乙女心 side真由奈
私はある朝、幼馴染の男の子、篠宮 叶人との待ち合わせを無視して登校した。
だって仕方ないんじゃん。いつまでも私の気持ちに気づかない叶人が悪いんだ。
そう、私は幼馴染の男の子に恋をしていた。それがいつからだったのかもう覚えていない。私と叶人は物心着く前から一緒にいた。当時は中のいい友達程度の認識でしか無かった。でもそれが徐々に変わり始めたのは小学生高学年頃のことだったと思う。
私から告白しようと考えたこともあった。でも結局はしなかった。女の子は告白するよりされたいの。好きな相手からの愛の告白なんて一生にあるかないか分からない。私はその一回を大事にしたかった。
なのに叶人はいつまでも経っても私に告白してこない。
私と叶人は両思いだと思う。だって私といる時だけいつもの暗い雰囲気がなくなる。楽しそうに笑ってくれる。私は叶人のそんな笑顔が好きだった。これからもずっと隣で笑っていて欲しい。だからこそそんな相手からの告白が欲しいのだ。
学校で友達と話していると叶人からメッセージが来た。私はそれを無視した。心苦しいが私は何としても叶人と付き合いたいの。だからこれで焦ってくれたらいいんだけど…
しばらくすると叶人が教室に入ってきた。そして私に近づいてくる。焦ったのかな?それなら作戦成功なんだけど。
「ねぇ、真由奈…今朝の話なんだけど」
だけど叶人はいつも通りの顔だった。私はそれに対して苛立ってしまった。
「後にしてくれる?」
瞬間的にそう言ってしまう。しまった。…でもちょっとくらい焦ってくれてもいいじゃん。
「ねぇ真由奈大丈夫?アイツに何か弱みとか握られてるの?」
「そうだよ!そんなことになったら私たちが絶対に許さないから!」
友達が揃いも揃ってそんなことを言ってくる。私はそれに少し苛立ちながらも言葉を返す。
「大丈夫だよ。そんなことないから」
何故か叶人はクラスメイトから嫌われている。友達に理由を聞いてもクラスの女子と何かあったとしか教えて貰えなかった。
そんな確証もない話を信じて叶人を毛嫌いしているクラスメイトたちに少し呆れた。だから私はいつも通り叶人と接している。自分がその現場を実際に見たわけでもないのにみんなが言っているからといって噂を信じるなんて馬鹿らしい。
そう思いながらスマホを取り出す。
『放課後、公園に来て』
叶人に短くそう送った。どこの公園か指定はしていないが私たちにとっての公園と言えば小さい頃よく遊んでいたあの公園しかない。きっと叶人も分かってくれるはずだ。
…そこであることを伝えて焦ってもらおう。私の心の準備は既に整ってるんだから。
放課後、私は思い出の公園に向かっていた。もう私達も高校二年生だ。来年にはそれぞれの進路がある。それまでの間、私は叶人と一生の思い出を作りたい。そのためには心を鬼にしなければならない。
公園に着くと既に叶人は来ていた。私は上がってしまいそうな口角を筋肉で無理やり押さえつける。ここでいつもと変わらない態度で接してしまえば何も進展することは無い。
「真由奈?」
「…叶人」
叶人は私の態度がおかしい事に気づいたようだ。でも私は何も言わない。
私は叶人の近くで止まった。
「…」
「…」
私たちの間に会話は無い。こんな空気に耐えられなくなりそうだけど、今は我慢。
「そ、そうだ真由奈。どうして今日は待ち合わせ場所に来てくれなかったの?」
叶人がそう聞いてくる。
「…」
私は何も答えない。
「真由奈?」
「ねぇ、叶人。私、先輩から告白されたの」
そう。私は最近、一つ年上の先輩から告白された。当然付き合うつもりはない。でも叶人に行動を起こして欲しかった。焚きつけるようで申し訳ないと思うけど、仕方ないと割り切ろう。
「そ、そうなんだ?」
でも叶人は全く焦った様子もなくそう言ってきた。
「…何も言ってくれないんだ」
私は小さくそう呟いた。
「え、な、なに?」
悲しかった。きっと何か私の気を引くような行動をしてくれると思っていた。でも叶人はいつも通りだった。
「私、先輩の告白受けようと思うの」
本当はこんなこと言うつもりじゃなかった。でも私はムキになってそんなことを言ってしまった。
「そ、そうなの?」
それでも叶人はなんとも思っていないようだった。それに血が沸騰したような感覚になる。
「っ!叶人!あなたはほんとにそれでっ──ううん。なんでもない」
違う。これは違う。こんなのは私の気持ちの押しつけだ。もうこんなことやめよう。先輩はきっと私に真剣な気持ちで交際を申し込んでくれたはずだ。それを私利私欲のために利用するなんて、最低だ。
「そっか…全部僕の勘違いだったんだ」
突如、隣にいた叶人からそんな声が聞こえてきた。
「え?」
勘違い?一体何が…
「僕が真由奈と両思いだと勝手に思い込んでいたのは勘違いだったんだ」
そう言われた私は一気に血の気が引いた。
「え、え?ちょっとまってよ…叶人…それってどういう…」
嫌だ。理解したくない。理解してしまえば私はきっと後悔所では済まないから。
「真由奈、僕は君のことが小さい頃からずっと好きだったんだ。そして近々君にこの思いを伝えるつもりだった」
でも事実は残酷にも叶人の口からあっさりと告げられた。
「う、嘘だよね…叶人…ねぇ嘘だよね!?」
私は動揺が隠せない。嘘だと言って欲しい。真実だと信じさせないで欲しい。
「ずっと両思いだと思っていた。ずっと君と気持ちが繋がっていると思っていた。でもそれは僕の勝手な勘違いだった。初めから君は僕のことなんて好きじゃなかったのに」
違う!私はずっと、ずっと叶人のことが…
「うん、もうどうでもいいか」
え?ど、どうでもいい?
「ど、どうでもいいって…わ、私はなんのために今まで…」
じゃあ私がしてきたことはなんだったの?ただ叶人に冷たくしていただけ?わ、私はそんなことしたかったわけじゃ…
「報告は終わった?それじゃあ僕は帰るね」
叶人はそう言うと私に背を向けながら歩き出した。
「え、あ、ま、まってよ叶人!」
ここで叶人と別れてしまえば何か取り返しのつかないことになる気がする。もう取り返しがつかないのかもしれないが。
「まだ何か?」
そう言って振り返った叶人を見て私は息が詰まった。彼の目には光が宿っていなかった。真っ黒なその目は私を写していなかった。私の前で楽しそうに笑ってくれていた幼馴染は別人のようになっていた。
「ぁ…ううん…なんでもない…」
それを見た私は何も言えなくなってしまった。そう言った私の言葉を聞いてから叶人は再び歩き出した。
私はその背中をただ呆然と見つめることしか出来なかった。
どうして…どうしてこうなったの?
あとがき
幼馴染達は再び分かり合える日が来るのでしょうか?
どうなの?気になる!という方は是非、評価とブックマークをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます