頑張れ
「叶人、どうして先に行ったの?」
次の日、登校した僕は後からやってきた綾崎さんに声をかけられた。その顔はどこか悲しそうだった。
「え?なんで一緒に行くの?」
純粋に疑問だった。だって綾崎さんは先輩のことが好きなんだよね?だったら僕と一緒に登校なんてしてたらあらぬ誤解を生んじゃうもんね。
「な、なんでって、今まで一緒に行ってたじゃん」
確かに今まで一緒に登校していた。でもそれは僕が両思いだと勘違いしていたから、そして綾崎さんに彼氏が居なかったからだ。
「今までだったらそうだね。でも今は状況が違うでしょ?」
僕嫌だよ?先輩に見つかって修羅場とか。そうなったら僕の首を差し出すしかなくなっちゃう。
「だからそれは違うの!」
綾崎さんが突然大声を出したせいでクラスのみんながこちらを見てくる。
「お、落ち着いて綾崎さん」
「それになんなの!その綾崎さんって!」
「わ、分かった!今日一緒に帰ろう!それでその時話そう!ね?」
これ以上騒ぎ立てないで欲しい…ほら見てよみんなの僕を見る目。まるでゴミを見るような目だよ?やったね!みんなの蔑む目がレベルアップしたよ!僕着々と嫌われてるなぁ…まぁいいんだけど。
「ほ、ほんと?一緒に帰ってくれるの?」
「か、帰るから、だからそんなに大きな声で騒がないで。ね?」
ごめんなさい先輩。でもこの場は何とかなりそうだな…僕は騒ぎを起こしたくない平和主義者だからね。波風立てることなく過ごせたらそれでいいんだ。
信じられるか?これ、一限目始まる前なんだぜ?カロリー高すぎるって。
今日もいつも通り学校では誰とも話すことなく一日が終わった。いつも通りだね。さてと、帰ろう。
「か、叶人。じゃあ帰ろっか…?」
…そうだった。綾崎さんと帰らないといけないの忘れてた。今から逃げられないかな?
「…」
僕を見つめる圧に折れるしかなかった。
「はぁ…わかったよ。帰ろうか」
「う、うん!」
何がそんなに嬉しいんだか。…は?僕は今何を勘違いしそうになっていた?綾崎さんが僕と一緒に帰ることを嬉しいなんて思うはずがないだろ?なんでそんなこと考えてるんだ?
危ない危ない。危うく勘違いしてしまうところだった。綾崎さんはもう先輩のことが好きなんだ。それこそ僕にそのことを伝える程に。勘違いするな、僕。
僕は自分にそう言い聞かせながら綾崎さんを見た。
「?」
綾崎さんは不思議そうに僕のことを見つめていた。
ふぅ、落ち着け。もう僕は期待なんてしないんだ。これまででよくわかっただろ?大丈夫。僕は分かってる。
「ひ、久しぶりだね…一緒に帰るのなんて」
僕の隣を歩きながら綾崎さんがそう言ってくる。
「確かにそうだね」
登校は最近まで一緒にしていたが下校はそれぞれ別で帰っていた。一緒に帰るのなんていつぶりだろうか?もう思い出せない。
「…」
「…」
会話が続かない。まぁ僕と話したいことなんてあるはずないもんね。え?じゃあなんで一緒に帰ってるんだ?あ、そうだった。僕が一緒に帰ろうって言ったんだった。もう、おバカさん。
「…」
「…」
やっぱり会話がない。そろそろ空気が薄くなってきたかな?うん、薄いし重いね?
「…」
「…」
ちょ、ちょっとー?綾崎さん?まじで間が持たなくなってくるよ?
「あー、それで何が話したかったの?」
ついに僕から話しかけてしまった。だって仕方ないじゃん?こんなの耐えられないって!
「…うん。あのね。私、先輩と付き合ってないよ」
なんだ。まだうじうじしてたのか。
うーん。あ!なるほど。それで僕に背中を押して欲しいって事だな?そういうことなら素直に言ってくれればいいのに!
「大丈夫だ綾崎さん。君なら絶対に先輩と付き合える。そして上手くやれるだろう。だから迷わず先輩と付き合うといい」
背中は任せたぜ…ってやつ?僕がその背中を押してやる!
「な、なんでそうなるの?わ、私は…」
「君の気持ちも分かる。付き合うことに不安を覚えているんだろう?でも君たちなら上手くやれる。頑張れ」
もう一押しかな?
「大丈夫。僕が好きだった女の子は女の子はきっと上手くいく」
僕はどう応援していいのか分からなくてそう言ってみた。こんな僕にも一時的とはいえ優しくしてくれるほど綾崎さんは出来た人間なんだ。きっと誰と付き合っても上手くいくよね!
「か、叶人…」
綾崎さんは目に涙を浮かべていた。うんうん。僕の言葉は心に響いてみたいだ!いやぁ、いい仕事したなぁ。
「善は急げだ。今から先輩に返事をしてくるといい。それじゃあ邪魔者は帰るとするよ。いい結果になるといいね!」
そう言うと僕は家に向かって走り出した。
綾崎さんが僕と帰れて嬉しそう?何を考えていたんだ僕は。
僕はもう勘違いなんてしないんだ。
あとがき
おや?叶人の様子が…
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