予感 side志那

今日はある理由で仕事が早くに終わった。最近はずっと働き詰めだったためようやくひと段落着いたというところだ。


電車から降り家までの道を歩いいていると前にいつも見ている後ろ姿があった。私は少しだけ歩くスピードを早めてその後ろ姿に声を掛ける。


「花梨」


そう声をかけると彼女は驚いたような顔をしながら後ろを振り返った。


「お母さん?どうしたの?今日早いじゃん」


「実は最近会社側が改革だ!って言って急激に人員を増やしたのよ。それで私の抱えていた仕事が減ってこれからは早く帰れることになったの」


そう、理由とはこれだ。私が抱える仕事を他の人がやってくれるようになった。これまでは全て自分で抱えていた。当然しんどかった。これからはその負担が減るだろう。嬉しい反面、少し心配だ。新しい人員がどれほど使えるのか…それはまだ未知数だからだ。私は今では会社の重鎮と言えるような役職についた。当然のしかかる責任は重たい。


でも今は素直に早く帰れることを喜ぼう。これまでは家にいる時間が極端に少なかった。そのせいで花梨と叶人との時間が取れなかった。それも今日までだ。今日は久しぶりに晩御飯を作ろう。いつもは二人にお金を渡しているだけだった。良くないと分かりつつもそうすることしか出来なかった。ふふ、二人とも美味しいって言ってくれるかしら。


私は少しウキウキとした気分で花梨と並んで家に帰った。


家に着き玄関の扉を開ける。靴を脱いで家に上がるとそこで声をかけられる。


「おかえりなさい。志那さん、花梨さん」


私は叶人の出迎えに答え…


「えぇ、ただいま…え?叶人?どうして名前で…」


そこで違和感を覚えた。叶人がどうしたか私と花梨のことを名前で読んでいる。私のことは母さんと呼んでいたはずだ。それに花梨は姉さんと読んでいたはず…


「帰ってきて早々で悪いのですが、少しお話を聞いて貰えますか?」


そう言った叶人の目はどこを見ているのか分からなかった。いや、正確には私たちをちゃんと見ているのだが私たちを他人でも見ているかのような、そんな感覚を覚える。分かりやすく言えば興味のない人を見るような、そんな目だった。


「そ、それはいいのだけど…それにどうして敬語で…」


それに母親の私や姉である花梨に敬語で話している。一体どうして?理由は全く分からない。でもなんだか今から叶人が話すことは良くないことのような気がした。本当に直感だ。会社で上り詰めた勘とでも言うのだろうか。こんな勘、外れてくれればいいのだけど…


「ありがとうございます」


そう言った叶人は土下座をしだした。


「ちょ、ちょっと叶人?!一体どうしたの?!」


「な、何してんのよあんた!」


私と花梨は慌てる。当然だ。叶人にそんなことをされるような心当たりが全くない。


嫌な予感は更に深まっていく。もしかして私は取り返しのつかないことをしてしまったのでは無いだろうか?そんな考えが頭を支配する。


「お願いします。高校を卒業したらこの家から出ていきます。なのでどうか高校卒業まではこの家で生活させて頂けませんでしょうか?もちろん自分のことは自分でします。お願いします」


どうしてそんなことをいきなり言い出したのだろうか?その言い方ではまるで叶人がこの家から出ていくことが望まれているかのようじゃない。


「な、何言ってるの?!ここはあなたの家なのよ?何時までもいていいのよ?」


私はどうしても消えてくれない嫌な予感を振り払うようにそう言った。


「志那さんに疎まれていることは分かっています。花梨さんに憎まれていることも知っています。でもどうか高校の間だけは…お願いします」


疎んでいる?叶人を?誰が?


「な、何言ってるの!?私が叶人を疎んでいるなんてそんなこと!」


そんなことあるはずがない!叶人は私の可愛い可愛い息子だ。教育上厳しく叱りつけることはあっても決して疎むなんてことは絶対にない。


「そ、そうよ!私だって…その…」


私は花梨の方を見る。花梨はどこかバツの悪そうな顔をしていた。その表情にどんな気持ちが込められているのか気になったが今はそれどろこではなかった。


「気を使って頂かなくて結構です。僕は自分がどう思われているかはちゃんと分かっているので」


叶人は無表情で淡々ととそう言うを


「あ、あなたはこの家の家族なのよ!好きなだけいていいのよ!?」


なんで?なにが原因でこの子がこんなことになったの?この顔は…この目は…


「な、なんでいきなりそんなこと言い出すのよ!あ、あんたが悪いことなんてひとつもない!」


「お気遣いありがとうございます。それでは僕は自分の部屋に戻りますね」


全てを諦めてしまったような目じゃない。



あとがき

志那と叶人の間に何があったの?!気になる!という方は是非、評価とブックマークをお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る