戦火の中で公主は笑う(三)
それはもちろん蘇寧や静蘭もそうであり、親や権力者……ましてや国主である清瑶の決めた事なのだから、余程の事が無い限り覆す事が出来ないであろう。
そう、余程の事が無い限りだ。
例えば
そこからの彼の行動はとても早かった。
地頭の良さや、科挙での優秀な成績、権力者の息子に財力、人望……ありとあらゆる物を持っていた蘇寧と、度が過ぎた暴君と名高く、皇城内、貴族内とで恐れられていた
蘇寧が行動を起こすと聞いた者達は一斉に蘇寧側につき、兵を挙げた。
その僅か一月後、静蘭が一人の侍女とお忍びで街へ出掛けた時に謀反は決行された。
静蘭がいないのは事前に知らされていた訳ではなく、本当に偶然であった。
「何だあれ!」
「皇城が燃えてるぞ!」
茶屋で少し休憩していたら、急に外が騒がしくなって、皇城が燃えていると人々が次々に声を上げるではないか。
「どういうこと?今日は何か催しでもあった?」
「いえ……そのような事は聞いておりません」
ただ人々の表情から見るに冗談では無さそうだ。嫌な予感がし、茶屋を出て皇城が見える場所まで移動すると、確かに皇城の蔵らしき建物がいくつか燃えている。
火事でもあったのだろうか、泥棒でも入ったのか?
このような緊急事態を前にしてこのまま城下町で遊んでいられるわけも無く、静蘭と憲英は皇城へと戻った。
しかしそこで壮絶な物を見てしまった。
皇城へ入った途端異臭が漂い、まだ城門付近だというのに兵士達の死体があちこちへと転がっている。池は血で深紅に染まっており、格好から見て護衛だけでなく文官まで殺られているようだ。
「公主殿下!」
あまりの惨い光景に静蘭が目を見開いて動けずにいると、憲英が静蘭の腕を引いて物陰へ隠れた。
「残りの皇族は?」
「恐らく第七公主と第二皇子、後宮にいた数人の女達だけだ」
「皇子の首は絶対として、第七公主は生け捕りにしろとの事だ。傷一つ付けるなって無茶な話だよな」
何故だ、何故静蘭だけ生け捕りにするつもりなのだ?憲英は兵士達の会話を聞いてそんな疑問を抱いたのだが、静蘭はそうでは無かった。
残りの皇族は自分と第二皇子、後宮にいた数人の女だけ?ならば母は、琳はどうなった?
「母上……母上を探さないと……!」
「殿下!いけません、しばらく大人しくしていましょう」
「でも母上が!これは一体何事なの?何で皇城がこんな事になっているの?皇子の首?私は生け捕り?どうして……何があったの……」
後宮の方へ行こうとする静蘭を憲英が取り押さえる。静蘭は憲英を振りほどこうとするが、また一人兵が来た事によって動きを止めた。
「後宮の抜け道から脱出しようとしている第二皇子を捕らえた!」
どうやら第二皇子まで捕らえられてしまったらしい。先程から清瑶の話が全く出てこないため、清瑶はもう……そんな考えが頭を過ぎった。
ようやく現状を整理し始めた静蘭は、ここでようやく謀反が起こったのだと気が付いた。
主犯者は誰かは知らないが、皇族は全員殺して血を絶やしておきたいはずだ。捕らえられたところでもう命は無い。
兵が全員去ったのを見て、静蘭達はまず書庫へと入った。
書庫の地下室には一部の皇族のみが知る抜け道がある。ここを行けば皇城で最も複雑な造りで、迷路のような後宮へと繋がるのだ。
後宮はその構造から緊急事態の逃げ道として使われる。
灯りも無い暗い道をただひたすらに伝い歩くと、ようやく行き止まりになった。
「殿下、もしや扉を鎖されてしまったのでは?」
「いいや、ここで合っているはずだ」
以前、この抜け道の構造を清瑶に教えてもらった事があった。抜け道の存在も清瑶に直接教えてもらったもので、本当にあるのかすら知らなかったが、今回役立った。
