第6話

 これが花火か


 わぁきれい…まるで夢の中にいるみたい。すごく大きな音にびっくりしました。夜空を刺すように咲く花火がとても綺麗で、息をするのを忘れてしまうくらいです。色とりどりの光はいったいどうやって演出しているのかな。夜空の暗闇を一瞬で切り裂く光の花束は爆発的に輝く。


 今日、この場所に蒼空そらと来れてよかった。

 私の意識が戻ってからずっと寄り添ってくれて…私は嬉しかった。

 願うのならば、こんな生活がずっと続きますように。


 そんな願い事を花火にしてしまうほど、壮大であった。


——


 花火だ

 

 下から見た時と違って、空一面に広がる光の大輪だいりんは正面に座っている僕のために打ち上げられたものであると錯覚してしまう。色とりどりな光の束の輝きは瞬時に広がった。隣にいる陽菜や修たちの網膜から反射するほどの光の強さの花火は音も壮大で、振動が身体に伝わってくる。


 今日この場所に陽菜と来れてよかった。

 彼女の大きな片翼は僕の心を優しく包んでくれる。…僕は嬉しかった。

 願うのならばこんな生活がずっと続きますように。


——


 炸裂する爆音に思いを馳せてそんなことを夢想する。


 僕たちの心は今この瞬間に共有された。触れ合う肩からお互いの感じていることがわかる気がした。


 俺たちの心を完全に奪い去った夏の夜の大きな花は金色のススキの様な模様の演出を皮切りにもうすっかり消えてしまった。しばらくは何も残っていない空を見つめていた。


 花火の余韻に浸っていたのだが、帰りの支度をしようとしたのか修が立ち上がるとガコッという鈍い音が聞こえたあと、僕たちが座っていた足場が斜めに向いた。


「えっ…」


 ハッとして状況を俯瞰ふかんする。修が立ち上がったことにより均衡が崩れて、高台にダメージがいってしまったようだ。展望台のテラスが傾いているのは内部のことが原因だろう。


 咄嗟に柵を掴んだ僕は宙ぶらりんになってることに気づく。諒輔は折れた支柱にしがみついていて、修は傾いた土台の上側に立っている。


 そう、僕と陽菜が傾いた土台の下側。つまり宙ぶらりんになっているのだ。2人とも柵を掴んでいる。隣を見ると辛そうな顔をしている陽菜が見える。陽菜の手が柵から離れた瞬間に僕は陽菜を自分の元へ手繰り寄せようとした。


「陽菜!!」










────失敗した。


 彼女を手繰り寄せた瞬間に柵の限界が来ていたことに気づかなかった。ミシミシと音を立てた柵は土台から離れてそれに捕まっていた僕たちは落下していく。



────まずい。死ぬ。



 遠のく土台から視線を下に移すとあまりの高さに絶句したことを思いだした。下に落ちるまではまだ時間があるようだ。視界いっぱいに思い出の映像が映し出される。ああこれが走馬灯ってやつか…


 鮮やかな色を奏でる様々な思い出のピースがやがて無くなり視界は真っ白になる。

















「えっ??」


 自分でも素っ頓狂な声が出たと思う。死を覚悟したのに何故か僕の体は空中でとどまっている。

 陽菜に視線を移すと手繰り寄せたその背中には片翼ではなくもうひとつ、両翼がついてあった。


「陽菜…」


「うん、、蒼空、もう大丈夫だよ。私がみんなを救うから」


 そう告げた陽菜は縦横無尽に空を飛び回り高台に取り残された諒輔と修を回収して地上へと戻ってきた。あまりの華麗さに言葉を失う。それに陽菜の背中の翼はもう片翼では無い。


(少し遡り、高台の支柱が折れた時の陽菜視点)


——もう腕が限界だ。


 私、ここで死んじゃうのかな?

 あっ手が離れ…

 間一髪のところで蒼空が掴んでくれた。あぁでも、もう柵の方が限界か、、、

 私を助ける為ならば自分の命すら厭わない…

 なんて優しい人なんだろう。


 私は蒼空のことが大好きです。細かい気遣いや優しい話し方、一人称が僕なのも可愛くて好きです。今日こうして花火を見せてくれたのも私のためだったりするのかな?好きです。誰にでも感謝を忘れずに、礼儀の正しいところが好きです。一緒に歩く時に歩幅を合わせてくれるところが好きです。


(この気持ちを伝えたい)


 あぁ神様どうか私にもう一度翼をください。この優しい人を救うための片翼を。この大空を飛び回ることの出来るもうひとつの翼をください。もう二度と飛べなくても構いません。ただ蒼空を助けたいんです。


 願いが届いたのかはわからない、陽菜に一瞬のうちに背中に変化が現れた。元々の片翼が、まるで光の筋が集まるようにして、もう一つの翼が生えてきたのだ。その翼は最初は淡い光を放っていたが、次第に明るさが増し、輝きを増していった。


 急に背中に熱がこもる。蒼空にもっと近づきたい。そう思って勇気を出して手を伸ばすと、彼に触れられた。自分でも信じられないことだが私の背中からはもうひとつの翼が生えていたのだ。


 陽菜の背中から新たに生えてきた翼は、銀色に輝く羽が重なり合っていて、光の筋が織りなす優雅な曲線を描いている。まるで夜空に舞う花火のように、光り輝くその翼は、一瞬のうちに周囲の暗闇を照らし出し、その美しさは圧倒的であった。


 陽菜はその新たな翼を広げると、まるで風を切るように軽やかに空中を舞い始めた。その動きは自在で、まるで空を泳ぐ魚のように、スムーズで流れるようなものであった。翼の広がりとともに、彼女が舞うたびに空気が揺らぎ、周囲の景色が一層鮮やかに映し出された。


 その瞬間、陽菜の背中に生えた翼は、単なる羽根ではなく、彼女の決意と希望が凝縮された、まさに奇跡の象徴であった。彼女の力強い羽ばたきは、私たちを支え、無事に地上へと導いてくれるだろうという確信を与えてくれた。


 「私には翼がある。"翼"があるなら蒼空を、、みんなを救える!!勇気を出して羽ばたいてやる!!」


陽菜の願いと勇気が新たな翼をもたらし、僕たちの命を救ったのだ。






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