ラストナンバー

 歌い切った直後に体育館の照明が落ちた。


「タカ兄!」


 ざわつく体育館内にあたしの声が響くと、打ち合わせ通りに照明係がスポットライトをあたしとタカ兄に当ててくれた。

 タカ兄と腕を組む彼女とともに。

 言い出そうとした言葉が喉につかえる。

 怯むな!

 言え!

 ここまで来て言葉にしなくてどうする!?

 そう思いながら息の止まる自分に泣きそうなる。

 だけどタカ兄は見ていた。

 足まで震え出した情けないあたしをじっと見ていた。

 あたしの言葉を誠実なまっすぐな顔で待っていた。

 あたしの話を真剣に聞くときのタカ兄の顔で待っていた。

 だから――、


「ずっと好きだった!」


 やっと出せた言葉にタカ兄は驚く顔を見せず、ただ真剣な顔でうなずいた。

 涙が出てきた。

 わかってくれた。

 伝わった。

 答えをくれた。

 それで胸がいっぱいになったから、あたしもタカ兄にむかってうなずいた。


「だから、彼女ができておめでとう!」


 泣きながら叫んだ決別の祝福に、タカ兄は一瞬だけ目を丸くして、それからいつもの優しくてさわやかでイケメンな笑顔を見せて、


「ありがとう!」


 と、体育館に響き渡る大きな声で答えてくれたから、


「オーケー!」


 あたしも精いっぱいの明るい声を出せたのだ。


「ラストナンバー!」


 あたしの声に照明が戻る。バックをふり返ると子供の成長を見守る親のようなムカつく顔をしたメガネの足立と、SNSの炎上アカウントでも眺めているような下世話なにやけ顔をしたワカメの磯辺が、あたしの合図を待っていた。

 最後の曲。磯辺には「玉砕したあとにやる曲か? 人間であること疑うメンタル」とか言われたけど、今のあたしにはこの曲しかない。


「みんな! この二人の未来にこの曲を!」


 そうタカ兄と清宮さんの二人に手をむけて、あたしはギターでイントロを弾きながら曲名をコールする。


「GreeeeNで『キセキ』!」


 あたしは自分の恋の軌跡の先に、タカ兄たちのこれからの軌跡が何十年も続けばいいと想いながら、この歌を最後まで歌い切った。

 歌い終わると、めちゃくちゃ涙が出た。

 しょうがない。

 女の子だし。

 失恋だし。

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