音が無いのを確認すると、静蘭は天井へと腕を伸ばす。
軋むような音と共に、天井から光が注がれた。
「出るぞ」
まず静蘭が身を乗り出して出ると、憲英へ手を貸す。
二人して抜け道から抜け出すと、後宮は本殿とは違い、まさしく業火に包まれていた。
女官や妃達が行く道行く道へと倒れ、地は血の水溜まりが出来ている。
最悪の事態を想像してしまい、火の手を避けながら震える手足で何とか自分と母の宮へと辿り着いた。
「母上、母上、どこですか!返事をしてください、母上!」
一通り探すも、宮の中にはいないようだ。
「殿下、落ち着いてください。きっと琳様は大丈夫です、あの護衛二人がついていますから」
そうだ、あの二人は強い。静蘭も護身術を教えてもらった身だからそれは十分に理解している。
僅かな希望を見出し、宮を出て今度は違う後宮内の抜け道へと向かう。
その抜け道は直接外へ繋がっている抜け道だ。
しかし、とある人物を見つけて静蘭達は足を止める。
「殿下、あれは……」
倒れていた二人は見覚えのある顔だった。無惨にも一人は腕を切り落とされていて、もう一人は心臓を切り裂かれた後がある。
間違いない、あれは護衛の侍女二人だ。
「っ……殿下、早く行きましょう!ここに琳様はいません、きっとご無事でいらっしゃいます!」
「い、……嫌だ……憲英、何であの二人が……」
「殿下、まずは殿下の安全だけを考えましょう。いいですね?」
冷静を装って今にも崩れ落ちそうな静蘭を鼓舞して腕を引く憲英だが、彼女もまた腕が震えており、表情は崩れていた。
今の今まで生存者に出会った事が無い。絶望的な状況だ。
「第七公主殿下!」
その時、後ろからそう呼ぶ声がした。
一瞬心臓が止まったかと思ったが、静蘭は聞き覚えのある声に後ろを振り向く。
「
そこには顔や衣を血でべっとりと汚した蘇寧がいた。傍から見ればここまで来るのに死闘だったと見えるだろう。
「殿下、彼は……」
「蘇寧公子、首席国師の長男だ。寧公子、母を……琳美人を見ませんでしたか?」
「残念ながらお見かけしておりません。それよりも早くこの場から離れましょう!私が護衛致します!」
首席国師の長男だから謀反を起こす理由が無い。そう思い、二人とも蘇寧を一つも疑わなかった。
しかし、蘇寧が近付き、静蘭の腕を引こうとした時に憲英は気が付いてしまった。
蘇寧にはこの絶望的な状況の割には返り血ばかりで傷一つついていない事に。
咄嗟に静蘭を突き飛ばして蘇寧から距離を離すと、憲英は静蘭に向かって叫んだ。
「早く逃げて!」
そして、その言葉を放った瞬間に憲英の胸は短剣で貫かれたのだ。
「……は?」
目の前の出来事が静蘭には全てゆっくりに見えた。
自分を突き飛ばした瞬間に蘇寧が懐から短剣を取り出し、憲英の胸へ突き刺したのだ。
短剣が憲英の胸から抜かれると、憲英は力なくその場へ倒れ込んだ。もうぴくりとも動かない。
「憲……英……?」
「感の鋭い侍女だ、流石公主殿下の侍女」
殺したんだ、蘇寧が。
ただその事実だけを目の当たりにした静蘭は、我を失い、近くにあった物を全て蘇寧に投げ付けた。
「殿下、物投げるなんてはしたない行為はおやめください。さぁ、私と共に行くのです」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!よくも、よくも憲英を……!」
近くに倒れていた侍女が力無く護身用の刀を持っているのを見て、その刀を奪い蘇寧に向ける。
「お前が、お前が首謀者なのか」
「全ては殿下のためなのですよ。さぁ殿下、あなたにはそのような刀なんてお似合いになりません。私と共に来てください、あなたを決して悪いようにはしない」
