなにかいいなさいよ」

「じゃあカレー」

「それは夕食にする」

「えーなにか言って言ったのに」

「それじゃあ炒飯でも作るよ」

父さんが料理するなんて珍しい、でも実は結構料理が上手くて結構楽しみにしていた

昼ご飯を食べて部屋の整理をして明後日の学校の準説明するかを考える、なんと言っても約二カ月も入院していた訳でただの体調不良では言い訳にはならないだろう、かと言って言って本当の事は言いたくない。

そんな事を一日中考えていたら退院して家に帰った日は言い訳を考える時間で終わった。

翌日、約束通りに昼過ぎにひかりの病室に僕は居た。


「そんな事考えていたの?」

けらけらとひかりが笑う

「だって病気の事を言いたくないし、かと言って病気の事を言いたくないし、で頭がいっぱいだったの」

「そんなに言いたくないの?」

「なんか今までの関係性が壊れそうで怖いんだ」

「そんなので壊れるものじゃないよ友情って」

「友達いないひかりが言うのか」

「別にいない訳じゃないよ」

少し恥ずかしそうにそして悲しそうにひかりが言う。

「本当か?」

「まあ向こうはもう友達って思っているか分からないけど」

これだけで大体喧嘩分かれでもしたのだろうと理解できた、それと同時にひかりがこんな状態なのになんで見舞いに来ないのか理解が出来なかった。

「それで良いの?」

「良いのって?」

「だって俺が来るまでずっと一人だったんだろ?」

「まあそうだね」

「そいつ今どこにいる?」

「なんで?」

「俺が連れて来る」

「ちょっと怒ってない?」

なんだかひかりがこんな状況なのにお見舞いに来ないだなんて、少しだけ怒りの感情が湧いてきた。

「怒っている?」

「なんでよ」

「分かんないでも、このままでいいわけない、名前は?」

「いいよそんなのそれに今何処にいるか分かんないし」

「それなら俺は日本中、世界中だって探し出してやる」

「なんでそんなにしてくれるの?」

「それは」

今の自分がどう言う感情でこんなこと言っているのか分からないけど、ひかりはもう長くないと分かっているのに尚更引き下がれない。

「分かんないけどそうした方が俺は良いと思うから」

「それはお節介じゃない?」

「お節介と親切は紙一重とも言うだろ?」

「まあでも良いよ」

「取りあえず名前教えて」

「白井優って人」

なんだかどこかで聞いた事ある名前だった。

「分かった、取りあえず今日は帰るわ」

「分かった」


病院を出て次の日にもやらなければいけないと思う感情に答えがでる、訳だが自分の出来る事をやろうと思った。


「お帰り」

「ただいま」

「ちゃんと薬飲んでいる?」

「うん」

「明日学校なんだからお風呂入ってご飯食べて早く寝る、分かった?」

「分かっているよ」

薬はちゃんと飲んでいるし、心配しすぎと思うがやはり再発がある事が問題で僕自身も心配している。

此所で倒れたらてしまうと、そう言う恐怖が常に頭の片隅にある。

朝目覚めると今日もちゃんと生きているって思う、もし寝ている時に病気に襲われたらと不安になりながら眠りにつくが白い天井を見ると今日も寿命が伸びているって思える。


「おはよう」

「おはよう、早いね」

リビングに行くと既に父さんがスーツを着てご飯を食べている。

「あんなに朝弱かったのに」

そう言う母さんも仕事に行く恰好をしている

「朝、私が車で送って行こうか?」

「そんな事したら折角先生だけに言った意味がなくなるじゃん」

「そう」

やはり心配なのだろうそりゃ心配しない親などいないと思うが車で送ってもらうまでされると少し嫌だ。

「行ってきます」

今日も誰もいない家に声をかける、親は先に家を出るから誰もいない訳だが小さい時に病気で叔父が亡くなって悲しくて泣いていたら父親が。

「おじいちゃんは家にいるよ」

そう仏壇の方に向かって言った、そこには写真があるが当然叔父はいない、だけど小さい僕はそれを信じた事で今ではすっかり習慣化してしまった。

電車に揺られて学校に向かう、あんなにも言い訳を考えたのに結局なにも浮かばなかった。音楽を聞きながら通学路を進んで十分、学校に着いた。

学校に着いたら職員室に行くように言われていたので職員室に向かう


「失礼します、一年四組の柊です」

そう言うと担任の先生が僕に挨拶に来てくれた。

「柊君、大丈夫?」

「まあお蔭様で、それで病気の事は」

「うん、先生しか知らないけど仲の良い友達には言った方が良いんじゃない?」

「いや、誰にも知られたくないんです」

「そう、分かった。でもなにかあれば先生に言うんだよ」

「はい」


職員室を出て教室に向かう、こんなにも教室が怖いと思ったのは初めてだ。

教室の扉を開けると一番に陸人が声をかけてくれた。

「誠大丈夫か?」

陸人が声をかけた途端にクラスの皆が僕の方を見てくる。

「大丈夫だよ」

「あれからずっと入院していたんだろ?」

「うん、でももう大丈夫だから」

「それなら良いけど」

僕の席につくとなんだか二カ月いなかっただけで皆に会うのも、此処に座るのも久し振りな感じがする。

授業中も休み時間もやはりずっと病気がちらついて集中が出来なかった、体育も休まなければいけなく見学をしていた。

こんなんではいけないと思いながらひかりも学校に通っていたらこんな思いをするのだろうかと、気付けば病気の事かひかりの事を考えてしまっている。

退院後、初めての学校を終えてほっとしているが僕にはもう一つやらなければいけない事があった。

「なあ陸人白井優って人この同じ学年だったよね?」

「そうだけど」

「何組?」

「三組だけど、まさかお前告るのか?」

陸人がでかい声で言うものだから、皆がこちらを見てくる。

中には冷やかしで僕の周りには人が集まってきた。

「頑張れ」

だとか、期待と振られるだろうともう告白ムードが漂っていた。

そんな皆の期待には答えられない。


「白井さんは無理だぞ」

とか余計な事ばかりを言う奴らばっかりだった。

「いや、そう言う訳じゃないけど」

「良いから行くぞ」

「行くって何処に?」

「三組」

なんだか勘違いしているみたいだし、まあ高校生なんて薔薇色なんだと思うが僕は白井さんには興味はないけど、白井さんは色んな男子から降られただとか中にはイケメンな先輩と付き合ったり分かれたりとなにかと噂話が絶えないので、僕がいくら頑張ろうと無理だろう。

