8月29日(木)


 タクシーが来た。


 おばあちゃんがよんでくれた。


 これで空港まで行って、東京までひとっ飛び。


 恵美おばさん、ぼくとの話をおじいちゃんとおばあちゃんに話してくれていたみたい。


 おばあちゃんが言ってた。


「何も気にすることはないよ。笑いたい時に笑いなさい。うれしい時は喜びなさい。東京でつらい事があったら、いつでも遊びにおいで」


 おじいちゃんが言ってた。


「いいか、レン。お前が悲しい顔をしていると、お父さんとお母さんも天国で悲しんでしまう。お前が笑顔だと、お父さんとお母さんも天国でうれしくなるんだ。いいな、覚えておけ。今度はじいちゃんたちが東京へ遊びに行くからな」


 おばあちゃんも、おじいちゃんも、ぼくを強くだきしめてくれた。


 ぼく、いなかに来て良かったよ。


 今日の空みたいに、ぼくの心のくもりはすっかり晴れたのだから。


「レン」


 タクシーに乗ろうとした時、ぼくをよぶ声。


 カッパさん。


「東京へ帰っちゃうんだね。気をつけてね」


「カッパさん、なかよくしてくれてありがとう。これあげる」


 ぼくはバックパックにつけていたハスの花のキーホルダーを差し出した。


「うれしい! ありがとう! じゃあ、私も」


 カッパさん、顔を真っ赤にしてぼくにかわいいカッパのキーホルダーをくれた。


「ありがとう! カッパさんだと思って大切にするね」


 笑顔でうなずいてくれた。


「じゃあね、レン」


 最後に、ぼくの鼻を指でちょんとふれた。


 だから、ぼくもお返しにカッパさんの鼻を指でちょんとふれた。


 ふたりで笑いあった。


 うん、笑顔でお別れがいい。


 二学期になったら、伝説のカッパはかわいい女の子だったって、プレゼントをもらったって、クラスのみんなにじまんするんだ。


 タクシーに乗ると、ドアが閉まった。


 心の歯車が逆回転を始める。


 タクシーの窓の向こうでカッパさんが泣いている。


 ダメだよ、笑顔で。


 笑顔で。


 カッパさんのすがたがにじんだ。


 ゆっくりと動き出したタクシー。


 窓を開けて、ぼくはさけんだ。


「ありがとう! さようなら、カッパの女神様!」


「レン、元気でね! 私のこと、わすれないでね!」


 カッパさんが小さくなっていく。


 そして、見えなくなった。


 恵美おばさんは、ぼくをむねにだきしめてくれた。


 ぼくは、泣いた。


 ただ、泣いた。


 恵美おばさんは何も言わないで、泣いているぼくの頭をずっとなでてくれていた。






 ぼくの夏休みは、終わった。



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