静蘭は刀を握る手にぎゅっと力を込めると、蘇寧に斬りかかった。
しかし、蘇寧はそれを軽々と弾き返してしまう。
「無駄な抵抗は辞めてください。あなたのその細い腕でどうやったら刀を使いこなせるというのです?」
「黙れ!お前が、お前が憲英とあの二人を!」
母の侍女であったあの三人は静蘭が生まれた時からずっと世話をしてくれていて、尚且つ唯一の友人のような存在であった。
ずっと外部とは交友を一切築かなかった静蘭からしたら、あの三人の存在は大きすぎる。
それを目の前で失ったのだ。
とにかくひたすらに蘇寧を目掛けて刀を振り落とした。元の素質なのか、あるいは侍女二人に教えて貰っていた護身術が応用されたのか、太刀筋は悪くない。
しかし、正気を失った静蘭の刀筋を避けるのは蘇寧からしたらなんて事も無い。
「はぁ……わかりました、これで手を打ちましょう。殿下の母君、琳美人はまだ見つかっていません。討ったという報告もありません。もし私と共に来てくださり、私の言う事を聞くというのならば、琳美人の命は助けます。ですから大人しく私と来てください」
「……」
母がまだ見つかっていない。その言葉を聞いて、不服にも一瞬安堵してしまった。
「頭の良い殿下ならおわかりでしょう。私にこうして見つかった時点であなたの勝機は無い」
時期に蘇寧の兵がこちらへ集まってくるだろう。それに蘇寧は多少の武術も心得ているようで、静蘭と一対一でも護身術では無い武術の経験が無い静蘭に勝ち目は無さそうだ。
もう父も討ち取られた以上、この謀反の勝者は蘇寧だ。
ならば身が引き裂けそうなくらい憎くて悔しいが、無駄な抵抗はよして、まだ無事な母の命を何としてでも守った方が良い。
そう判断した静蘭は刀をその場に捨てた。
「流石殿下、ご賢明な判断だ」
蘇寧の兵に引き渡された静蘭は、そのまま本殿へと連れていかれた。本殿へ入り、玉座の間まで行くと、父である清瑶の首が槍に串刺にされており、胴体は磔にされていた。
清瑶の暴君ぶりは知っていたし、気に入られてはいたが静蘭は別に清瑶の事を好きでも嫌いでも無かった。
とはいえ、血の繋がった実の父親だ。なのに、このような悲惨な姿を見ても何とも思わず、心はずっと母の安否ばかりを心配していた。
静蘭は我ながら冷たい人間だと思う。
「蘇寧様!琳美人を保護致しました!」
「よし、ここへ連れて来い」
しばらくすると、兵に支えられた琳がやってきた。
琳も同様、清瑶の遺体に一瞬の動揺を見せたが、すぐに静蘭の姿を目で探す。
「母上!」
「
「ありません、私は大丈夫です。それよりも母上は?」
衣に血が付着しているものの、どうやら琳のものではないようだ。
「私は大丈夫……二人が最期まで守ってくれたから。あの二人は……」
琳は一気に顔を落とす。二人の遺体は静蘭も目にしたが、かなりの乱闘だったようだ。二人には申し訳ないが、琳に思い出させたくは無い。
「母上、母上がご無事なだけでも私は……」
「……ありがとう。憲英は?」
「……すみません、母上。母上の大事な憲英を死なせてしまいました」
「そう……。私も同じ、阿蘭が無事で良かったわ」
すると、その会話を聞いていた蘇寧が琳と静蘭の間に割って入ってきた。
「琳美人。あなたには申し訳無いが、白の宮に幽閉致す」
白の宮とは、罪を犯した皇族が幽閉される宮で、一生そこから出られる事は無い。
「待ちなさい、母は助けると言ったでしょう」
慌てて静蘭が蘇寧に抗議するも、蘇寧は冷たく言い放った。
「ええ、確かに琳美人の命は助けると言いました。そしてあなたは私の言う事を聞くと」
蘇寧は静蘭の柔らかな頬に手を滑らせる。
「娘に触るな!」
咄嗟に琳が蘇寧に突き放すが、周りにいた兵に刃を向けられる。
