下校
「…」
「…」
僕たちは無言で歩いていた。僕が少し前を歩いてすぐ後ろを夕暮さんが歩いている。
一緒に帰りたいと言ってきた夕暮さんは僕の後ろを俯きながら歩いてくるだけ。
えぇ…なにこれ。気まずいよ。夕暮さん?僕に何かあるから一緒に帰ろうって言ってきたんじゃないのかい?
「…」
「…」
もうすぐ分かれ道に着いちゃいますよ?
うーん。は!もしかして夕暮さんは嫌いな僕にこの気まずい地獄をプレゼントすことを目的としているんじゃないか?!だとすれば見事に成功している…
「くっ…やるな夕暮さん…」
僕は小さくそう唸った。
「??」
というかそろそろ本当に分かれ道に着いてしまう。結局これはなんだったのだろう?まぁなんでもいいか。
「あ、あの!」
僕がそう思っていると夕暮さんが急に話しかけてきた。なに?!この地獄をプレゼントすることが本当の目的では無いのか?!
「どうしたの?」
まずい…ここからが本領発揮だとでも言うのか…さっきの地獄で僕はかなりのダメージを負っている。これ以上責められたらノックアウトされてしまうぞ!
「本当にごめんなさい」
僕が振り返るとそこでは夕暮さんが深く深く頭を下げていた。なんで謝られてるんだ?身に覚えのない謝罪に困惑する。あ、つむじ綺麗…
「えっと、なんで謝ってるの?」
僕はそう問いかける。これで「あなたという存在をこの世界に許してしまってごめんなさい」とか言われたらさすがの僕でも1ミクロンくらい傷ついちゃう。
「あの時…叶人君は私の事を助けてくれた。それなのに私はそんな叶人君の事を拒絶してしまった。本当にごめんなさい」
あれは僕が悪いのにどうして僕に謝るのだろう?
「何か勘違いしてない?」
「え?」
「あれは僕が悪かったんだよ」
「そ、そんなけない!私を善意で助けてくれた叶人君が悪いわけないよ!」
善意。そう。僕は善意で彼女を助けた。そして僕は知ってしまった。善意が善意で返されることはないのだと。
「いや、僕が余計な事をしてしまったせいで君に怖い思いをさせてしまった。本当にごめんなさい」
僕は頭を深々と下げる。さっきと真反対の形になる。どう?僕のつむじ綺麗?
「ど、どうしてあなたはそんなに自分を卑下するの?あなたがしたことは何も悪いことなんかじゃない!」
本当にそうだろうか?悪いことじゃないんだったらなんで君はあの時あんなに怯えていたんだ?
…まぁどうでもいっか!
僕は深く沈みそうだった思考をぶち壊す。
「そんなに気を使わなくてもいいよ?」
僕の周りの人達はみんな優しいなぁ…こんな僕にまで気を使ってくれるんだから!
「ち、違っ…」
こんな僕には気を使う必要はない。僕に気を使うくらいなら道端のアリンコを観察している方が有意義だよね!
「アリンコでも観察してた方がいいんじゃないかな?」
「え?」
おっと、思っていたことが口に出てしまった。
「まぁ、僕に無理に話しかけてこなくてもいいよ?」
「む、無理になんて…」
「大丈夫!分かってるから!君は僕のことが怖いんだろう?安心して?もう勘違いして君に近づいたりしないから」
そう。あの頃の僕は勘違いしてしまっていた。夕暮 梓という少女と親しい友達だと勘違いしていたんだ。もうそんな恥ずかしい勘違いはしない。僕と親しい友達になんてなりたい訳ないもんね。
「勘違いなんかじゃない!私は叶人君と友達だと思ってる!そ、それに…その先だって…」
後半はごにょごにょしていて聞こえなかった。
「それは君の一方的な考えだよ。僕は君と友達だとは思っていない」
だって僕と友達だとか言われたら夕暮さんがまた嫌な思いしちゃうからね。夕暮さん自身も僕と友達だなんて思いたくないだろうからね!僕は気が使えるんだ!
「そ、そんな…やっぱり私のことなんて…」
多分言いたいことはそれだったのだろう。僕は気を使うわなくてもいいということを伝えられたから帰ろう。
「それじゃあ僕は帰るね」
「ぁ…」
僕は夕暮さんに背中を向けて歩き出した。
あとがき
叶人と夕暮さんの過去はもう少し後に書くつもりです。
どんな過去なの?気になる!という方は是非、評価とブックマークをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます