第7話 精霊姫と敗戦の報
無事に王都に戻ったファーファラたちは、まず帰国の報告のため国王の元に向かった。
「精霊姫! なぜ戻ってきた!」
だが国王は、ファーファラを見るや怒り狂った様子で怒鳴りつけてきた。ファーファラは訳が分からず狼狽える。だが問いに答えねばならないと思いなおし、おずおずと口を開く。
「ティレノ殿下に帰るように言われました。フォルモロンゴや王都の動きが気になるからと」
「馬鹿なことを! ロンギフロラムの王位争いが我らに及ぼす影響はお前も分かっていよう⁉ それならば何故、残らなかった!」
そう問われても、ファーファラは何も言えなかった。残るとは言った。抗議もした。だが受け入れられなかったのだ。しかし、それを正直に国王に伝えることは出来なかった。そんなことをしたところで、また黙れと言われるだけなのは目に見えていた。
「陛下、一体何があったのですか……? まさか、殿下が……?」
国王のあまりの様子に、これは何かあったのだとファーファラも気づいた。このままではらちが明かないと、ファーファラは勇気を出して尋ねる。
「生きてはいる。ユースカディの即位を認め新生ロンギフロラム王国と国交を結ぶなら丁重にお返しする、だそうだ!」
国王は忌々し気にドンと足を踏み鳴らした。
「ユースカディの即位……? それでは、エヴァートン王子は……」
「討ち取られたよ!」
ファーファラははっと息をのんだ。あの時自分がユースカディを倒していれば、こんなことにはならなかった。そんな後悔の念がファーファラを襲う。だが、できなかったのだ。今更悔やんでも仕方の無いことだった。
「精霊に見限られた若造の王位など認めたくはないが仕方あるまい。ここはひとまず、和平を結ぶより他にない! 全く、何ということをしてくれた!」
国王はまたファーファラをギロリと睨みつけた。ファーファラだけが悪いのではないはずなのに、彼女だけが責められた。だが彼女も理不尽だと思いつつも、何も言い返すことは出来なかった。
「……精霊姫、お前は暫くその魔力で薬作りをしろ。じきに負傷兵も収容されてこよう。作った薬は全てそちらに回せ。いいな?」
「……はい、陛下」
ファーファラは大人しく頷くと、国王の下を辞した。とぼとぼと階段を上り、塔の上の自室を目指した。
それからファーファラは、ずっと塔に閉じ込められたままだった。塔の上の自室と、地下の実験室を往復するだけの毎日だった。楽しかったはずの薬作りは、今やただの作業に変わっていた。それでも彼女は傷ついた兵士のために薬を作り続けた。とにかく何か役に立つことをしよう、それだけだった。
ティレノがようやく帰国した、という報はジョエラから届けられた。だが、ファーファラが彼に会うことは無かった。ティレノ自身はファーファラに会おうとはしなかったし、国王や王妃が家族の行事に彼女を呼ぶこともなかった。国王一家からも、彼女は完全に隔離されていた。まあ、それは今回のことがあったからというわけではなく、いつものことだったが。
だが、そんな日々を破る来訪者が突然現れたのだった。
いつものように薬を作り終え、自室に戻ってきたファーファラのところに、召使が慌ただしく駆け込んできた。
「精霊姫様。今すぐロンギフロラムからの使者に会うようにと陛下が仰せです」
「わたしに? では、すぐに参ります。でも、陛下がわたしに外の方を会わせようとなさるなんて珍しいですね」
「使者殿が、どうしてもファーファラ様にお会いになりたいと。お会いになるまで帰らないと頑張るので」
召使は少し困り顔で告げた。ファーファラは首を傾げる。
「そうですか。何でしょうね? とにかく、行ってみましょう」
ファーファラはジョエラを伴って、国王のいる謁見の間に急いだ。
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