そんな事は知らず陸人だけではなく色んな人間が出てくる三組に行くと陸人につられて白井さんに話しかける。

「白井さんちょっといい?」

「なに?」

「こいつがなんか話しがあるんだって」

「なに?」

目付きがきつい上に色んな人間が見ていてなんとも言いづらい状況になっている。

「いや、あのなんと言うか」

「なんなの?そう言うなよなよした奴嫌いなんだけど、もう私行くね」

「あーあ、早く言わないから」

陸人が小言を言うし、皆が僕にがっかりしたり当然だと言わんばかりと勝手に終わらせようとするでもひかりの顔が頭の中で浮かんだ、ひかりの為ならもうどうにでもなれと思った。

「ちょっと待って」

「痛いんですけど」

思わず腕をつかんでしまった。

「あ、ごめん」

「なんなの本当に」

「あの、田烏ひかりって知っている?」

そう言うと表情が変わって僕を見てくる。


「なんであんたがひかりの事知っているの?」

「いやちょっと病院で会って」

「ちょっと来て」

誰も居ない場所につ連れてかれて話しをする。

「あんたひかりとどう言う関係なの?」

「ただの友達だけど」

「そうなんだそれで私になにか?」

「いや、ひかりの見舞いに行ってほしくて」

「なんで?」

「いやひかりが友達だって言った人、白井さんしかいなかったし」

少し興味があったのかそれともただの気まぐれか、白井さんは僕に質問を続けた。

「なんで名前が同じってだけで私がひかりの言っている人だって分かったの?」

「朝に見かけた時にひかりと同じ縫いぐるみバックに付けていたから」

「なにそれ、きも」

「いや普通に傷つくからやめて」

そう言うとふっと笑顔を見せた。

「じゃあ正解って事で行くよ」

「本当?」

「行くって行ったでしょう」

「よし」

自分でも驚く程にでかい声がでた。

「うるさい、ほら行くよ」

自分でも予想外な展開になって驚いている、学校であんなに人気な人と一緒に電車に乗っているなんて。

学校の皆に知られたら大変だ。

でも会話は殆どないのが悲しいし、ひかりの事を聞きたいがそんな雰囲気ではないし学校にでて電車に乗った時にあんまり話し掛けないでって言われてしまった。

「で、どこ病院?」

「あと五分くらいで着くよ」

電車から出て歩いていても隣に居てほしくないのか僕の半歩後ろで付いてくる。

その間にも会話はない、でもひかりに僕以外の人に会えるのならなんでも良かったしなんなら嬉しかった。

病院について病室まで案内して声をかけて入る。

「ひかり、入るよ」

「はーい」

病室に入って白井さんを見た瞬間にどっと涙きだした。

「優ちゃん、久し振り」

「ひかり久し振りね」

なんだか想像と違って困惑している所を白井さんが見て笑いながら説明してくれた。


「その顔じゃあ喧嘩分かれでもしてひかりと会うのが気まずいとか思っていたんでしょ?」

「なんで分かったの?」

「だって貴方ずっと緊張していたし」

「それだけで?」

「まあ縫いぐるみ見ただけで呼ぶとかどうかしているでしょ」

「まあ確かに」

「優ちゃん、ごめんね」

「まだひぎずっているのね、もう怒ってないよ」

「そっか」

不安になっていた顔がぱっと明るくなった。なんだか自分だけ蚊帳の外って感じで気まずかった。

「で、どう言う事?」

「貴方にも分かるよりに簡潔に言うと、私達は小学生の時に病院で会って、それから同じ学校って事で仲良くなって中学でも学校は同じだったけど、途中で海外に行く事になってなかなか会えなかっただけ」

「そうなんだ、ってかさっきなんか僕の事馬鹿にしたよね」

「別に馬鹿にはしてないよ。見たまんまの印象で話しただけ」

「それが馬鹿にしているって言っているんだ」

「誠も優ちゃん仲が良いんだね」

「どこを見たらそう見えるのよ」

「そうだよ大体今日初めて喋ったのに」

「こんな見るからに陰キャで空気読めないやつ嫌い」

「空気読めないってなんだよ」

「だって皆の前でこの事話さなくても良いじゃん」

「それは皆が勘違いしていただけだし」

「そんな事言って実は、みたいな?」

「天地がひっくり返ってもない」

「俺もない」

「なんであんたが上からなのよ」


「ひかりちゃん点滴変えるよ」

「はーい」

看護師さんが入ってきたので会話が途切れる。

「あら今日は誠君だけじゃないのね」

慣れた手つきで点滴変える看護師さんが珍しそうに言ってくる。

「初めまして白井です」

「初めまして」

「誠君は調子どう?」

「大丈夫です」


「ちゃんと薬飲んでいる?」

「はい、言われた通りに」

「なら良いけど、そうだひかりちゃん花火何時だっけ?」

「そうだ、もうやろうかな」

「花火?」

「そう言えば今日って言っていたな」

「花火大会とか行けなかったし写真のモデルに花火やりたいなって」

「今日やるの?」

「うん、もう買ってあるんだ」


そう言ってベッドの中からビニール袋いっぱいに花火が詰まっていた。

「それ全部花火か?」

「そうだけど」

「そんなに必要なの」

「まあ色んな人誘ったしコンビニで買ったんだけど買いすぎたかな」

「買いすぎだよ」

「じゃあ皆呼ぼうか」


そう言って看護師さんにひかりが誘った人達を呼んでもらって、病院の庭に集まってもらったらひかりを診ている先生や看護師さん達など入院している子供から大人、お年寄りまで庭には祭りでもやっているのかと言える程に人が集まった。

