大学を…編 1

「ただいま」

「あ、純怜おかえり。今日大学どうだった?」

陽向くんが尋ねてきた。


私は一瞬、どう答えようか迷った。


「んー。別に特別なことはなかったです」

私は微笑みながら答えた。


実際には、心の中でいろいろなことが渦巻いていたけど、みんなには心配をかけたくなかった。


今は大学二年生で、練習生を辞めた後のことも視野に入れて大学に通っていた。


「そっか」


「純怜って、学校の話とかあんまりしないよね」


雄大お兄ちゃんが話に入ってきた。


「雄大お兄ちゃんに話したら...俺が大学生だったのは、何年も前だ…。おじさんになったなって悲しくなって欲しくなくて、」


私は冗談めかして言った。


「何それ!俺がおじさんだっていいたいの!?まだ26なのに!」


「20代後半ですね」

私はからかうように言った。


「あと四年ある!」

雄大お兄ちゃんは顔を真っ赤にして反論した。


「四年なんてあっという間ですよ」

私は笑いながら答えた。


「もう!」


なんて言ってるけど、本当は心配かけたくなかったから。


大学でのことなんて誰にも知られたくない。


「さっさとスターライトから消えてくれない?」

「あんたがいると目障りなんだよね」


嫌味を言ってくる人たちの顔が浮かんだ。


いじめ...と言うか、嫌味を言ってくる人がいて、それも数人とかじゃなくて何十人から。


「何回も言うけど、それだけは出来ないの」

私だって反論するけど、最近は何も言わない。


だって反論するだけ無駄だから。


「私もこんなこと言いたくないの、かと言って問題になったら私が困るから、暴力で解決しようとも思わないし、」


なんて言うけど、この前だって…


わざと足を引っ掛けてきて怪我をした。


「った、」


「あら、ごめんなさいね〜足が長くて」

なんて言って嘲笑った。


「今わざと、」


「ひどぉい。私がわざとそんなことする子だと思ってるの!?」


悔しいけど、これ以上何も言わなかった。


「いて、」

ダンスの練習中、私は痛みを感じながらつぶやいた。


「純怜大丈夫か」

天馬兄が心配そうに駆け寄ってきた。


「はい、」

「足、怪我したのか」


「…はい、」


「どこで怪我した」

天馬兄が問い詰めるように聞いた。


「ごめんなさい、私の...不注意です」

「ダンサーなんだからもっと足を大切にしないと」


足を引っ掛けられていたのは事実だけど、注意して歩いたら防げていたかもしれないから、


天馬兄には小石に躓いてしまって、なんて苦しい言い訳をした。


こんなことが二ヶ月続いたある日のこと、


「あれ純怜まだいたの?今日大学行かないといけいんじゃ...」


「ほんとだ、」


私は時計を見ながら答えた。


行きたくないな...。


なんて思っていたらそれに気づいてくれたのか、


「行きたくない日ぐらいあるだろうし、今日は休んだら?」


雄大お兄ちゃんが提案してくれた。


「え、でも」

私はためらった。


ズル休みなんて、


「単位取れそう?」

「それは、大丈夫です」


「じゃあ休んじゃいな」

雄大お兄ちゃんが笑顔で言った。


「分かりました」

その笑顔に私は安心して答えた。


「それに、今日は純怜に聞きたいこともあるしね」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る