第2話 精霊姫への意外な来訪者

「呼び鈴? 一体誰だ? ファーファラ様、しばしお待ちください」


 ジョエラは席を立ち、扉の方へと向かう。食事の差し入れの時間でもない。この塔にそれ以外で誰かが訪ねて来る事など稀だった。


「一体何のよ……陛下⁉ どうしてこちらに⁉」


 扉を開けて、そこに立っていた人物に、ジョエラは驚きを隠せなかった。


「精霊姫に用がある。通せ」


 国王はそんなジョエラには構わず、有無を言わさぬ様子で部屋に入ろうとする。


「はっ!」


 ジョエラは慌てて身を引いた。


「陛下……」


 自分の義父である国王の、苛立った様子にファーファラは身構える。


「精霊姫。お前にはロンギフロラムの反乱軍との戦に赴いて貰いたい」


「戦況が思わしくないのですか……?」


 ファーファラはおずおずと尋ねる。国王は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「反乱軍どもめ、次から次へと湧きおって! 今やロンギフロラムの平民全てが反乱軍なのではと思うほどだ! いや、数もだが厄介なのはそれを束ねる元王子、ユースカディだ。王家から追放されたのを逆恨みして、それを滅ぼしロンギフロラムを奪いとろうとするとは。ロンギフロラム王家の恩情が仇になったな。精霊の祝福を受けられなかった出来損ないなど殺しておくべきだったのだ!」


 国王は忌々し気に吐き捨てた。ファーファラの問いには答えなかったものの、答えはもう明らかだった。ジョエラの希望はやはり希望に過ぎなかった。ファーファラの懸念した通りだった。

 だが、魔法を持たない平民たちの反乱軍が、一体どうしてこんなにも戦えているのか、それがファーファラには分からなかった。


「お前の魔法で反乱軍を蹴散らせ。お前の炎の前では、奴らの火器など所詮はまがい物だと教えてやれ」


「……わかりました」


 ファーファラは頷くよりほかになかった。


「出発は明日だ。装備などの支度は既に整っている」


 国王はそれだけ言うと、さっさと退出した。


「また、戦……。相次ぐ戦に不作で麦が値上がりして、民は喘いでいるっていうのに……そっちをなんとかする方が、重要なはずなのに……」


 ファーファラは義父の去った後を見つめて呟いた。


「でも……だからこそわたしが早く戦を終わらせなくちゃ。ユースカディとかいう反乱の首謀者を倒せば、それで戦は終わる。安定したロンギフロラムとの同盟によって、フォルモロンゴの台頭も防げる。それでオーラタムも少しずつ、良くなっていくはず……」


「そうです、ファーファラ様。またファーファラ様に負担を押し付けてしまうのは心苦しくはあるのですが……」


「仕方ありませんよ、ジョエラさん。わたしの力はオーラタムを守るためにあるんですから。お役に立てるなら、嬉しいことです」


 そう言いながらも、やはりファーファラの心は晴れなかった。出来ることなら、戦などしたくはなかった。

 だが逃げ出す事も出来ない。彼女に出来ることは、明日の出発に備えて眠ることだけだった。

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