「じゃあ皆花火持っていってそれぞれ楽しみましょう」

ひかりの一言で一斉に皆がひかりに感謝を告げながら花火を持っていった。

「あんなにあったのにもうなくなったな」

ひかりは子供やその親だったりお年寄りに捕まって沢山の人に囲まれてとても楽しそうだった


「ひかりがあんな笑顔なの久し振りに見た」

「やっぱり来て正解だっただろ」

「なんかあんたの手の平って感じで嫌だけど取り敢えず良しとするわ」

「素直じゃないな」

「それでひかりの事どう思っているのよ」

「どう思っているって?」

「本当に空気読めないね」

「よく分からないから聞いているんだけど」

「ひかりの事好きなの?」

「直球だな」

「こう言わないと分かんないでしょ」

「そこまでじゃないよ。でも僕は人の事好きになった事ないから分かんない」

「好きってなんか気付いたらその人の事考えていたり、まあ人によって変わるからこれってものはないけど、ただその人が喜びそうな事考えたりそれは気付いたらって感じだよ」

「じゃあそうなのかも」

「そうなのってひかりには時間がないんだよ」

「分かっているけど自分の感情を押し付けたくないんだよ」

「馬鹿!!」

「シンプル悪口やめろよ」

「うるさいそんなんじゃひかりは渡せないね」

「なんで親目線なんだよ」

「だって中学までずっと一緒だったし」

「そう言えば今日ひかりが誤っていたけどなにがあったの?」

「私が海外に行くってなってひかりが泣き止まなくてちょっと揉めただけ、それにもう海外に行く前に解決してるし」

「じゃあなんで帰ってきて直ぐに会わなかったんだよ」

「それはちょっと気まずかっただけ、あなた少し気を使いなさいよ」

「でも親も大部前に亡くなっていたんだし寂しかったのに」

「分かっているよ、でもそう思うならもっとひかりの事考えてあげて」

「考えているよ」


「じゃあ舞台用意してあげる」

「舞台?」

「そう、私らの文化祭に呼ぼう」

「でもひかりは外に出るの難しいだろ」

「それがあんたの仕事でしょ」

ひかりが外にでるは難しいと言う現実に直面に当たった。

「無理言うなよ」

「ひかりに対する想いはがあれば大丈夫でしょ」

「それとこれとは話しが違うだろ」

「それにあんたの小説映画やるんでしょ?」

「なんで知っているんだ?」

「昨日ニュースでやっていて、学校の皆知っていたよ」

確かに僕の小説が映画化されると言われて世間的には大分反響がった。

「そうなんだ」

「文化祭の後に映画言ったら完璧」

「完璧ね」

「ちょっと二人でいちゃいちゃしないでよ」

「してない」

さっきまで人気者だったのにいつの間にかそれをかいくぐって僕らの前に来た。

「誠、皆が感謝してたよ」

「俺に?」

「うん」

「なんで?」

「だって花火やろうって決めてくれたじゃん」

「花火やろうって言ったのひかりだろ」

「私だけじゃあ出来なかったよ」

「そんな事ないだろ」

そう言うと白井さんが溜め息をついて僕に言言った。

「あんたの後押しが嬉しかったんでしょ」

「そうなの?」

ひかりが恥ずかしそうに顔をそらした。

「全く本当に空気読めないな」

「うるさい」


「誠君久し振り」

声がした方を見ると僕の主治医の先生が花火を持ちながら嬉しそうに近付いてきた。

「誠君ってあの人?」

「そうだよ」

近くの子供達がこっちに来るようにと僕に手招きをしている。

「ほら皆の所に行ってあげな」

「分かった」

小走りで子供達の方に行った。


「そう言えばひかりの言ってた事本当に起きたね」

「縫いぐるみの事?」

「そう」

「まあお呪い程度だと思っていたからびっくりしたよ」

「ひかりが縫いぐるみに必ず誰かが気付いて、私達を再会出来るようにしてくれるなんて言った時はなに言っているんだって、思ったけど現実に柊君みたいな人いるんだね」

「優ちゃんを本当に連れてきた時は、誠に感心したよ、懐かしいね二人で話すの。入院していた時は、優ちゃん泣き虫だったのに海外に行って変わったんだね」

「うるさい、で、柊君の事どう思っているの?」

「私は誠の事…」


「誠君だったっけ」

「はい」

お年寄りが話しかけてきた

「ありがとうね」

「もう私らは長くないから最後に楽しい思い出ができたよ」

「お礼は僕じゃなくてひかりに言ってください」

「そうだね」


「誠君はひかりちゃんの事好きなの?」

無邪気な子供が僕に聞いてきた。

「こら、そう言う事聞かないで、ごめんなさい」

子供の親が誤ってきた。

「大丈夫ですよ」

「私の子供だけじゃなくて、皆やっぱり入院しているから娯楽も少なくて」

「じゃあ良かったですやっっぱり楽しい事は皆でやったほうが良いですから」

「そう言ってくれたら嬉しいわ」


「誠君、退院してから調子どう?」

主治医の先生が会話が切れた間に聞いてきた。


「痛む事もなくなりましたし、薬も飲んでます」

「そう、良かったでも前に言った通り再発の可能性はあるしもし次なにかあれば」

「分かっています、もう大部前から僕の心臓は弱っていて次倒れたら死ぬ可能性が高い事も」

「無理しない程度に後悔のないように生きるんだよ」

先生の言葉でやっぱりもう僕にも時間がないのだと言う現実を突きつけてくる。

先生にふとした疑問をぶつけてみた。

「先生、もし壊したくない関係性があってそれが自分の感情の押し付けでたった、一言で壊れてしまうかもしれないとしたらどうしますか?」

「私は怖がりだから言わないかもしれないけど、それで何度も後悔してきたから誠君にはそうなってほしくないな。それに誠君は普通の人と違った物を持ってしまっているから尚更後悔してほしくないな」

「分かりました」

ひかりの方を見ると一眼レフカメラを持って色んな所を撮っている。ひかりは僕の事をどう思っているのだろうか、もし少しでも可能性があるのならもう少しだけ君が撮る写真の先に居たいと思った。


「ひかり起きている?」

花火をした日から少し経った時ひかりに文化祭の事を言ったら行きたいと言ったが、先生には難しいと言われてしまったらしく、ここ数日元気がなかったので心配で時間が許す限りひかりのそばにいようと思いひかりの病室に僕は居る。

声をかけたがひかりは寝ていた

「なんだ寝ているのか」

ひかりの寝顔はとても可愛らしかったがこれが続く事がいつの日か来ると思ったら涙が流れた。

「なんで泣いているの?」

いつの間にかひかりが起きてぼくの方を見ていた。

「いや、何でもないよ」

「もしかしてキスしようとか考えていたんでしょ?」

「そんな訳ないだろ」

「顔を真っ赤だよ。もうウブだなー」

ひかりが楽しそうにからかってくる

「やめろよ」

「ごめんってば、そんなに怒んないでよ」

「こっちは心配していたのに」

「心配?ああ、文化祭の事?」

「それもあるけど」

「それなら問題ないよ」

「なんで?」

「もう外出許可もらったし」

「本当に?」

「うん、楽しんでちゃんと報告したら良いって」

「あんなに反対されていたのに説得できたのか?」

「誠が付いていたら良いって」

もう駄目かと諦めていたのに先生には感謝だと思った。

「それに誠の小説の映画やるならなんとしてでも行かなきゃね」

「本当に行くのか?」

「なんで?」

「なんか恥ずかしい」

「別に誠が出ている訳じゃないでしょ?」

「そうだけど、脚本を共同でやらせてもらったし、なんか恥ずかしいんだよ」

「ずっと小説読んできているんだから今さらでしょ」

「それとこれとは違うんだよ」


「変な所で照れるなよ気持ち悪い」

「来ていたのかよ」

「来たら悪いの?」

白井さんがいつの間にか病室に来ていた

「それより文化祭来られるって本当?」

「うん、当日はちゃんと行くから」

「無理しないでね」

「大丈夫だよ。優ちゃんのクラスはなにやるの?」

「喫茶店だよ」

「そうなんだ。誠は屋台だったよね?」

「うん」

「楽しみだな。高校の文化祭に行けるなんてないと思っていたから」

「じゃあひかりが楽しめるように準備しとくから」

「うん」


「ここの所毎日来ているな」

「それは貴方もでしょ?」

「俺は良いんだよ」

「それはひかりが決める事でしょう」

「私は二人が来てくれるので嬉しいよ」

「ひかりはこの人に甘いのよ」

「そうかな」

「そうよ」

「ひかりもこう言っているんだし良いじゃん」

「調子乗らない、それにお見舞いに来ているならパソコンやめなよ」

「仕事なんだからしょうがないだろ」

「誠はそのままで良いんだよ、私は誠が小説書いている所が見たいんだから」


こんなやりとりをしていたらいつも直ぐに帰る時間になってしまう。


「誠君ちょっと良い?」

「はい」

看護師さんが僕を呼び止める

「じゃあ私は先に帰るね」

白井さんが先に帰っていく

「なんですか?」

「ひかりちゃんと文化祭と映画に行くのよね?」

「はい」

「ちゃんと薬飲むのと報告するように見ていてあげて」

「分かっています」

「ひかりちゃん久し振りに外に出る為に辛い薬投与して頑張っているからちゃんと見てあげてね」

「分かりました」

分かっていた。

症状が良くなく、外出するのなら辛い薬を受けなくてはいけない事も、ひかりに残された時間も少なくなっていた事も。

そんな少なくなった時間も僕はひかりの病室に行き、僕は文化祭の日までなんとかもってくれないかと願いながら当日を迎えた。


「ひかり、入るよ」

「はーい」

「大丈夫?」

「なにが?」

「いや体調とか」

「そんなのもう万全だよ、やっとこの日が来たって感じで元気いっぱい」

「それなら良いけど」

「もう時間?」

「いやまだ少し時間あるよ」

「そっか、そう言えば文化祭昨日からだよね?」

「うん」

「どうだった?」

「昨日は学校関係者しか居なかったけど、皆楽しんでいたよ」

「誠は?」

「僕は一日受付だけだったからあんまり楽しくなかった」

「折角の文化祭なんだから楽しまなきゃ」

「分かっているよでも今日は仕事もないしひかりと回れるから楽しみだよ」

「そっか、じゃあ今日は案内頼むよ」

「了解」


普段の会話を続けて二人だけの時間を過ごしていたら白井さんからラインに通知が入った。

『もう病院出た?』

『まだだけど』

『なんか人多いみたいだから早めに来てね』

「誰から?」

「白井さん」

「なんだって?」

「なんか人が多いから早めに来てだって」

「じゃあそろそろ行こうか」

「分かった」

ひかりを車椅子に乗せて看護師さんに挨拶に行った。


「行ってきます」

そう言うと看護師さんが先生を呼ぶから少し待ってと言われた。


「ひかりちゃん、ちょっと血圧計るね」

「はーい」

先生がひかりに血圧や脈など機械で図って異常がない事が分かって先生が笑顔になった。

「大丈夫そうだね」

「良かった」

「でも無理はしないでね、柊君もちゃんと見ていてあげて」

「もう先生は心配しすぎ」

「誠君、ちょっと良い?」

ひかりを主に見ていた看護師さんに呼ばれた。

「誠君には言っとくけど最近ひかりちゃん、最近あんまり調子良くないから、本当は私も先生も外出は許可したくなかったんだけどひかりちゃん、今日を本当に楽しみにしてて辛い薬も耐えていたから、やむなく許可したけどひかりちゃんが外出できるのは今日が最後になる可能性が高いからひかりちゃんが無理ない程度に思い出を作ってあげて」

