第8話
こうして、僕に彼女ができた。
彼女は、最初のうちは、控えめな性格と思っていたけれど、話していくうちに、自分の決めたことは、きちんとやらないと気が済まないタイプだということがわかった。
そのため、周りをみることが苦手で、クラスで話もろくにしたことがないらしい。
周りからは真面目すぎて話しかけづらいと思われているかもしれないと彼女は言っていた。
しかし、人と話をすることは苦手ではないらしく、最近は、僕とすれ違うたびに、話しかけにきてくれる。
僕は、その一つ一つがとても新鮮で、とても幸せだった。
しかし、不安もあった。付き合ってから今まで、一度も彼女とデートをしていないのだ。しかし、場所はどこが良いのだろう。
迷った時は、久雄さんに相談しに行こう。
僕はそう考え、博物館へ行った。
そして、久雄さんの反応はこうだった。
「それならここへくればいい。
だって、彼女は石言葉を知らなかったのだろう。
なら、石のことをいろいろ教えてやりなさい。
そうすれば、君との会話の幅がどんどん広くなっていくだろう」
僕は、なぜそこまで断言できるのだろう、と不思議に思いながら聞いていた。
僕には、自信がなかったのかもしれない。
告白も、遠回しでしか伝えることができなかった自分が、今はとても憎らしく思えた。
そして、久雄さんは、なぜここまでして、僕の手助けをしてくれるのだろうという疑問も湧いた。
一度湧いてしまった疑問は、なかなか消えることがない。
失礼かもしれないとは思ったが、僕は、聞いてしまった。
「失礼ですが、なぜ久雄さんは、僕にいろんなアドバイスをして下さるのですか?」
久雄さんは、珍しく悩んでいる様子だった。
そして、ゆっくりと天井を見上げた。
すると、昔の話をするようにゆっくりと話し始めた。
「この博物館はね、結構長い間続いてたんだけどね。
最近は、みに来る人も少なくなってしまって、寂れてしまったのだよ。
だからそろそろ、この博物館は、閉館しようと思ってるんだ。
だから最後に、この場所で、思い出を作ってほしいんだよ。
私があげたジェードをここまで大切に扱ってくれた君には、できる限りのことをしてあげたいと思っただけさ。それが理由だ」
僕は、その言葉を聞いた時、言葉を失った。この人は、ここでずっと翡翠などの石を大切にしてくれる人を探してたんだ。
そして、その人が現れた時、全力で支えようと誓ったんだ。僕には、そう感じた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
翌日、僕は日和を学校の屋上へと呼び出した。
「どうしたのこんなところで。」
日和は、なぜ呼び出されたのかわからないとでもいうような口振りで、キョトンとして答えた。
僕は、今回ばかりは逃げずにしっかりと向き合おうと心に決めた。
「あの、今度の週末。一緒に博物館に行かない?」
僕は、今回はごまかしもせず、正直に述べた。すると、
「嬉しい。まさか、楓珠くんの方からデートに誘ってくれるなんて。」
という、甘い声が帰ってきた。
僕は、その声にとろけそうになってしまいそうになり長らも、正気を保った。
「じゃあ土曜日の朝九時に、校門前集合でいいかな?」
「では、そうさせてもらいます。」
こうして、僕たちは、博物館へデートをしに行くことに決まった。
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