「やめなさい、殺すなと言ったはずだ」
静蘭は驚いた。穏やかで優しい母が、ここまで激昂し、声を荒らげるところは見た事が無かった。
「琳美人、そう怒らないでください。公主殿下、あなたが私の提案を受けていれてくださるのなら、琳美人の命は保証致します」
「やめなさい阿蘭、私の事はいいからこの者の言いなりになんてならないで」
いくら容姿や行動、思考が大人びているからとは言え、静蘭はまだ十五歳になる年だ。
このような状況下でパニックに陥っていた。
「公主殿下……いや、静蘭。私の妻になりなさい」
蘇寧がそう言うと、静蘭が何かを言う前に琳が再び口を開いた。
「無礼者!いいか、お前が静蘭を何で脅そうと静蘭はお前の思い通りにはならない!お前が私を使って静蘭を脅すならば、今ここでこの命を絶ってやる!」
そう叫ぶように言うと、琳は懐に隠し持っていた小刀を取り出し、自身の首を斬ろうとした。
しかし、その腕を止めたのは静蘭だった。
「母上、おやめください!私はもう何も失いたくありません、母上まで私から居なくならないで!」
「静蘭……」
静蘭の言葉に小刀を持つ手を一瞬緩めた琳だったが、蘇寧の姿を再び捉えると、また力を入れた。
「母上!」
もう駄目だと思い、静蘭は力ずくで琳から小刀を奪い取り、教わった護身術の一つで琳を気絶させた。
「蘇寧、お前の提案を受け入れる。だから母上には一つも傷を付けず、待遇も不十分の無いようにしろ。それが私からの条件だ」
「ええ、勿論です」
二日後には皇城からは血の臭いがすっかり消えていた。特に損傷が激しかった後宮は昨日から再構築を始めたらしく、騒々しい。
ならば妻である静蘭はどこにいるのかというと、華宮という宮にいた。
他の宮と比べて小さく、窓が一切無く、入り口も一つしかないような、外の光を受け入れないような宮だ。そのため使い道も無く、もう何十年も使われていないような部屋だったが、蘇寧からしたら都合が良かった。
蘇寧は静蘭が自分のものになった途端に、静蘭に対して狂気的な嫉妬心や執着心を向けるようになった。
他の男の目に映るのも嫌がるようで、そんな蘇寧からしたら華宮ほど都合の良い宮は無いであろう。
そして蘇寧は浅ましくもこの三日間、夜になると華宮に夜這いに来た。
こんな事になる前は、蘇寧は存在は認識していたものの常に視野の外にある感じで気に留めた事すらなかったが、今となっては目の前の蘇寧という男がおぞましく、恨ましく、憎くて仕方が無い。
初日はこんな事があった日だからゆっくりしたいと伝え、二日目は再び静蘭を押し倒したものだから近くにあった水瓶で頭を殴って殺してやろうかとも思ったが、母の存在を思い出して手を止めた。そして静蘭は無様で情けなく思ったが、偽りの涙を流して蘇寧に気持ちの整理をしたいからしばらく放っておいて欲しいと縋ったのだ。
今思い出しても鳥肌がたつし、無力な自分に腹が立って仕方が無い。
清瑶に見出されたあの時から今まで、静蘭はこのように媚びるような事ばかり学んでしまった。父の機嫌を取っているうちは身内に不幸は訪れないと悟ったからだ。
静蘭の泣き落としが効いたのか、蘇寧は一週間は宮に訪れて来なかったが、またすぐに通ってくるようになった。
流石に男だと知られてしまったら、いくら静蘭に心底心を奪われている蘇寧とはいえどんな行動をするか分からない。
もし、母に火の粉か舞い降りてしまったらと考えると、解決策は思い浮かばずとも今はまだ知られてはいけないと思ったのだ。
そのため、閨事はあの手この手で避けた。
しかし、静蘭が華宮に来てから一ヶ月が経ったある日の事。静蘭のもとに訃報が届いた。
「白の宮に入られた琳様がお亡くなりになられました」
