登校

この学校への登校。いつもなら憂鬱だった。なのに今日はまるで何も感じない。どうして憂鬱だったっけ?


うーん。あ!そうだった!僕はクラスのみんなから嫌われてるんだった!いやぁ、うっかりうっかり。


まぁ今となってはどうだっていいんだけどね!


僕を嫌っているクラスのみんなには悪いけど学校に登校しない訳にはいかない。なんたって僕は高校卒業後は自分一人で生きていかないといけないんだから。


そう思っているとかつての幼馴染であった女の子との待ち合わせ場所が近づいてきた。懐かしいなぁ…あの子は先輩と付き合った。それまでは僕と一緒に登校してくれてたっけ。今となってはいい思い出だ。幼馴染で仕方なく一緒に居てくれたとはいえあの子はとても美人だった。いい思い出ができたと考えよう。一日しか経ってないけど。


当然あの子は今幸せの絶頂期だろう。仕方なくとはいえ僕と関わってくれた子だ。是非とも幸せになってもらいたいね。


そんな最近の思い出を振り返りながら歩いていると、どうしてだろうか?見覚えのある女の子が俯きながら立っていた。


うーん。あぁなるほどね。先輩と一緒に登校するためにここで待ち合わせをしているのか。ということは邪魔はしちゃいけないな!


僕は一刻も早くこの場を離れようと思いそそくさと歩く。


下を向いた幼馴染だった少女の横を足早に通り過ぎる。


ふぅ。先輩と鉢合わせとかしなくてよかったぁ。もしそんなことになったらあらぬ誤解を生んでしまうだろうからね!


僕は再び学校を目指し始めた。そんな僕の背後から走るような足音が聞こえてきた。


誰か急いでるのかな?そう思っているとその足音は僕のすぐ後ろで止まった。え?なになに?もしかして僕のファンかな?登校中見かけて思わず声をかけてしまった的な?まぁそんなわけな…


トントン


肩を叩かれた。え?もしかしてほんとに…


「え?」


これは予想外も予想外。なんとさっきまで地面を見つめていた少女が息を切らしながら僕の肩を掴んでいたのだ。


「えっと、どうしたの?」


僕に声をかけることはこの子にとってもまだ見ぬ先輩にとってもあまり良くないことなんじゃないか?そんなことを思っていると


「か、叶人!どうして声掛けてくれなかったの?!」


この子は何を言ってるんだろう?


「何言ってるんだ?そんなことしたら先輩に悪いじゃないか」


ですよね!まだ見ぬ先輩!


「ち、違うの!私、先輩と付き合ってなんかないの!」


初々しいなぁ…きっとこの子は付き合っていると正直に言うのが恥ずかしいんだろうな。


「大丈夫!分かってるよ。みんなには言わないから」


僕は小声でそう囁いた。僕は言われたくないことをみんなに言いふらすような嫌な奴じゃないのさ。


「本当に違うの!た、確かに先輩に告白はされたけど…まだ返事を返してないの!」


「そうだったのか。それは早とちり。でも前向きに考えてるでしょ?なら先んじておめでとうと言っておこう。おめでとう」


これから生まれるであろうカップルに祝福を!


「話を聞いて!わ、私、別に先輩が好きな訳じゃないから!」


「そうなのか?でも昨日は先輩の告白を受けようと思ってるって言ってなかったか?」


「そ、それは…」


ん?あの子の足元に落ちているのはハンカチか?僕に触られるのは嫌だろうけどそのまま忘れてしまってもいけない。


「か、叶人?あ、ハンカチ…」


僕は彼女の足元に落ちているハンカチを手に取り声を掛ける。


「まゆ…」


待てよ?もう幼馴染は先輩との関係が進もうとしている…なら僕が名前で呼ぶことで二人の間に亀裂が入ってしまうことがあるんじゃないか?


そう思った僕は呼び方を変えた。


「綾崎さん、これ、落としてたよ」


「ありが……え?あ、綾崎さん?」


おや?もしかして名前を間違えてしまったのか?いや、そんなはずはない!僕はずっと綾崎さんといたんだ。そんな綾崎さんの名前を間違えるはずがない!


「な、なんで苗字なの?な、名前で呼んでよ…」


「いやいや、普通にダメでしょ。彼女が幼馴染の男に名前呼びされてたらいい気はしないでしょ」


そう思ってしまうのは僕だけなのだろうか…案外僕って独占欲強いのかもね!あ!でもそんなの向ける相手居ないんだった!あははは!


「そ、それは…そうかもしれないけど…」


「それじゃあ僕は学校に行くから、綾崎さんも遅れないようにね」


僕はそう言って学校に向かう。


「ま、待ってよ!」


どういう訳か綾崎さんは学校まで僕の後ろを着いてきた。終始無言だったけど。


そして教室に入る。すると綾崎さんの友達らしき人達が綾崎さんに寄ってくる。


「真由奈…大丈夫だった?何もされてない?」


「何かあったら私たちにすぐ言うんだよ」


そう言った彼女たちは俺を睨みつけて警戒している。


やっぱり僕って嫌われてるなー。ま、いいけどねー。


僕が綾崎さんから離れて自分の席に座った。


「か、叶人君…」


すると座った僕に声をかけてる人物がいた。


「…おはよう、夕暮ゆうぐれさん」


僕がクラスで嫌われる原因を作った女の子だった。



あとがき

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