第10話

昼飯は、彼女が弁当を作ってきてくれた。僕たちはその弁当を、博物館の外に置いてある、ベンチで食べることにした。


「これ全部私の手作りなんだ。

料理ってあまり得意じゃないんだけど、ばんばったから食べてみて。

で、感想を教えてくれる?」


僕は頷いた。


「いただきます。」


僕はまず唐揚げに手をつけた。

彼女の唐揚げは、口の中に入れた瞬間、肉汁が溢れ出てきて、肉の味がしっかりと感じられた。

僕は、おいしさのあまり、弁当に入っていた唐揚げを続けて食べ、そして、一息ついたところで、


「めちゃくちゃ美味しかった。

なんて表現したらいいんだろう…

うまくいい現せないくらいおいしいかったよ」


その言葉を待っていたのか、彼女は満足そうな笑みで、小さくガッツポーズをした。


三十分ほど、彼女と話しながらゆっくりと食べていると、久雄さんがやってきた。


「この博物館を選んでくれてありがとうね。

楓珠くん。

そして、これは私からの、ささやかなプレゼントだ」


そう言って、久雄さんは、僕と日和ちゃんにそれぞれサンストーンを渡した。


僕は、久雄さんのこの行動に純粋に感謝して、素直に受け取った。

しかし、日和ちゃんは受け取ろうとしなかった。どうしたのか聞こうとすると、


「失礼ですが、久雄さんはどうしてそうも簡単に、博物館のものを人にあげようとするのですか?

一般的な博物館なら、展示品を人にあげるということはしないと思うんですね。

なぜですか?」


久雄さんは、少し驚いた顔をしてけれど、すぐに笑みを浮かべた。


「ここは、私が館長を務めている博物館なんだ。

それに、楓珠くんにはもう話したけど、この玄武博物館は近いうちに閉館しようと思っているんだ。

だからこうして、未来ある子供たちに、石を配って、少しでもこの場所を覚えていてくれるようにしているんだ。

人それぞれ、石との相性があるから、人間性を見てから、石をわたしているから、まだあまり渡すことができていないんだけどね。

私は、楓珠くんからいろいろと相談されていたから、君の人間性を大体把握していたんだ。

だからこうして初日に石を渡すことがっできたんだ。

楓珠くんには、感謝しているよ。さて、理由はこれで十分かな」


彼女は、ここまで聞くと、否定する理由が思いつかなかったらしい。

大人しく石を受け取り、お礼を言った。


「あと、このことはまだ誰にも言わないでくれるかな。

まだ正式にいつ閉館するかは、決めていないんだ。

また詳しいことが決まったら、私の口から説明するよ」


久雄さんは、僕たちに釘を刺してから、博物館へと帰っていった。


しばらくの間、空白の時間を過ごした。

どちらも何も喋らず、ただ黙々と、食べ続けた。


そして食べ終わると、日和ちゃんは、頬を赤らめながら、


「ねぇ、私のこと、あの人になんて言ったの?

変なこと言ってないよね。ねぇ、教えてよ。

どんなこと話してたの?」


と質問を一気に振りかけられた。

おそらく、食べている間、ずっと不安だったのだろう。

僕は、そうくるだろうと予想していたので、


「第一印象は控えめな性格。

けど、関わってみるとそうではないらしい。

ただ熱中しすぎて、周りが見えていないだけで、話をすること自体が苦手ではないらしい。

そして、何より僕が一目惚れをするほど可愛い。

お世辞に聞こえたら申し訳ないけど、これは僕の本心だよ。

それをそのまま久雄さんに言ったんだ」


冷静な顔でスラスラと彼女の美点を並べていく僕に安心したのか、彼女は笑い出した。


「そうだよね。楓珠くんのことだもんね。

てっきり私の恥ずかしいことを何度も言っているのかと思って不安になっちゃった。

ありがとう。それで、この石にはどんな意味が込められているの?」


「この石はサンストーンって言って、石言葉は色々あるけど、多分久雄さんが思っている意味は、情熱と幸運、そして恋のチャンスかな。

僕たちの関係性が良くなっていくことを願ってるんだと思うよ」


しかし、ここまで話すと、彼女は急に暗い顔になってしまった。

どうしたのかと聞くと、


「この博物館も閉館するんだね……

この村がまた古くなっていくようで寂しいな」


とゆっくりと話した。

そして、彼女からは静かに涙がこぼれた。


僕はどうしていいかわからず、


「この場所を忘れないようにしようね。絶対に…。

だってここは、僕たちの思い出も詰まった場所だもんね」


そう言って、僕は彼女の肩に手を乗せた。

こうすることで、日和ちゃんが安心してくれるとでもいうように。

ずっと手を乗せていた。


僕は、彼女が泣き止みのをも待ってから、静かに、


「じゃあ、移動しようか」


と言って、ゆっくりと歩き始めた。


彼女は僕の後ろについてきて、ゆっくりを歩いていた。

僕は時折、彼女を確認しながらゆっくりと進んだ。


そして、学校前まで来ると、


「今日は楽しかったわ。ありがとう。

けどあんなにも衝撃的なことをこのタイミングで知るとは思っていなかったから、今は感情をコントロールできないの。

また日を改めて、別の場所に行きましょう。

その時は、誘ってもいいかな?」


「今日は、一緒に来てくれてありがとう。

また日を改めて、一緒にお出かけしようね。

それじゃ、またね。」


僕はそう言って、去って行く日和ちゃんに手を振った。彼女は少しだけ笑い、そのまま帰っていった。


しばらくの間、僕が取り残されたような形になった後、ゆっくりと僕も家へ帰った。

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