第7話

 翌日、今度は逆に日和ちゃんの方から、校舎裏に来て欲しいと頼まれた。

 僕は、とたんに不安になった。


 本当は彼女には好きな人がいて、僕がそこに入ったところで、意味のないことなのかもしれない。

 もしかしたら、アンダルサイトの意味も知らないかもしれない。

 急に宝石を渡されて、僕の思いと言って嫌われてしまったかもしれない。


 アンダルサイトには、恋の予感という意味があるから、僕が、恋を押し付けてきたと思われているかもしれない。


 不安になりながら、校舎裏へ行くと、そこには、不思議そうにアンダルサイトを眺めている彼女の姿があった。


 僕は、そのそばへ行くと、


「僕の気持ち、わかってもらえたかな?」


 と聞き、答えを待った。

 彼女は、しばらく考えているようだったが、


「いいえ、全く。今日は、この高価そうな石を返そうと思って呼んだの。

 急にこんな宝石を渡されたら、私だって困っちゃうよ」


 僕の中に、電撃が走った。

 彼女は、アンダルサイトの石言葉を知らなかったのだ。

 僕はよろけながらも、アンダルサイトの解説をすることにした。


「昨日、この石を渡した時に言いましたよね。これは僕の気持ちだって。

 この石、アンダルサイトっていう石なんだけど、この石には、愛の予感という石言葉があるんです」


 そこまで聞くと、彼女は僕の言いたいことがわかったらしい。

 急に顔を赤らめて、俯いてしまった。

 僕は、彼女が俯いてしまったとは知らず、話し続けた。


「僕は、あなたを見かけた時から一目惚れをしていました。

 しかし、なかなか話す機会が来ず、会話も昨日が初めてだったと思います。

 しかし、僕の気持ちは、見かけた時から変わっていません。

 僕でよければ、お付き合いさせてください」


 最後の方は、僕も気恥ずかしさで早口になってしまった。

 しっかりと聞いてくれただろうか。

 僕が心配して彼女をみると、彼女も、昨日の僕と同じくらい、湯気が見えそうなくらい顔を赤らめていた。


 しばらくの沈黙の後、彼女が口を開いた。


「込められた石の意味にも気づかず、すみませんでした。

 まさかこの石にこんな意味が込められているとは、思いもしませんでした。

 石って、見て楽しむだけの物じゃないんですね。

 それで、返事ですが、私でよければ、よろしくお願いします」


 次の瞬間、安堵と興奮とで、僕は崩れ落ちていた。


「よかった。」


 僕は、久雄さんが安心した時のように、静かにつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る