第10話 精霊姫と王子の晩餐会

 晩餐会の参加者は国内の有力者が多いようだった。国外からの参加者はファーファラと、北の自由都市同盟の代表くらいのものだろうか。隣の大国、フォルモロンゴの使節などはいなかった。ユースカディの即位など認めない、というスタンスであるらしい。

 ファーファラの席はユースカディの右隣だった。それに加えて、周囲の出席者の、口にこそ出さないものの、「あれが噂の精霊姫か……」という視線もある。居心地が悪い。つい恨みがましい目で隣のユースカディを見上げて、ふとファーファラは違和感を覚える。この間戦場で会った時とは、何かが違う。うーん、と暫くファーファラは考え、はっと思い当る。


「あっ、髪型、変えました⁉」


 束ねたウェーブの黒髪がすっかり短くなっていることに気付いたのが嬉しくなって、ついそんな風に声を上げてしまった。ファーファラは自分の意思を主張することは苦手なくせに、こういう余計なことは思いつくとつい口にしてしまうのだった。厄介なコミュニケーション能力である。


「お前に燃やされたからな」


「あっ……」


 自分が原因だということに気づき、ファーファラは視線を泳がせる。気まずい沈黙の中、ファーファラは目の端に皿を持った給仕がやってくるのを見つけて、パッと顔を輝かせる。まもなくファーファラの前に皿が置かれた。色とりどりの野菜を四角くゼリー寄せにしたものだった。美しい見た目に、ファーファラの口から思わずため息が漏れた。

 ユースカディが乾杯の挨拶をして、食事が始まった。列席者たちが次々に、ユースカディに祝いの言葉を言った。彼らが元からユースカディについていたのか、それとも渋々下ったのか、それはファーファラには分からない。とはいえ、ユースカディも和やかに、彼らの祝辞に感謝の意を示していた。その間、話に入れないファーファラは一人黙々と食事を続けた。



「食事は美味しかったかな、精霊姫?」


 食事を終えて、皆が自由に歓談する中でどうしたものかと視線を彷徨わせていたファーファラに、ユースカディが声を掛けてきた。いたずらっぽい笑みを浮かべている。ひたすら食べていたのを見られていたか、と動揺しつつも、


「ええ、とても」


 と、ニコリと笑って返した。この男にこれ以上、弱みを見せるわけにはいかなかった。


「招待を受けてくれて嬉しいよ、精霊姫。お前とは、もう一度会いたいと思っていた」


「折角のご招待ですから。オーラタムとしては今後ともロンギフロラムと友好関係を結んでおきたいですし」


 あくまで両国の友好関係のためだ、というところを強調してファーファラは答えた。


「両国の友好をより強いものにするために、俺と結婚してほしい」


「はぁ⁉ 結婚⁉」


 思いもしなかった突然の言葉に、ファーファラはつい叫んでしまった。

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