8月26日(月)


 夜、恵美おばさんにお願いをして、ふたりでお話しをした。


 恵美おばさんはちょっと不安そうだった。


 最初に、ぼくはあやまった。


 ぼくのせいで恵美おばさんを泣かせてしまったこと。


 恵美おばさんはおどろいていた。何で知っているのって。


 ぼくは、お父さんとお母さんが死んでからうまく笑えなくなった。


 笑おうとすると、それを心が止めてしまうって。


 恵美おばさんのせいじゃないよって、そう伝えた。


「どうしてうまく笑えなくなっちゃったの?」


 ぼくはしょうじきに言うことにした。


 お父さんとお母さんが死んだのに、笑っていいのかが分からない。


 悲しんでいないとダメなんじゃないかって。


 本当は笑おうと思ってしまうことがある。


 でも、笑うなんて冷たいよね。


 そんな時はすごくいやな気持ちになる。


 だから、恵美おばさん、ごめんなさい。


 それと、もうひとつ。


 恵美おばさんを「お母さん」ってよべなくて、ごめんなさい。


 恵美おばさんを「お母さん」ってよんだら、ぼくの心の中のお母さんが消えちゃう気がするから。


 ぼくの記おくにあるお母さんは、もうどんどんなくなってきていて、顔も声も思い出せなくなってきている。


 恵美おばさんを「お母さん」と呼んだら、全部なくなっちゃう。


 ぼくのお母さんがなくなっちゃう。


 ぼくはそれがこわい。


 でもね、恵美おばさんにこれだけは伝えたいの。


 ぼくを育ててくれて、本当にありがとう。


 恵美おばさん、大好き。


 お願い、それだけは信じて。


 途中からなみだが止まらず、最後の方は泣きじゃくっていたので、ぼくの気持ちや思いが伝わったかは分からない。


 でも、ぼくの言葉を聞いて、恵美おばさんはぼくをだきしめてくれた。


 恵美おばさんも泣いていた。


 あたたかくて、やわらかくて、とってもいい匂いがする。


 お母さんと同じだ。


 そう同じ。


 だから、いつか恵美おばさんを「お母さん」ってよびたい。


 恵美おばさん、待っててくれるかな。






 ぼくの心につまっていたものがなくなり、心の歯車からはきしむ音が聞こえなくなった。


 歯車がきちんとまわり始めたのかは分からない。


 でも、きっと良い方に進んでいると思う。


 ぼくはカッパの女神様を思い出しながら、そっと自分の鼻を指でさわった。



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