その訃を聞いた静蘭は後頭部を思い岩で殴られた錯覚に陥った。まるで魂が抜けたかのようにその場に座り込む。
「静蘭妃様!」
使者は琳から静蘭に向けた遺書と遺品を蘇寧には内緒で持ってきてくれていた。
遺書には、自分に力が無く、自分の単なる予想と想像で静蘭を公主として育てて自由から縛り付けてしまった事への後悔と謝罪、今までの思い出や有難かった話、そしてもう何もかもどうしようも無くなった時にこの扇子を使いなさい、と書かれていた。
「は、はは……」
遺書を読み終えた静蘭は乾いた失笑が止まらなかった。
結局はこういう結末を迎えてしまった。最初から最後まで母を守る事が出来なかった。
ふと鏡に映る自分の顔を見る。
清瑶にも、侍女達にも、他の大人達にもことごとく琳美人の……母の生き写しだと言われてきた顔。
蘇寧の息のかかっている侍女達に強制的に着飾らされ、華やかで美しい化粧を施した今の顔では、あの化粧っ気の無かった母に似ているかなんて自分では分からない。
ふと遺書と共に持って来られた木箱に目を移す。箱を開けると中には牡丹の花が描かれた扇子があった。
目立った傷は無いものの、古びていて、扇骨の部分は少々傷んでおり、触ったら崩れてしまいそうで取り出す事すら躊躇う。
しかし見た目よりも随分丈夫なようで、意を決して木箱から取り出しても折れたり壊れたりする様子は無かった。
しかし、琳がこの扇子を使っているところを静蘭は見た事が無い。本当に琳の物なのだろうか。
琳がどうしようも無い時にこの扇子を使えと言う意味もよく分からなかったが、静蘭は唯一の母の形見を遺書と共に木箱にしまい、誰の目にも付かぬように棚へと押し込んだ。
この日からだ。静蘭が蘇寧への態度を露骨に変えたのは。
琳がいなくなり、弱みが無くなった事と自暴自棄になった静蘭は蘇寧へ当たり続けた。
夜、蘇寧が宮へ訪れれば茶器を投げ付けたり、押さえつけられても思う存分抵抗して暴れ倒した。
しかし蘇寧は傷が増えたものの、静蘭を諦める気は無いようで、次第に政をそっちのけで静蘭の気を引こうと贈り物を選びに町へ出かけたり、昼夜問わずただひたすらに静蘭の宮へ通い続けた。
そのせいか民からも、王朝が変わり、新しい国主は若いが優秀で自分勝手な暴君では無い、よくやっている。と評判だったが、ここ最近の変わり様に不満を持ち始め、蘇寧を批判する者も多くなった。
そして、その国主を誑かしているのは妃である静蘭のせいという噂も。
*
「……様!鬼王妃様!」
「ごめんね、少し昔の事を思い出してね」
琳の遺品である扇子は、ここに嫁いで来る際にも持ち出しており、手元にある。
どうしようも無くなった時に使えと言われていたが、もうその状況すらどうかしようという気力すら無く、月雨国にいた時は手を付けようとしなかった。
結局、この扇子は何なのだろうか?見た感じ琳の年齢よりも古く見えるし、百年前の物だと言われても信じられるくらい古びて見えるのに、手に持てば頑丈で壊れたりはしなさそう。
それに、不思議と何故か目に移すと惹き付けられるような感覚に陥るのだ。
「ほら、あんたが余計な事言うから鬼王妃様が嫌な事思い出しちゃったでしょ!」
「鬼王妃様、ごめんなさい……」
涙目で謝ってくる
「大丈夫、別に今思い出しても何とも思わないし、気になるなら聞いてくれて構わないから」
すると珠環は少し考えたが、首を横に振った。
「黎月さんから聞きます!」
「あんたって本当に正直ね……」
「黎月、お前も大概だぞ」
ただ、今はこの幸せな日々が永遠に続く事を願った。
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