「はい、任せてください。ちゃんとひかりを送り届けます」


「誠なに話しているの?」

「いや文化祭なにやるのとかだよ」

「そっか」

これがひかりと外で遊ぶ最初で最後になるのかと思った。

「じゃあ行こうか」

「うん」

「ひかりちゃん、楽しんでね。それから連絡はきちんとするように」

「分かっていますって」

「じゃあ行ってきます」


ひかりを連れて病院を出て看護師さえが運転する車で学校に向かった。

「なんだか高校に行けるってだけで楽しくなってきたよ」

「まだ着いてないのに?」

「うん」


ひかりの顔を見ると少し顔色が悪く感じた

「顔色悪いけど大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「水飲む?」

「大丈夫だって、誠もなんだか看護師さんに似てきたよ」

「それはひかりが心配なだけ」

「そっか、でも学校に行ったら顔色も良くなるよ」

「なら良いけど」

ひかりの体調を気にしながら僕もなんだが緊張してきて、学校に着くのに時間が早く感じた。


「じゃあ私はここで」

「はーい」

「ありがとうございます」

車を出て看護師さんにお礼を言って学校に入る。

「誠君」

「はい?」

「学校で出るちょっと前に連絡してね」

「分かりました」

再び学校に足を向けた。学校の門を括ると受付をしている先生と生徒会の生徒が出迎えてくれた。

「誠誰連れているの?」

驚いた様子で複数の人から聞かれる

「いやその友達だよ」

「本当か?彼女じゃないのか?」

なんだか嬉しそうにからかってくる。

「いや彼女というか病院で知り合った友達だよ」

「彼女です」

「え?」

急に突拍子のない事を言うものだから驚いてしまった。

「ほら、って言うか彼女に友達なんて言うなよ」

「いやそれはなんと言うか」

突然の出来事でひかりが俺の事どう思っているとか分からないし、そんな事を考えている事で少し人集りができてしまった。


「あ、ひかり此処に居たんだ」

「優ちゃん」

そんな僕を見たのか助け船を白井さんが出してくれた。

「じゃあちょっと行ってくるね?」

「どこに?」

「女の子の用事を聞くのは野暮だよ」

「えー」

「じゃあ一階の自販機の前で待っていて」

「分かった」

なんだか分からないけど言われた通りに自販機の前でひかりが好きなジュースを持って、横にあるベンチで待つ事にした。

その間僕が彼女を連れてきたと言う事が噂になって友達が僕に話しかけてきた。こう見えても友達は多いので色んな友達が次々に僕に問いかけてくる。

上手くごまかしながら十分くらい経って白井さんが僕を呼んだ。


「ちょっと来て」

「ひかりは?」

「今連れてくから」

少し嫌な予感がした、もしかしたらひかりが倒れたりしていたりしたらどうしようと思った。

すると一番近くにあった女子トイレからひかりが出てきた。

「え?」

ひかりがメイクをして出てきたので思わず持っていたジュースを落としてしまった。

メイクをしたひかりは元々持っていた大人びた雰囲気だけではなくキリッとした目元を活かしながら、可愛らしくなってモデルのようにそして名前の通りどんなに人混みに混ざっても、光って見えると思えるくらい可愛かった。

