第5話 出発する勇者様。
「る、ルクくん……、ちょっとだけ休みませんか……?」
「ミセリア、まだ歩いて10分だぞ」
ミセリアが半泣きの状態で俺の半歩後ろを歩く。
マリアに依頼された俺たちは新しく誕生した精霊に会うべく、アゼサリュームの奥地にある場所、『恵みの泉』へ向かっていた。
向かっていたのだが──。
「ううっ、もう疲れました……。少しでいいから休みましょうよ〜」
ミセリアがすぐにバテてしまい、なかなか前に進めずにいた。
まあ、勇者パーティ結成当初からミセリアは体力が無かったから予想は出来ていた。
ただ、足手まといになるまいと必死について来てくれている。
そんなに必死だとこっちが申し訳なくなってくるんだけど……。
「ミセリア、大丈夫か〜?」
「は、はい……。だいじょうぶ……です……」
だいじょばないそうです。
これは到着する前に帰宅パターンだな。
……しゃーない。ホントは使いたく無かったけど。
「『精霊術・二の星、マユザ』」
俺は
アゼサリュームで魔力を使って精霊術を行うと感覚が狂うんだよな……。
さらにいつもと違うのは霊子だけではない。
「はいはーい!マユザちゃんですぞー!」
「え、急に精霊が現れて……。ええ?」
急に目の前に精霊が現れたことによってミセリアは混乱している。
そう、アゼサリュームで精霊術を使うと、その精霊が召喚される。
というか、精霊術って普通はそうなんだけどね。
アゼサリュームの外で精霊術を使うと契約回路が遠くなって精霊の力だけが送られてくるんだよね……。
と、そんな話はさておき──。
「マユザ、久しぶりだな」
「ルク!しばらく会えなくて寂しかったですぞー!」
マユザは幼女のような体で俺にピッタリとくっ付いてくる。
そんなマユザの頭を優しく撫でてやると、マユザは「えへへ〜」と頬を緩くした。
「ルクくん。誰ですか、その人は」
おっと再会の時間に黒いオーラを放っている方がおりますね。
ミセリアは人を殺し……んんっ!鋭い目つきでこちらを睨んでくる。
「なんだ人間。私とルクの再会を邪魔するなら殺すでありますぞ」
おっとここでマユザ選手!ミセリア選手よりもさらに鋭い目つきでミセリア選手を睨みつける!
これにはさすがのミセリア選手も少したじろいでいます!
「これはどう思われますか?解説のレフィティリアさん」
「そうですねえ……。私ならどちらも切り捨てていますね」
「ここで厳しい評価が下される!さすがは俺への愛があのマリアさえも認めるほど重い精霊だー!」
二人が睨み合いを続けている内に俺は新たに精霊を召喚していた。
剣の精霊、レフィティリア。アゼサリュームにて彼女の名を知らぬ者は居ないほどの力の持ち主で、先ほども述べた通り、俺への愛が異常に重い。
「はあっ!ルクに愛が重いだなんて……。これは私の愛を認めて婚姻を結ぶ気になったのですね!」
ほら、こんな風に。
ちなみに、精霊術を身につけた時、2番目に契約を交わしたのがレフィティリアだったりする。1番目はマリアです。
なぜアゼサリュームはショタコンが多いんだ……。
さて──。
「マユザ、睨み合いはもう良いから『恵みの泉』へ飛ばしてくれ」
「はい!喜んでですぞ!」
おおう、さっきの鋭い目つきとは一転して、一気に敬愛の眼差し。
お前の瞳は仮面かなんかか?
