16?

 お父さんは、病気になってしまった。


 たくさんお酒を飲んで、叩いたり、私をあけすけに罵ったり。まるで夕立のように過激で、私も涙に濡れた。


 でも、お父さんは、お薬の力に魅せられて、立ちあがれない日もあった。そんなときお父さんはきまって、すまないだの、俺はダメな親父だだの、こうなるなだの、娘の私の前で泣きながら謝った。まるで魔法にかかったみたいだった。


 お母さんも「ダメ亭主」とお父さんを罵る。実際そうだ。……。でもお母さんは、結局私を救ってくれなかった。いなくなったもの。


 薬ギレの日を境に、お父さんは私に、何も考えさせてくれなくなった。毎日、キツいお酒をちょっと飲み、獣のように暴力を振るう。起伏がないこと、それは苦しみを訴えているかつての父より、ずっとずっと良かった。



 しとしとと降り続ける、やまない雨の中で。

 ようやく、私は放り棄てることができた。



 意思が消え、感情だけが残る。

 私、私は誰。誰か分からない。

 何をしたいのか分からない。

 覚えていることもできない。


 私が恐怖したのは。

 犬に吠えられたとき、ホラー映画を見たとき。いいえ。


 お父さんがある日、私以外の人を殴ってしまったから。


 ただ殴られていれば良かったのに、お巡りさんが家に来るようになったから。


 またお父さんは私を叩こうとして。そして、またお巡りさんが叫ぶ。


 「娘から、父親を、取り上げよう。」


 その時から、私の家にはアレがいる。

 黒くて大きい、あの影が。


 ハクビシンってお父さんは呼んで、よくかわいがった。

 お父さんは、この力で、お金を奪うか、盗もうとしている。


 考えるとすれば、どうすれば捕まらないか。

 もうずっと昔に、お父さんは、怖くなくなった。



 私を育てるために、なんだって。

 私は、頭が弱くなっちゃったから。

 何が変わるのか、いつ、なぜ、どうなっていくのか、分からない。



 でももしも。もしも私、何かになることが許されるなら。


 私は、あの幼い頃に、……、離れ離れになる前に見た、アニメみたいな魔法少女になりたいと願うの。

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