「ちょっと初めてメイクした乙女に何も言わないってどう言う事?」

「本当に空気読めないよね」

「いやいやちょっとびっくりして」

「メイクして顔忘れちゃった?」

ひかりが少し残念と機嫌を落とした用に見えた為直ぐに誤解を問いた。

「いやめちゃめちゃ似合ってるし可愛いよ」

そう言うとひかりは顔を背けてしまった。

「それでいい」

「え、どう言う事?ちょっとひかりこっち向けよ」

「うるさい、もう行くよ。押して」

ひかりは顔が赤くなっていた。

何時ぞやの仕返しができた、とても幸せだと思えた。

「はいはい」

「じゃあ最初は誠のクラスに行こう」

「分かった」

自分のクラスに行くと皆が驚いた様子で僕らを見てきた。

「誠彼女連れてくるなら言えよ」

「うるさい」

「可愛いですね。なんて名前ですか?」

クラスの女子が話しかけていつの間にかひかりはどんどん色んな屋台を回っていた。

「お前も隅に置けないな、あんなに可愛い子捕まえるなんて。病院で出会ったのか?」

「うん、病室も近くて歳も同じだったから仲良くなるのに時間はかかんなかったよ」

「そっか、誠が部活やめても直ぐに帰っていたのも気になっていたけど、あの子のお見舞いに行っていたんだな」

「まあそんな感じ」

一番仲が良い陸人にも学校の誰にもまだ病院に通院している事は言ってないのでそう言う事にした。

「まあお前が幸せならなんでも良いわ」

「なんだよ気持ち悪いな」

「うるさい、ひかりちゃん」

「おい、下の名前で気安く呼ぶな」

こうして自分のクラスの屋台で遊び笑顔を見せるひかりを見て白井さんのクラスに行く事になった。


「いらっしゃい、ひかり」

「俺は?」

「ひかりやっぱりメイクして良かったでしょ?思った通り可愛い」

「おい無視すんな」

「二名様来店です」

「こちらの席へどうぞ」

「何にする?」

「どうしようかな」

「何にしますか?、って優に振られた柊君じゃん」


告白もしてないのに勝手に振られた事になっている。

「告ってないし」

「そうなの?優が言っていたよ振ったって」

「なんでだよ」

「お連れになっているのは、彼女さんかな?」

「はい」

ひかりはこの状況を楽しんでどうやらこのまま俺の彼女と言うつもりらしい。

「ならこのカップル限定のパフェなんてどうですか?」


「じゃあそれにします」

「はーい、パフェ入りました」

「パフェとか食べて大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

程なくしてパフェが運ばれて来たのだがこれが相当でかく食べるのに苦労した。


「はー、お腹いっぱいだ」

「少ししか食べてないだろ」

「いやいや結構食べたけど」

「殆ど俺が食べたんだが」

「食べ盛りの男子高校生なんだからいっぱい食べなきゃ」

「はいはい、じゃあそろそろ出ようか」

「ちょっと待って」

「どうした?」


ひかりの顔を見ると真っ青になって苦しそうにしていた。

直ぐに水と薬を持ってひかりに渡した。

「やっぱり大丈夫じゃなかったじゃん」

「少し休んで良い?」

「勿論」


外に出て風を当てて悪かった顔色が少し良くなった

「じゃあ帰るか」

「なんで?」

「そんな状態で映画は無理だろ」

「でもそれを楽しみに頑張って来たのに」

「映画はまだやっているしいつでも行けるよ」

「私に次はないのに?」

やはりひかりは自分にもう時間がないことを知っていた。

「言われなくも分かっているよ、だってずっとこの体で生きて来たんだから」

「でも」

「最後」

「え?」

「最後の我が儘聞いてよ」

「最後って」

「誠にはちゃんと受け止めて欲しいんだ」

「俺にはそんな事できないよ」

「出来るよ」

「なんで言い切れるんだよ」

「だってずっと一人だった私を見つけてくれた、それに優ちゃんともまた会わせてくれた。だから聞いて私の最後の我が儘」

少し悩んで、ひかりの体調は絶対に悪い事は分かっていたけど、それでもひかりの眼差しを見たら断れなかった。

「分かった、でもなにかあれば直ぐに言うんだぞ」

「分かった」


看護師さんに連絡して、学校を出て車で近い映画館に向かった。

「ひかりちゃん大丈夫?」

「うん。なんだか色んな人に会って元気もらっちゃった」

嘘だ、あんなに苦しそうにしていたのに僕の映画の為だけに頑張っている姿はとても苦しいものだった。


「映画館って初めて来たよ」

「映画館に来るとワクワクするでしょ?」

「結構自信あるね」

「そうじゃなくて映画って何があるか分からないからワクワクするって事」

「誠なんか自分が原作で脚本まで担当しているのに自信なさげだよね」

「そりゃ初めて脚本やるし、共同で歴のある人に見てもらったってなっても自信はないよ」

「そう言うものなんだ」

「そう言うもの」

チケットを買って席に着いて本編が始めるまでに流れる予告を見ていると、隣に居るひかりが突然手を繋いでくる、驚いてひかりの方を見ると笑顔で僕を見てくる。

「なにかあれば言ってくれるんでしょ?彼氏さん」

「からかうなよ」

「でも嫌がってないじゃん」

「まあ悪くはない」

「素直じゃないな、ちゃんと私の異変に気付いてよ」

「当たり前だ、なにがあってもちゃんと病院に送り届けるから」

「ありがとう」

初めて異性と手を繋いだ事でドキドキして映画の内容が入って来なかった、でも自分は映画が完成した時に全部見ていたので内容は頭に入っているが、

僕が危惧していたのは制作してない人間がどう言う反応をするのか、

そして一番の読者であるひかりに落胆されたくなかった事だった。


「はー、良い映画だった」

「本当?」

「うん。ちゃんと原作に忠実だったし原作に出てなかったシーンも補填されていて百点だよ」

ひかりにこんなに言われればもう他の人間の評価なんてどうでも良いと思える程だった。

「てっきり酷評される覚悟だったから」

「私を見くびらないで欲しいな、私は誠の小説の最初の読者で一番のファンだし映画が良かったのは事実だから」

「そっか、なら良いや」

「うん、素直で宜しい。あとは誠はもっと自身を持って」

「分かった、じゃあ行こうか」

「ちょっと待って」

「どうした?また気分悪くなったか?」

「違うよ」

「じゃあなに?」


少し恥ずかしそうにもじもじとしている。

「時間ないけどまだなんかあるの?」

「下にゲームセンターあるじゃん」

「あるけど」

「その、プリクラって言うのやりたい」

少し迷ったけどひかりが最後にやりたいと言った事と最後の思い出として残してやりたいと思った。

「じゃあ時間無いし、行こうか」

ゲームセンターに行ってプリクラの機会の前に行くと周りは、沢山のJKが居て場違いを感じた。

「これどうやってやるの?」

「分からん」

「私も分からない」

「ひかりがやりたいって言ったんだから少しは調べろよ」

「まあなんとかなるでしょ」

そう言って色んな所を押している。

お金を入れると急にカウントダウンがされてパシャっと音がなった。

「なにこれ変な顔」

「ひかりもぶれてるじゃん」

笑い合いながら次々と撮っていく、なかにはポーズを決めたりしてテンションが上がった。ひかりが車椅子から立ち上がってポーズをした時は焦ったが、ものの数秒だったで特に問題はなかった。

「楽しかった」

「それはなにより、じゃあ今度こそ帰えるよ」

「うん、まだ未練はあるけどもうやりたこと出来たしこれで満足したよ」

看護師さんに連絡して車で迎えに来てもらう。

「ひかりちゃん楽しめた?」

「うん、もう充分」

「そっか、誠君も楽しめた?」

「はい」

車で病院に向かいながらひかりは先程撮ったプリクラを嬉しそうに見た、看護師さんに見せたり学校で起きた出来事などを思い出すように話していた、僕も楽しく話しているがやはりひかりの残された時間を考えると、心の底から笑顔にはなれない。