「『ゲート』」
マユザはその場に魔法陣を展開。
辺りは目も開けられない程の眩しい光に覆わた。
♢♢♢♢♢♢
「とうちゃーくですぞ!」
マユザの声が聞こえたと同時に目を開けると、そこにはまだ巨大な湖があった。
これが『恵みの泉』。全て精霊が生まれてくる場所であり、世界樹を支えているものの一つでもある。
「わあ!綺麗ですね!」
まだ昼だと言うのに、『恵みの泉』は星空のような景色を映し出し、万人を魅了する。
ミセリアも綺麗な湖に駆け寄り、目を輝かせている。
「まるで星空みたい……」
「だが湖には触れるなでありますぞ、人間」
突如、マユザがミセリアへと注意喚起とばかりに声を掛ける。
その声にミセリアは「え?」と不思議そうな表情で振り返った。多分「何で?」とか思ってるんだろうな。
俺はミセリアの疑問を解消すべく、口を開いた。
「実は『恵みの泉』には大量の霊子が含まれていて、その湖に触れるとその霊子が体に大量に流れ込んできて、その霊子の負荷に耐えられずに死ぬ可能性があるんだ」
「そうなんですね……。勉強になります」
『恵みの泉』は触れるとマジで危ないからな。精霊ですら死んじゃうし……。
……と、こんなことを教えるために来たんじゃなかった。
「『精霊術・三の星、樹木の大精霊アスタリス』」
俺は精霊術を発動。
何度も言うが、アゼサリュームで精霊術を発動すると精霊が直接召喚される。
レフィティリアを呼んだのは俺らの身に万が一何かあった時に備えるため。
マユザを呼んだのは俺らを『恵みの泉』へ転移してもらうため。(喧嘩するのが目に見えていたからできれば呼びたくなかったけど)
目的があって召喚をしているが、今回も精霊の力を借りる。
俺が精霊術を発動した刹那、辺りの木々が騒がしくなり始める。
そして召喚されたのは──。
「はい。私の名はアスタリス。樹木の大精霊であり、世界の代弁者の一人でもあります」
精霊の中でも4人しかいない上位の存在、大精霊の一角。
樹木の大精霊・アスタリス。
緑色のロングヘアが特徴的な絶世の美女の容姿をしており、彼女を見た瞬間に虜となる男性はおそらく多くいるだろう。
かという俺も初恋は……っと、この話は他3人がいないところでしよう……。
「久しぶりだな。タリス」
俺がアスタリスに声を掛けると、彼女は静かにこちらを見つめて──。
「元気だった……かあああぁああ!?」
突如としてアスタリスが俺の胸に光速すら超える速度で飛び込んできた。
そのせいで湖へ押し出されて危うく落ちそうになるが、霊子で造った結界によって何とか落ちずに済んだ。
危ねえ……。体にも結界を張ってなかったら風穴空いてたぞ……。
俺は懐の方を見る。
アスタリスは俺の胸に顔を埋めてじっとしている。
……うん、訂正。感覚でわかるわ。めっちゃ匂い吸われてる。
「あのー、タリス?」
「……」
「タリスさーん……」
「……」
「タリ……、いい加減反応しろやボケナスがあ!」
「痛ったぁ!?」
俺は全力でアスタリスに拳骨をお見舞いする。
これじゃあ、マリアの二の舞じゃん。
「お前、何やってんだよ……」
「だってえ……」
「だってじゃねえ!死にかけたぞ!」
「大丈夫!蘇生出来るから!」
「トラウマ残るわ!」
相変わらずで安心したけども!
アスタリスは昔からこんな性格で、自分基準で考えてしまう節がある。
それもあってか、コイツは絶対にDVするタイプだなと昔から確信してる。
俺とアスタリスは一旦立ち上がり、みんなの方へと戻る。
「ルクくん、大丈夫でしたか!?」
「あ、ああ。何ともないよ」
戻るなりミセリアからペタペタ体を触られる。
それはいいんだが、他3人の嫉妬の眼差しが怖い!
「何であんな容易くルクの体を触っているのでしょう……」
「ルクは私のモノなのに……!」
「ふふふ……、森たちが言ってます。今すぐあの女を殺せと」
本当に森は殺せって言ってんの?
そんな物騒な森入りたくないんですけど……。
何でアゼサリュームはショタコンしかいないんだ……。
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