初めてのサイン会編 3

「あ、起きた…?」


天馬兄が優しく声をかけてきた。


「天馬兄…。大丈夫、です、」


私はぼんやりとした頭で答えた。


過呼吸になって…私、また倒れたのか。


そういえば、前に過呼吸になった時も天馬兄がそばにいてくれたなぁ。


「…辛かったな」

天馬兄が心配そうに言った。


「その、サイン会は…」

「中止になった」


中止に…。

私が過呼吸なんかになったからだ。


ファンのみんな、この日を楽しみにしていたのに、私のせいで、


「そんな…」

私は涙をこらえながら言った。


「んな顔すんな」

天馬兄が優しく言った。


「え?」


私、今どんな顔してた…?


「純怜のせいじゃないから。自分を責めるな」

天馬兄が強く言った。


「だけど、私のせいで…」

私は涙声で言った。


「純怜のせいじゃない。あんな事されたら、さすがに俺でも怖い」


「あ、あの人はどうなったんですか?」

私は恐る恐る尋ねた。


「さあな。強制退場させられた事しか知らないけど、適切な対処をしてるんじゃないか?」


「そっか…」


あの人のしたことは許されることじゃない。

けど、それだけスターライトを応援していたファンだった。


「みんな心配してるからそろそろ行くか」

「はい、」


みんなにも心配かけちゃったから、謝らないと。


「立てるか?」

「多分…」


「支えてやるから立ってみて」

と天馬兄が手を差し伸べた。


「うん…」

私はその手を握り、立ち上がろうとした。


けど、足に力が入らなかった。


「あ、ダメだ…。足に力が入らないです」

立てそうにない。


「ごめん天馬兄、まだ無理そ…きゃっ、」


「軽っ」

天馬兄が私をお姫様抱っこしながら言った。


体重管理はしっかりしてるから、折れるほどじゃないと思うけど、


「お、重たいから下ろしてよ」

私は恥ずかしそうに言った。


お姫様抱っこなんて初めてしてもらった。


女子なら一度は夢見るお姫様抱っこだけど、意外とドキドキするよりも体重の方が気になっちゃう。


「俺はそんなにか弱くないぞ」

「それはそうだけど、」


それに、この体勢は…なんだか恥ずかしい。


「もしかして…照れてんの?」

天馬兄がからかった。


「な、そんなんじゃないけど…」

私は顔を赤くしながら答えた。


図星だけど、からかわれたことが悔しくて強がってしまった。


「そんじゃあ大丈夫だな。行くぞ」


天馬兄に抱えられながら、私は周りの景色をぼんやりと見つめた。



廊下を歩く音が響き、少しずつみんなの声が近づいてくるのがわかった。



心臓がドキドキして、恥ずかしさと安心感が入り混じった気持ちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る