「じゃあ車で止めてくるからひかりちゃんは先に行っていて」

「誠は?」

「もう今日は疲れたと思うから面会はできないよ」

「分かりました」

「もう少しだけ誠と一緒にいたら駄目?」

「ひかりちゃん、分かっていると思うけどひかりちゃんの体は限界に近いんだよ」

「分かっている、だからもう少しだけ」

そう言うと看護師さんは溜め息をついて悩んでいたが、先生には自分で言っておくからと許可してもらい、僕もひかりと一緒に病室に行った。


「お帰りなさい」

「先生、ただいま」

「じゃあ軽い検査するから誠君はちょっと待っていて」

「分かりました」


ひかりが先生に連れられて行ったのと同時にラインに通知が入った。相手は白井さんだった。

『ひかりはどう?』

『大部疲れていたけどなんとか病院に着いたよ。ひかりは今から検査』

『そうなら良かった』

『じゃあ今から通知鳴りやまないと思うけど気にしないで』

『え?』

『良いから、ひかりが帰って来てからまたライン開いて』

『分かった』

何が送られてくるのかと思いながら、ラインを閉じると通知がどんどんと入ってきてあっと言う間にアイコンの端に数字沢山溜まった。

何事かと思ったがひかりが帰って来るまで我慢した。


ひかりは十分程で帰って来た。

「どうだった?」

「なにが?」

「なにがって検査」

「ああ、それならばっちりだったよ」

「そっか」

本当なのだろうか、どこか悪くなっていないだろうか。

そんな考えるが頭をよぎって会話が浮かばないそんな僕を見てひかりは頭を撫でできた

「よしよし」

「やめろよ」

「大丈夫だって今日は私の意思で行ったし私の最後の我が儘と思い出を沢山くれてありがとう」

「そんな事言わないでくれ」

自然と涙が流れて声が上手く出ない

「もう高校生にもなって泣かないでよ」

「分かっている」

「大丈夫私は誠が生きてれば傍にいるから」

「死ぬなんていやだよ」

「私も」

ひかりの方を見るとひかりも涙を流していた。


「死ぬの怖いし嫌だ、もっと誠と優ちゃんと沢山の時間を過ごしたい」

「なにかまだ時間を過ごせる、可能性はないのか?」

「うーん、もう沢山試してそれでも私の心臓はもう限界みたい」

「そっか、そうだライン」

「ライン?」

「そう」

こんな時に関係ない連絡を白井さんが寄越す訳ない。

「あ、写真」

そこには俺とひかりの写真が沢山送られてきた。

白井さんだけじゃない陸人や他の友達から沢山の学校の様子など色んな写真があった。

「良いね、それ」

「皆いつの間に撮っていたんだろ?」

「結構後ろ姿が多いね」

「隠れて撮っていたからだろうね。あ、ひかり」

「本当だ」

そこには僕のクラスの屋台で遊ぶひかりの姿が映っていた。

「本当なら車椅子なんて乗らないで普通に学校に通っていて、普通に文化祭に行きたかった。私は普通の高校生で居たかった。毎朝お父さんと一緒に家を出てお母さんのお弁当を持ってそう言う世界で誠と出会いたかったな」

「そうだよな」

「ねえ最後にもう一度約束するね」

「何を?」

「誠が死んだら生き返させてあげる」

「そんな事出来る訳ないだろ、俺ももう」

「私の後に直ぐにこっちに来たら許さないから」

「でも」

「でもじゃない、必ず私が出来る事でちゃんと私がやったって分かるようにするから」

「なら、楽しみにしているよ」

「不吉だね」

「そうだね」

この会話は僕らにしか分からないだろうし、

こんな会話を笑いながら出来る事も僕らのような境遇になってしまっている人間にしかできない。

だから僕とひかりの時間が止まったように感じた。

「じゃあもう行くね」

「うん、ちょっと待って」

「なに?」

「手、繋いで」

「分かった」

ひかりの傍に、行って手を出す。

「もっとこっち来てよ」

結局さっきと同じ距離まで行って、手を繋いだ瞬間ひかりが僕をグッと引っ張ってキスをした。

「え?」

「これが私の答えだよ」

「ずるい」

「うるさい早く帰りな」

「分かった」

ひかりの病室を出て病院の庭に向かった。

「あんなに空気読めなかったのに最後に出来たじゃん、言葉が足りない所は治せなかったけどこれは治せたね」


庭のベンチに座って空を見ていた。下を向いたら涙が流れてしまそうだった。

「誠君」

声がした方を見ると看護師さんだった

「隣良い?」

「はい」

「ひかりちゃんどうだった?」

「元気でした」

「そう」

「でももうひかりには無いんですよね、時間が。」

「うん」

「なんでもっと早く出会えなかったんだろ」

「そうだね、はい、ハンカチ」

看護師さんがハンカチを渡すまで自分が涙を流していた事に気付かなかった。

「どうにかしたいけど僕には何もできないですよね?」

「そうだね。私達も何度も諦めそうになったけどひかりちゃんは頑張ったよ」

その言葉がひかりともう会えないと思えてしまう、まだ生きているのに、まだ暖かかったのに。

次の日朝一番で病院に行った、もう一度だけひかりを会いたいと思った、何度も神様に祈った。

そして病室にいつも通り声をかけようとした時ひかりの心臓は終わりを迎えた。


「ひかり」

そう言って近付いて声をかけても帰って来ない、先生も看護師さんももう出来る事はないと顔が物語っていた。


ひかりをどこかに運んでいって医者と看護師が僕の目の前で通り過ぎた。

僕は何もできなかった。ひかりの好きだったジュースを自販機で買いに行って病室に戻ったがやはりひかりの姿は何処にもなかった。

ひかりは最後まで気まぐれで猫みたいだった、ベッドに座ってひかりの私物を見てひかりの撮った写真が飾ってある内に一枚だけ僕とひかりが映っていた。

「なあひかり、これ良く撮れているな」

そう言っても返事は帰って来ない、でもいつの間にか病室の端から白井さんの声が聞こえた

「その写真、ひかりが一番気にいっていたんだよ」

「そうなんだ」

最後にひかりの写真を見て僕は病院を出た。


少し日が経ってひかりの葬儀が行われた。

葬儀はひかりが亡くなると言う事実を突きつけてくる、それはとても苦しい。でもそんな感情は僕だけが抱いている訳じゃない事も理解した上でなにも考えられなかった。

「誠君大丈夫?」

「はい、辛いのは僕だけじゃないので」

「そう、これ持っていてあげて」

看護師さんがひかりの写真のアルバムを渡してくれた。

「良いんですか?」

「うん、これだけは誠君に持っていて欲しいの」

「分かりました」

僕はアルバムを見ながら沢山の風景写真を見ていった、そこには俺だけが映ってる写真も何枚から入っていた。その写真をしばらく見ていたら白井さんが話しかけて来た。

「大丈夫?」

「それ今日色んな人に何度も言われたよ」

精一杯の笑顔で返すがぎこちない笑顔になっていたと分かっていた、でもそうでもしてないと今でも泣き崩れてしまいそうだった。

「無理しなくて良いわよ」

「でもひかりは多分泣いて欲しいとは言わないでしょ」

「そうね、ひかりはこんな時だとしても笑顔で送って欲しいって思うでしょうね」

「そうだよ、だから僕は泣かない」

「でもひかりにもう家族はいないし、多分ひかりを一番理解して分かり合えたのは貴方だけなんだからその苦しみと辛さ、独り占めしても誰も文句は言わないよ」

「分かっているなら、泣かせようとしないでよ」

「だからこそ言わして貰うけど少しでも変な事考えていたら許さないから」

「それは大丈夫だよ、だってそれがひかりが一番怒る事だから」

「そう、なら良いわ」

そう言い残して白井さんはどこかに行ってしまった。

そして次第に葬儀場には僕だけが残っていた。


「やっぱりひかりが居ないとつまんないな」

写真を見つめてぽつりとこぼした、本音と共に外では雨がぽつりと降りだしたまるで僕の心を表しているかのようだった。


そんな僕の心など置き去りにするように朝やって来る。

「誠、朝だよ」

「分かっている」

「起きていたんだ」

「うん、準備して下行くわ」

「お父さん、誠大丈夫かな電気も付けないで椅子に座っていたけど」

「心配だけど今はそっとして置いてあげよう」

「そうね」

制服に着替えてリビングに行き朝食を食べて家を出る


「行ってきます」

「薬ちゃんと持った?」

「持った」

「気をつけてね」

「うん」

家を出ていつものように電車に乗って学校に向かう


「誠、おはよう」

「おはよう」

「あれからひかりちゃんだっけ?進捗あった」

「進捗もなにもないよ」

「そうか」


ひかりが亡くなった事は白井さんしか知らない、だから皆にはいつものように振る舞って気付かれいようにと心がけた。大丈夫今までだって病気の事も上手く誤魔化せたし今までと変わらない日常を過ごせば、良いだけ。

そう思う度にひかりの事が頭から離れない、今にでも泣きそうだった。

授業が始まっても内容が入って来るはずもなく、ぼんやりとただ時間が過ぎるのを待った。多分それが神様を怒らせたのだろう。

「此処の問題誰かに解いてもらおうか、じゃあ柊」

先生に呼ばれた事にも気付けなくて少し教室が静かになる

「おい、誠」

「なに?」

「この問題当てられているぞ」

「え?」

「どうした?柊調子でも悪いのか」

「いや大丈夫です」

「じゃあ答えて」

「はい」

立ち上がって教科書を見た瞬間突然胸の痛みに襲われた。

「柊、頭悪いから分かんないだろ」

クラスメイトのいじりで教室が笑いに包まれたのと同時に僕の記憶はそこで途切れた。


目が覚めると見た事がある真っ白い天井、此処は病院だと直ぐに理解出来た、それと同時に僕が隠していた病気の事が学校の皆にばれてしまったと思い落胆している所に看護師さんが病室に入って来た。

「誠君目が覚めたんだ、先生呼んでくるからちょっと待っていて」

看護師さんの慌てようで僕はいよいよ不味い状況だと思った。程なくして主治医の先生が僕を軽く診断する。

「異常はないね、良かった」

「先生、僕また戻ってきちゃいました」

「冗談が言えるくらいなら心配ないね」

「僕はどのくらい眠っていましたか?」

「五日間くらいだね」

「そうですか」

「運ばれて来た時は本当に焦ったよ、でも手術も上手くいったし、それに君の心臓はまだ動けるよ」

「良かったです」

本心でありながら少し雑念がよぎった。

「柊君」

「白井さんか」

「私で悪かったね」

「いや、一人でも来てくれる人が居るなら僕は嬉しいよ」

「なに言っていんの?この五日間皆が来てくれていたんだよ」

「え?」

「前に誠君お見舞いに来てくれる人なんていないなんて言っていたけど、本当に沢山友達が来ていたよ」

主治医の先生が実際に友達が来たことを教えてくれた。

「そうなんですか?」

「うん、じゃあ僕らはこれで失礼するね」

「はい」

「柊君まで死んじゃうじゃないかって本当に思ったよ、ひかりと出会わせてそのままなんて私は許さないから」

「ごめん」

「そうだ、これ見て」

白井さんが僕に見せたのは僕Twitterのリプ欄だった。

『柊先生病気に負けるな!!』

『いつまでも柊先生の小説を楽しみにしているのでどうか無事であって下さい』

『いつも柊先生には元気を貰っているので今度は僕らが元気を送ります』


そこには読み切れない程に沢山の読者からの無事を祈るコメントが溢れていた

「皆なんで知っているの?」

「柊君が倒れてから小説の担当している人が持病だってTwitterで言ったらしくてそれがネットニュースになって広まったみたい」

「そうなんだ」

元気を少し貰った気分だった

「それとこれね」

渡されたのは大きめの紙袋だったそこには

『誠へ』

と書かれていた

「なにこれ?」

「さあ私も柊君に渡してって言われただけだから」

「そっか」

「私なんか飲み物買って来る」

「分かった」

早速紙袋を開けるとそこには大きめな風景写真の写真集が入っていた、名前にはひかりと名前で乗っていた。直ぐにページをめくると沢山の風景写真が乗っていた。それを何気なく見ていると最後のページから封筒が落ちた。それを開いて見るとひかりの字で書かれた手紙が入っていた。

『これを見ていると言う事は私はもう生きてないよね、これは夢だった風景写真の写真集を出す事が決まって、発売までに誠に何かあった時ように一冊だけ先に作って担当してくれた人に優ちゃんに渡してほしいとお願いしていた物です。本当は誠に何も起きない事を思いつつ、いつか私が約束した事を現実にします。生き返せる事はやっぱり出来ないけど、私はいつまでも誠の傍に居るから。それから最後にずっと病気で何も良い事なんてないと思っていたけど一つだけ良かった事があった。それは誠と出会えた事、そして病気じゃなくて普通に生きたかったって言った事覚えている?

あれは本当だけど少しだけ嘘だった、だって病気で入院してなかったら誠にも優ちゃんにも出会えなかったと思っていたから。さあ最後にもう一度封筒の中を確認してね』

直ぐに封筒を見てみると一枚の写真が入っていた、それはひかりが一番気に入っていると白井さんが言っていた写真だった、ふと写真の裏側を見るとひかりの文字で一言

「誠大好きだよ」

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君が撮る写真の一部になりたい やと @yato225

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