僕は悪
「…おはよう、夕暮さん」
僕は目の前に立っ丸メガネをかけた少女に挨拶をする。
「ゆ、夕暮さんなんて…そんな寂しい呼び方しないでよ…」
「寂しい呼び方?」
何それ?は!もしかしたら今日から名前を呼ぶ度に感情を込めなければならないという法律ができたのか?!
「前みたいに梓あずさって読んでよ…」
い、いきなり女子を名前で呼ぶなんて僕にはハードルが高すぎる!まずはお友達から始めましょう?
「僕たちってそんな親しい関係だったっけ?」
僕がそう言うと夕暮さんは顔を歪ませた。急にお腹でも痛くなったのかな?
「や、やっぱりあの時のこと怒ってるよね…わ、私を助けようとしてくれたのにそれを仇で返しちゃって…」
「…なんの事だかさっぱりだよ」
僕と夕暮さんはある時から共通の話題で盛り上がりそこから仲良くなった。僕は夕暮さんをとても親しい友達だと思っていた。
そんなある日、夕暮さんが危ない所を助けたんだけど…
『ひっ!ち、近寄らないで!』
「…」
あれは傷ついたなー。まぁ普通に考えればあんなことされたら怖いか。
その瞬間をクラスの女子に見られて瞬く間に僕はクラスの嫌われ者になった。
「ご、ごめんなさい…叶人君は私のことを助けようとしてくれたのに…わ、私は…」
夕暮さんはメガネの奥の瞳に涙を溜めながら言葉を紡ぐ。
えぇ…そんなに僕と話すのが嫌ならどうして話しかけてきたんだろう?
「梓ちゃん!大丈夫?!また何かされそうになってたの?!」
僕と夕暮さんが話をしている所を見かけたのかクラスの女子がそういいながら夕暮さんの肩を強く抱きこちらを睨んでくる。
ひえー。そんなに睨まないでくださいよ…不快な気分にさせたのは謝りますけど僕にはまるで悪意はなかったんです。
「あんたまた梓ちゃんに怖い思いさせたら容赦しないからね!?」
その瞳は僕を悪だと信じて疑わない目だった。うんまぁいいんだけどさ。
「ごめんなさい。僕が悪かったです」
僕は夕暮さんに頭を下げる。僕の軽い頭で場が収まるならそれでいいよね!
「ち、違っ!」
「…チッ!もう行こ、梓ちゃん」
「か、叶人君…」
そう言ってクラスメイトの女子と夕暮さんは僕から離れていった。
ふぅ、やっと行ってくれたか。僕が悪いのは分かってるけど僕の言い分も聞いて欲しかったなぁ。まぁあの子の中では見たまんまが全てなんだろうけどさ。だから僕の意見なんて関係ない。あの子が悪だと断じればそれは悪だ。僕はそんな悪になっただけの話。
「あいつまた夕暮さんにちょっかい掛けてるのかよ」
「まじて最低だよな」
「キモっ、私怖いわ」
「だよね。マジで女の敵だよね」
今までならこのクラスからの悪意に心が折れそうになってたんだよなぁ。でも今は何も感じない。むしろこの日々が当たり前だったみたいだ。僕は愛されることはない。だからこれが普通。なんだ、今までのは普通のことだったんじゃないか。
良かった。僕はようやく普通になれたんだ。
「ふふっ」
僕は嬉しくて自然と笑ってしまった。
その日は嬉しくて一日気分が良かった。
授業が終わった。僕は机に掛けてあるカバンを持ち教室から出る。そして校門を抜け家に向かって歩き出す。すると後ろから足早な足音が聞こえてきた。ん?なんだか既視感があるような…既視感って視るって書いてるからこの場合は既聴感か?なんだその言葉。でも実際既聴感って言葉あるらしいよ。
「か、かなと…叶人…君…待って…」
息もたえたえなその声に振り返ってみると夕暮さんがいた。見た目通りの文系女子とあってか校舎と校門の距離を走ってきただけとは思えないほどの汗が額に浮かんでいた。
「夕暮さん?」
「か、かな…ゼェハァ…叶人…君…」
「うんちょっと落ち着こうか?」
君死にそうじゃん。
夕暮さんが息を整えてこちらに向き直る。
「…叶人君、一緒に帰らない?」
「えー、やだよ」
「えっ」
ガーンというような効果音が聞こえてきそうな表情になった夕暮さんは目に涙を浮かべた。
「そ、そうだよ、ね。私みたいな女が叶人君と帰れるわけ…ないもんね」
もっと自信持ちな?君かなりの美人さんよ?
それはそれとして夕暮さんが肩を震わせているのが下校中の生徒たちに見えているのか遠巻きにヒソヒソと何かを言われている。
僕は別に何を言われてもいいんだけど夕暮さんそうじゃなさそうだからなー。
「…ふぅ、いいよ。一緒に帰る」
「え?い、いいの?私みたいな女と…帰ってくれるの?」
「やっぱり帰らないでおこうかなー」
「えっ」
夕暮さんはまた先程と同じよにガーンという顔をした。表情豊かな人だなー。
「帰るの?帰らないの?」
「か、帰る!一緒に帰ります!」
あとがき
ちなみに作者は金フレームの大きな丸ぶちメガネをかけたポニーテール地味子ちゃんが大大大好きです。
マジかよ俺も!私も!という方は是非、評価とブックマークをお願いします!
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