8月28日(水)
もうすぐ夏休みが終わる。
いなかにいられるのも、残りわずか。
だから、今年の夏の最後の思い出にカッパさんをさそって、近くの公園で花火をすることに。
交番(いなかだから「ちゅうざいしょ」っていうらしい。ここにおまわりさんが住んでるんだって)の目と鼻の先にある公園なので、ここなら安心だろうということになった。
朝と昼は、橋の上からのダイビングを楽しんだ。
カッパさんはあいかわらずTシャツにショートパンツ。
カッパの女神様はワイルドです。
もうダイビングはぜんぜんこわくない。
カッパさんは、とちゅうで一回転とかしてスゴい!
ぼくはできなかったけど「カッコイイ」って言ってもらえたからいいや。
夜、交番前で待ち合わせ。
おまわりさんに公園で花火をやることを伝えたら、火に気をつけてねって言われてOKをもらえた。
「いっぱいあるね!」
夏休みも終わりに近付き、ホームセンターで大安売りをしていたらしく、おじいちゃんがたくさんの花火を買ってきて、遊んでこいと全部くれたのだ。
最初は一本ずつ遊んでいたけど、そのうち二、三本いっしょに手に持って、くるくる手を回したりしながら楽しんだ。
けむりだらけになっちゃったけどね。
「レン、笑顔がすてきだよ」
カッパさんにそんな風に言われた。
花火の光に照らされたカッパさんのホホが赤くなっているような気がする。
最後の線香花火。
どちらが長くもたせられるか競争した。
ぼくのとなりにしゃがんだカッパさん。
体がくっつく。
でも、ぼくも、カッパさんも、離れようとしなかった。
パチパチと光る線香花火。
ただ何も言わずに見つめていた。
バケツに入った花火のもえカス。水だけをすてる。
おまわりさんに見守ってくれていたお礼を言った。
カッパさんがいつも帰る方へふたりで歩く。
お月さまがあたりをほんのり照らし、道ばたのざっ草では虫たちがにぎやかに夏の歌を歌っていた。
ぼくは勇気を出して、カッパさんの手をにぎる。
カッパさんは優しくにぎり返してくれた。
ゆっくりと、ゆっくりと歩く。
この時間がずっと続きますようにって。
「ありがとう。ここでだいじょうぶだよ」
それでもおたがいに手はにぎったまま。
でも、その手がはなれる。
「じゃあね、また明日」
いつものように、ぼくの鼻に指でちょんとふれて、カッパさんは走っていった。
明日、ぼくは東京に帰る。
カッパさんもそれを知っている。
心の歯車が逆回転を始めた。
もうすぐお別れなんだ。
ぼくはしばらくそこから動けなかった。
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